第25話 経験こそが糧になる

今回の冒険においてのミスは、ディーの判断ミスということになる。


今のパーティーメンバーであれば苦戦するような相手ではなかった。


トレンドは動きが遅くハッキリとした弱点が存在する。



それが火だ。



火と言ってもトレンドを燃やし尽くして、今回のような大惨事を起こせということではない。


最初から小さな火種を作り、トレンドを弱らせておけばガロの短剣やセシルの盾でも倒すことができたのだ。



魔法はどうしても大火力に目を向けやすい。

そのため森や木という不安要素のことを思って行動に制限をかけてしまっていた。



だが、元々火力を調整して弱らせるだけに止めておけば、簡単に倒せる相手だったのだ。



冒険者でおる以上、出来る事の中で創意工夫が必要になる。

教えられた事から、自分なりのオリジナリティーを生み出すため経験値を積まなければならない。

それはレベルとは違う。己だけの感覚と言える。



そうしなければ本当のピンチを迎えた時に乗り越えることが出来ない。

ボス戦など格上との戦闘で勝利するのは難しくなる。



これらを口で言うことは容易いことだ。



だが、一人前としての力を持った彼らには考える力を養ってほしい。



「今回は自分たちだけで反省会をして、次につなげてほしい」



俺はそれだけを告げて二日後に別のダンジョンに挑戦することを伝えた。



メタルなスライムダンジョンでパーティーとしての動きを知り、レベルを一定数まで上げる。



トレンドの森ダンジョンでは、レベルに余裕があったとしても、判断ミスや経験不足によるパーティーとして探索する上で必要なことを学んでもらった。




次の課題はいよいよ。パーティーとしての戦闘を行ってもらうことになる。



狙うのはオークだ。


人よりも大きな身体。剛腕な力。ゴブリンよりも高い戦闘力。


初心者冒険者にとっての登竜門とも言える。



彼らには二日間の準備期間を与えた。



オークダンジョンは難易度はCクラスではあるが、パーティーとしての強さが必要とされている。


一匹でも厄介なオークを数匹倒さなければならず、ボスであるオークジェネラル討伐を倒すまでを今回の課題として用意した。



オークとはどのようなモンスターなのか?

マップの広さ特性は?

オークジェネラルを討伐する方法は?

ボス戦までかかる時間や、必要な準備など。



冒険者とは、冒険に出るまで多くの準備が必要になる。

それは情報であったり、必要なアイテムであったり、装備の手入れまで様々な準備がいるのだ。



彼らにはその負担を知りながら、俺は様々なところに潜んで彼らの動きを見守った。



時に鍛冶屋で見習い鍛冶師になり。



「オジサン、私のレイピアを鍛え直してほしいの!」


「はっ、新人が何を言ってやがる。こんなもんは新人の仕事だ」



鍛冶師にやってきたレイピアを新人鍛冶師として鍛え直す。



「おっお前、それだけの腕をどこで?いや、お前なんて言ってすまねぇ。どうか、どうか俺を弟子にしてくれ。旦那から技術を学びたいんだ」


「すいません。私は冒険者専門なので、鍛冶師の弟子は取ってません」



完璧に仕上げたレイピア、ガロの短剣は切れ味だけでなく、オークに有効な付与魔法を追加しておいた。




時に魔道具アイテムショップの店員をしたり。



「すいません。回復アイテムと雑貨一般をそろえたいんです」


「はいはい。その辺に適当にあるから見て勝手に購入してね」



ディーを適当にあしらう魔道具作りの魔導師に代わり……



「こちらのアイテムは新人である私が作った者ですが、回復以外に膨満感を与えて、魔法力の回復にも役立ちます。今ならなんと銀貨一枚で12本お渡しです」


「えっえっ?そんな凄い物を?」


「はい。お客様には特別ですよ」


「ありがとうございます」


「いえいえ、私も新人ですので、頑張ってください」



店を出たディーの後ろから魔導師が寄ってくる。



「ちょっとあんたウソ商売するのは感心しないわよ」


「ウソなどついていません。一つ余っていますので、どうぞ」


「なっ!何この回復能力の高さは!!!長年悩んでいた頭痛まで治っている!!!これは何?私でも知らない調合方法でしょ!!!まさか、オークの精魂を使ったの?そんな使い方があったなんて!!!どうか師匠!私を弟子にしてください」


「すいません。私は冒険者専門なので、魔法アイテム作りの弟子は取ってません」



時に情報屋を装ったり。


ガロがスラム街にやってきて情報屋とコンタクトを取る。

冒険者ギルドに乗っている情報はセシルに任せ。

それ以上の情報を求めたのだ。



「よう、クライのおっちゃん。情報を買いたい」


「何についてだ?」


「オークダンジョンの罠と特性についてだ」


「持っていきな。お代はいい餞別だ」


「おっちゃん。ありがと」



ガロが情報やから受け取って去っていく。



「本当にあれでよかったのかい?あれだけ精巧なオークダンジョンのマップは見たことがねぇ一度じゃ覚えきれないほどだ。

へへへ、あんたどこからそんな情報を取ってきた?俺はこの道35年だが聞いたこともないぞ……なぁ、本当にどうやったんだよ。頼むよ。教えてくれ。あのマップの情報があれば俺は一生遊んで暮らせるんだ!!!」


「すいません。私は冒険者専門なので、情報収集方法を教えることはできません」



弟子たちは私の教えを自ら考え、一歩ずつ前進していく姿を見るのはよく勉強している。



彼らの成長は俺の喜びに間違いない。


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