第23話 弟分

【冒険者バッツ】



俺の名はバッツ、今回の討伐でDランクに昇格が決まった冒険者だ。


疫病神を追い出してから、運が向いてきた。


ギルドマスターのハンズ・バンさんは俺らみたいな将来有望な新人の味方だ。



「おう、バッツ。上手くやっているか?」


「あっ、B級冒険者のオーボさんじゃないですか。おはようございます」



オーボさんは何かと目にかけてくれる憧れの兄貴分だ。



「ああ。最近はギルドも上位冒険者の出入りが増えているからな。お前らみたいな新人は貴重だぞ」


「ありがとうございます」



オーボさんはギルドマスターの甥っ子で、B級冒険者をしている。

何度か冒険の手ほどきをしてもらったことがあり、優しくて強い先輩だ。



「オーボさんは、どんな仕事をしているんですか?」


「俺か?俺はちょっと前に失敗しちまってな」


「オーボさんでも失敗することがあるんですね!」


「おいおい、俺はまだまだB級冒険者だぞ。失敗することもあるさ」



オーボさんは謙遜するように自分を下げる。

失敗したと言いながらも傷一つ負っていない。

危険を察知して上手く回避したのだろう。



「どんな失敗だったんですか?勉強のために教えてください」


「お前は勉強熱心な奴だな。俺らが中級ダンジョンに挑んでいる時だ。

何度か制覇を果たしている階層だったから油断もあったんだろうな。

モンスターパニックが突然起きてな、仲間を二人も失っちまったよ」



ベテラン冒険者になれば危険とは隣合わせだ。

俺らがモンスターパニックに遭遇したらと思うと身震いしてしまう。



「ヤベー状況だったんですね」


「ああ、命からがら逃げられたのはあいつらのお陰だな」



仲間のことを思い出して、憂いを帯びた顔をするオーボさんに息を飲む。


いったいどれだけの修羅場をくぐれば、仲間の死を乗り越えられるのか?

あの役立たずが野垂れ死のうがどうでもいいが、他の仲間たちの死は堪える。

最終的に自分だけは生き残ればいいが、情がないわけじゃねぇ。



「大変だったんですね」



俺が肩を落とすと、オーボさんに肩を叩かれる。



「冒険者をしていたら、色んなことがあるからな。気を落とさずに行こうぜ」



オーボさんの心は鋼のように強いんだろうな。

俺もいつかはそうなりたいもんだ。



このギルドは最高だぜ。

強い者が生き残り弱い者は淘汰される。


同期の奴らはほとんどが冒険者を辞めて、顔を見なくなった。

力の無い奴はやめていけばいいんだ。


目障りなのは、たまに見るあいつだ。


落ちこぼれの癖にたまに冒険者ギルドに現れやがる。



おうおう、今日もやってきた。



「おいおい、ここは落ちこぼれがくるところじゃねぇぞ。なぁディーよ」


「また君か。バッツ、君は暇なのか?」



少し前まではオドオドと情けない顔をしていた癖に、最近は偉そうにも俺様に意見してきやがる。



「ハアァーお前何様のつもりだよ。俺はDランク上がったバッツ様だぞ。

お前みたいな落ちこぼれで、万年見習いとは違う存在なんだよ」



こいつを見ているとイライラが止まらないぜ。


弱いくせに冒険者に憧れてますって顔しやがって、目障りで仕方ねぇ。



「ディーの兄貴?こいつは?」


「僕の元パーティーメンバーでね。気にしなくていいよ」


「あぁ?なんだこのガキ?」


「ガキじゃねぇ。ガロだ。木偶の坊」



なっなんだこの生意気なガキは?

しかもディーのことを兄貴と呼んでやがる、頭がおかしんじゃねぇのか?

こんな役立たずの落ちこぼれに兄貴と言われる価値すらねぇ。



「ほう~ガロ。お前なかなか生意気じゃねぇか。どうだ?ディーの弟分じゃなくて俺の弟分にならねぇか?小間使いぐらいにはしてやるよ」



そうだ。ディーに弟分がいるなんておかしい。

俺にこそ相応しいはずだ。



「はっ?兄貴。こいつ頭おかしいのか?」


「そうだね。ちょっとアレなんだと思う。だから相手しない方がいいよ」


「まぁまぁちょっとからかってやるよ」



二人がコソコソと話をしている。

どうせどうやって俺のご機嫌を取るか考えているんだろう。

くくく、所詮はディーの弟分。俺が怖くて仕方ないんだろうな。



「なぁあんた。あんたは強いのか?」


「見て分かるだろうが、この筋肉を」



俺はモンスターを倒して鍛えらえた筋肉を見せつけるようにポーズをとる。



「あ~そういうのはちょっとな。ハァ~なんか相手するのがバカらしくなってきた。とりあえずは、ズボン履いた方がいいぞ」



ディーの弟分に言われて足元を見れば、いつの間にかベルトがなくなってズボンが落ちていた。


他の冒険者から視線が集まり、笑われている。

最近、受付嬢として入ったばかりの気になっているギャルまでこっちを見てやがる。



「くっ!なっ何が」


「あっ、これ落ちてたぞ」



そういってベルトが投げよこされる。

こいつが取ったのか?いつ取った?全然気づかなかった。



「これに懲りたら、ディーの兄貴に対する態度を改めるんだな」



ガロとかいうガキはそれ以上話すことはないと言って、ディーと共に冒険者ギルドを出て行こうとする。



「まっ待ちやがれ」



俺は慌てて追いかけようとしたが、ズボンが足にひっかかって転倒してしちまった。



「くっ覚えてろよ。この借りは絶対返してやるからな」



俺はディーにいつか痛い目を見せてやることを心に誓った。



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