第12話 モンスターパニック
冒険者は同じメンバーでパーティーに臨める者達は稀である。
互いに目的が違っていたり、戦いの違いや仲違い。
常に仲間を入れ替えながら冒険に挑む。
しかし、信頼出来る仲間に出会えるということは貴重なことなのだ。
「あんな奴らが出てくるなんて聞いてないぞ」
「こっちだって知るかよ。それよりも俺らがしたことがバレる方がヤバいだろうが」
「だね。あの二人が死んでくれれば御の字だ」
若い男性冒険者たちが、中級ダンジョンに挑戦して失敗することはよくあることだ。
三人組の会話からも、失敗して何かしらやらかしたのだろう。
彼らが逃げて行く姿を見送ったのは、彼らを問い詰めても意味がないからだ。
ダンジョンで起こることは全て冒険者個人の責任であり、その危険も考慮して挑まなければならない。
ただ、問題を起こす者は一度とは限らないので、顔だけは覚えておく。
そのために気配を消して観察していた。
「ふぅ~まさか、ディーとガロを連れてくるダンジョンの下見に来たダンジョンで、ああいうのを見るとはな」
予想が正しければ、置き去りか、なすりつけ行為をされたパーティーがいるのだろう。
「やれやれだな」
俺は奥へ進んで困っていれば助けるし、手が足りているなら傍観するつもりだった。
少し開けた場所ではモンスターパニックが起こったのか大量のモンスターが倒されていた。
しかし、大量のモンスターを相手にしたのであろう二人組がモンスターに追いやられていた。
全身をフルアーマーに身を包んだ長身が、自身の体を盾にして後ろで倒れている女性を守っていた。
「おい!加勢するがいいか?」
もしも、彼らに余力があり、モンスターを横取りしたと言われてはたまったものじゃない。
「おっお願いします!」
意外にもフルアーマーから発せられたのは女性の声だった。
倒れた女性は意識を失っているのか返事はない。
「任せろ」
亜空間から、魔剣を取り出す。
「一撃で終わらせるぞ」
俺は剣を横薙ぎに光の閃光を放った。
モンスターだけを斬ることが出来る魔剣は、フルアーマーの女性だけを残して群がっていたモンスターを全て切り倒した。
「ふぅ~久しぶりにやるが、大分腕が鈍っているな」
倒れるモンスターの斬られた跡は、思っているよりも随分と荒く斬られていた。
「よく耐えたな。大丈夫か?」
最後まで盾もなくフルアーマーだけで攻撃を耐え続けた女性へ声をかける。
「あっありがとうございます。もうダメかと」
声をかけられたことで、気が抜けたのか女性は尻餅をつくように座り込んだ。
「後ろの女性も大丈夫か?」
眠っている女性に視線を向ければ、まだ少女と言っていい顔立ちをしている。
「あっ!お姉ちゃん。お姉ちゃん!もう大丈夫だよ。私達助かったんだよ!」
身体を揺すられて目を覚ました少女が、ガバッと勢いよく目を覚まして、体の横に置かれたレイピアを持って立ち上がる。
「モンスターどこ?次は?」
自分が気を失っていたことすら忘れて立ち上がって剣を構える。
「お姉ちゃん!もう大丈夫なの」
フルアーマー女性に諭されて、少女はやっと状況を理解する。
「ハァ~生き残ったの私たち?」
やっと状況を理解して座り込む。
本来ならば立つのもやっとなほど疲労していたのだろう。
「良かったら二人とも、これを飲め」
俺は体力回復用のポーションを渡す。
「えっ?誰?」
剣を持った少女は、警戒して剣をこちらに向ける。
「お姉ちゃん!やめて、私達を助けてくれた人だよ」
「えっ?!」
「警戒するのもわかるが、今は体力を回復するのに務めろ。まだここから脱出する必要もあるんだぞ」
俺は先輩として声をかける。
大きなピンチから脱出したと言っても、全てのモンスターがいなくなったわけじゃない。
モンスターパニックが起きた広場は、モンスターがいなくなれば一定時間安全地帯になるが、ずっと平和というわけじゃない。
「これってポーション?」
「えっ、ポーション?あの高いやつ?」
姉の方がポーションを見て驚きを口にする。
妹の方は知らなかったのか、すでに口をつけていた。
「うわっ!凄いよ。お姉ちゃん。凄く楽になった」
妹の反応に姉もポーションを飲む。
ポーションは自己治癒力を上昇させるだけでなく体力回復の役にも立つ。
二人の疲労感も紛らわせてくれる。
「よし。もう立てるだろ。ダンジョンの外までは付き合うぞ」
「なっ何が目的?」
姉の方が自分の身を守るように体を抱いて身を守るような姿勢を取る。
「うん?目的?お前たちを無事にダンジョンに外に出すだけだが?」
「そういって変なところに連れて行って私達を襲うつもり?」
「はっ?襲う?お嬢ちゃんを?」
確かに顔は美少女ではあるが、明らかに成長していない身体。
ガロやディーと変わらない年齢。
女性としての魅力は、好きな奴は好きだろうが……俺にはちょっと……
「ごっごめんなさい。お姉ちゃん!そんなこと言ったらダメだよ」
「だってそうじゃない。ここまで連れてきた奴らも最初は親切にしていたくせに、ここに着いたら急に態度を変えて襲おうとしてきたじゃない」
「それは……」
二人の雰囲気が暗くなる。
どうやらさっきの三人組は、置き去りでもなすりつけでもなく。
彼女たちを襲って悪さをしようとしていたようだ。
「そういうことか……一番最悪じゃねぇか」
俺はあまりにも腹が立って岩を吹き飛ばしてしまう。
「お前らは新人か?」
「はっはい」
「……そうよ」
妹は俺の質問に驚き、姉は少し戸惑いながら返事をする。
「新人を食い物にする奴はクズだ。そういうやつらだけは絶対に許せねぇ」
殺気が漏れでてしまったからか、妹は震えだし、姉は妹を抱きしめる。
「ちっ…ふぅ~すまん。お前たちは被害者だ。ここにいても何も解決しない。いくぞ」
「ふぇっ?いく?」
「どこに?」
「もちろん。冒険者ギルドだ。あいつらに灸を据えてやる」
俺は二人に有無を言わせず、指を鳴らした。
パチン
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あとがき
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