第13話 信頼
姉妹の冒険者を連れてギルド前へと転移する。
「ふぇ?転移?」
「すっすごい。一瞬で帰ってきました」
生徒ではない者に見せるつもりはなかったが、今回は緊急なので致し方ない。
「二人ともいくぞ」
声をかけて冒険者ギルドの中へと入っていく。
冒険者ギルドの中は、
冒険者が仕事を受けるカウンター。
受けた仕事を報告するカウンター。
買取カウンター
三つのカウンターに分かれている。
奥には講習を受ける訓練スペースもあるが、今は必要ない。
二階には冒険者用の食事や酒を飲むラウンジや宿泊スペースも用意されている。
三階には事務職員の仕事スペースがあり、四階にはギルドの幹部の個室がある。
「ハーフラインはいるか?」
俺は冒険者が受けた仕事を報告するカウンターに向かって、職員の一人を名指しで呼び出す。
受付を担当している女性は、見たことがないので新人なのだろう。
美人ではあるが、爪の手入れをしていて態度も悪い。
「はぁ?あなた冒険者?」
「そうだ」
「ふ~ん。ここは仕事の報告するカウンターなので、職員を呼び出すカウンターじゃありません。ダルッ」
面倒なクレーム客が来たという対応で、相手にもされない。
ここまで職員の質が落ちたことに溜息を吐いて、買取カウンターから離れた。
カウンターで対応されなければ、直接会いに行くしかない。
二階へと階段を上がり、彼女たちを置き去りにした冒険者がいないか確認する。
しかし、まだ帰ってきていないのか探し出すことはできなかった。
そのまま三階へ上がり、職員の仕事で目的の相手を見つける。
「ハーフライン」
呼びかけると目の下を真っ黒にした青白い顔をした職員が立ち上がる。
「やぁ、久しぶりだね。シドー」
二週間前に会ったのが最後だが、そのときよりも顔色が悪い。
「寝ていないのか?」
「はは、いったいどれだけ眠っていないのかな。そんなことはどうでもいいさ。今日はどうしたんだ?君はここを辞めた身だろ?」
ハーフラインは見た目こそ弱々しく見えるが、前ギルドマスターと共に働いていた数少ない信頼できる男だ。
「今の冒険者の質はどうなっているんだ?」
「質?質か……また何かやらかしたかい?」
「また?」
「ああ、ここ最近は近隣住民からも苦情が出ていてね。私はそちらの対応に追われているよ」
「だから下にもいなかったのか」
ハーフラインの背中には哀愁が漂い、今にも倒れてしまいそうな雰囲気を放っていた。
「実はな」
俺はダンジョンで見た光景。
三人組の人相や、二人の新人姉妹への行った犯罪行為などをハーフラインへ伝えた。
「そうか……そこまで落ちたか……」
ハーフラインがどれだけのフォローをしてきたのか想像できない。
今回、冒険者が行ったことは、同じ冒険者ならば一番行ってはいけない行為だ。
いくらダンジョンの中は自己責任といっても許される行為ではない。
無法者と言われる冒険者であっても、ある程度の規則やルールは設けられている。
そうでなければただの荒くれ者集団でしかないのだ。
「わかった。シドー。少しだけ俺に時間をくれ」
ハーフラインは深々と頭を下げる。
「お嬢さんたち。確かリリアとセシルだったね。君たちもすまないことをした。たが、決して悪いようにはしない。少しだけ私に免じて時間をくれないか?」
新人冒険者である二人の名前をハーフラインが呼ぶと二人は驚いた顔をする。
「私の名前をご存じなんですか?」
妹のセシルが問いかける。
「もちろんだ。冒険者全ての情報を知っておくのが私の仕事だからね。
君たちが今年冒険者になったばかりなのも知っている。
冒険者の先輩が君たちを指導してくれればいいと軽んじていたこと本当に申し訳ないと思う」
ハーフラインがもう一度頭を下げる。
「……今回、私達はこの方に助けて頂いたので事なきを得ました。
ですが、他の方が同じように助かるのかはわかりません。
本当に冒険者ギルドを信頼してもいいんですか?」
姉であるリリアは厳しい口調でハーフラインへ問いかける。
「必ず、一か月以内には良くして見せる」
真剣な目で三人を見つめるハーフライン。
「一か月以内だな?」
「ああ、一か月以内だ」
「わかった。その間は、この二人は俺が預かろう」
「いいのか?」
「もう、すでに二人ほど預かっている」
ディーとガロの顔を思い浮かべる。
二人が四人になろうと今更問題ない。
「なら、ギルドが保有しているギルドハウスを使ってくれ」
「ギルドハウス?」
「ああ、本来は大型クラン用の施設なんだが、今の冒険者ギルドに施設を使えるほどのクランは存在しないんだ。五人でホテル住まいも大変だろう」
ハーフラインがカギを渡してきた。
「これはせめてものお詫びだと思ってくれ。一か月分の食料も用意しよう」
信頼できる男から、ここまで言われて無下にすることはできない。
俺は受けていいと思ったが、二人の意見を聞かなければならない。
「二人はどうする?」
「……すみませんが、あなたは何者なんですか?」
ここまで連れてきたはいいが、自己紹介もしていなかった。
「俺は冒険者専門の家庭教師をしている。マナブ・シドーと言う。
こいつは冒険者ギルドの副ギルドマスターをしているハーフライン。
今回の問題を解決するまで、お前たちを預かることをハーフラインと約束をした。
その一か月間、お前たちを鍛えようと思う。
家庭教師と言ってはいるが費用は必要ない。どうだ?俺に指導を受けてみないか?」
未だにフルメタアーマーに身を包み顔を見せないセシルがリリアの袖を引く。
「お姉ちゃんも見たでしょ。転移の魔法」
「うん。たぶん凄い魔法使い」
「ううん。お姉ちゃんが気を失っている間に魔物を倒したのは剣技だったよ」
「剣技?」
「うん。きっとあの人について行けば私達強くなれると思う」
「本当に?なんだか色々うさんくさそうだけど」
モンスターとの戦いを見たセシルと、気を失っていて状況についていけないリリア。
どうすれべきか悩む二人に俺から提案を口にする。
「なら、力を試せばいい。二人かがりで俺と戦って指導と受けたいと思えば、一緒にくる。受けたくないと思えば別々でもいい」
俺の言葉に二人は覚悟を決めたようだ。二人とも頷いた。
「ハーフライン。訓練所を借りるぞ」
「好きにして構わない」
俺は二人を連れて訓練所へと向かった。
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あとがき
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