第10話 シーフの初級指導

ガロを連れて、自宅へと帰宅した。

ディーは一日中、中級訓練をしていたのか、床に倒れるように眠っていた。



「ディー起きろ」


「はっはい!あっ、先生おかえりなさい」



寝ぼけているのかディーが大きな声を出す。



「ディー、新しい生徒を連れて帰ってきた。紹介するから顔を洗ってこい」


「ふぇっ?あっはい!」



自分が寝ていたことを思い出したのだろう。

跳び上がって顔を洗いに行った。



「さて、ガロ。ここが今日から寝床になる。アパートではあるが、まだいくつか空きやがあるから空いてる部屋を使え。ベッドは部屋に置いてあるから、帰って来る前に買った着替えを直して戻ってきてくれ」


「ああ、わかった」



ガロは教会から戻ってきてから随分と素直になった。

家族の安全を確保できたこと、自分が強くなるために心入れ替えたようだ。



「もっ戻りました!」



何故か顔はビショビショ状態で敬礼するディーが戻ってきた。



「ガロは、今片付けに向かってもらったから。お前も身形を整えてこい」


「ふぇ?」



ディーは真面目ではあるが色々と抜けているところがあるので、しっかり者のガロが補ってくれればいいが。



「ガロ。俺の生徒、で魔法使いのジョブをしているディーだ。

ディー。こっちはシーフのジョブを教えるガロだ」



二人は年が近いので仲良くなってくれればいいが、どうだろうか?



「僕はディー。冒険者ランクDの魔法使いだ」



ディーが右手を差し出すが、ガロは怪訝な顔をする。



「おいおい、こんなヒョロヒョロで弱そうなやつが生徒で大丈夫かよ?」



ガロは寝癖を残して、見た目にも強そうに見えないディーを批判して俺を見る。



「ふむ。ディーはお前の先輩になる。だが、冒険者が実力主義であることもまた事実だな。いいだろう。ディー、炎を使わずにガロを圧倒してみせろ」



これはガロだけでなくディーに対する課題でもある。



「炎を使わずに!!!それって……はい。わかりました」



どうやらこの一週間ほどでディーはここまで成長させることに成功したようだ。



「いいのか?こんなヒョロヒョロした奴に負けないぜ」


「ガロ。お前もナイフは無しだ」


「はっ。いいぜ」



ガロが飛び跳ねるながら、ディーと距離を取る。

ダンカンに勝利したガロは己の身軽さを理解して、敵との間合いが大切なことを理解したようだ。


俺がダンカンと戦うときに教えたのは、大振りする敵はスキだらけなので距離を取って相手をよく見ろと指導した。

そうすることでガロは一歩下がってダンカンを見てから股間を蹴り上げた。



「来ないのかい?」



動かないディーはじっとガロを見つめる。



「はっ!いいぜ。行ってやるよ」



ダンカンのようにむやみやたらと、殴りかかってくる奴は攻撃の後にスキが出来る。

だが、誰よりも冷静な判断をするように教えてあるディーは、俺が教えたことを守るように冷静にディーを観察して自分がとれる解決策を導き出していた。



「はっ」



殴りかかるガロは、フェイントを加えてディーを翻弄しようとする。

しかし、ディーはガロが向かってくると同時に間合いを詰めて体当たりした。



「グエッ!」



ガロが潰れたケロックのような声を出す。


二人がぶつかり合ったのは1秒もない少しだけ。


だが、ディーはその一瞬に合わせて肩に魔力を纏って肉体を強化した。



「見事!」



俺は拍手をする。


もしも、ガロを捕まえようとしたり、殴ろうとすればガロの素早さならば対応出来ていただろう。


だが、ガロよりも身長の高いディーがただぶつかりに来るだけならば、ガロのどの部分に当たっても衝撃を与えることが出来る。



「うっ。痛って」


「どうだ?先輩は強いだろ?」


「なんであんなヒョロヒョロのくせにこんな強い攻撃?」



未だに立ち上がれないガロに俺は近づいて屈んで視線を合わせる。



「お前は強い奴に立ち向かえる勇気がある。

だが、相手の見た目で弱いと見下し、相手を舐めて油断した。

シーフとしては最悪の選択を選んだということだ」



ガロは俺を睨みつけていたが、深々と息を吐く。



「わかった……俺が悪かった。ディー先輩あんたは強い」



ガロは自分の非を認めガロに謝罪を口にする。



「構わない。実際、単純な戦闘ならば君の方が強い。だけど、先生に教えてもらっていない君なら何度でも勝てると思うよ。でも、先生に教えてもらうようになれば君も強くなる」



俺はディーにポーションを渡してガロの介抱をさせる。


ディーはガロに手を貸して座らせてやり、ポーションを飲ませた。



「それにしてもシーフとして最悪ってなんなんだ?」



ガロは俺が言った言葉が気になったようで質問を投げかけてくる。

ディーも同じようで視線を向けられた。



「シーフは、冒険者という仕事の中で、一番特殊な仕事であると同時にもっとも重要な仕事だ。


シーフは戦闘のスペシャリストじゃない。


探索

調査

発見

解除

設置


など工作員としての役目の方が多い。

そのため、誰よりも知識と観察眼が必要になる」



俺は宝箱を取り出してガロの前に置く。



「この宝箱は、罠か?罠じゃないか?どうすれば開けられるか?」



これはシーフとしては初級指導になる。



「そんなの分かるわけがないだろ!?それに鍵がかかってるなら開けられるはずないだろ」


「本当にそうか?お前は宝箱を本当に観察したのか?宝箱は鍵がかかっているのか?」



ガロはじっと宝箱を見つめる。


ディーはそんなガロの横で、宝箱を持ち上げて簡単に開けてしまう。



「へっ?」


「何もないですね」


「なっなんだよそれ?」


「確かにこの宝箱は何もない。これが通常の状態だ。

じゃあ、中に物が入っているか確認する方法は?

罠があるか見極める方法は?

それらを知ることがシーフとして初級指導になる。

ガロ、お前には知識を誰よりも持ってもらう」



俺は二冊の百科事典をガロへと渡した。


一つは、文字を知るための百科事典。

文字を読めなければ、調べることも出来ない。


もう一つは、毒草や罠などダンジョンで知らなければいけないことを、俺がまとめた百科事典だ。



「この二つを読破しろ。必ず二回読め」


「やってやるよ。それで強くなれんだろ?」


「強くなれかはお前次第だ」



俺はそれ以上語ることなく夕食の準備を始めた。


ガロは文字が読めないようで、最初はディーが付いて本を読み始めていた。

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