第4話【水着】


「ボクはプールに行きたいんだ!」

「猫な上にロボットだけど大丈夫?」


 当然だ、と無い胸を張る青猫。確かに、普通にシャワーとか浴びてるし大丈夫なのだろう。雨に濡れても壊れてないしな。

 しかしプールか。所謂ボッチな僕には無縁だと思っていたけれど二人でなら行けないこともない。カップルというよりは子連れみたいなものだけど。


「プールに行くなら水着が必要だぞ。持っているのか?」

「持ってるわけないじゃない」


 胸を張るな。無い胸を。





 して某百貨店に到着。思えば女の子と二人で百貨店に来るなんて初めてのことだ。隣を歩く青猫はというと超ご機嫌さん。

 向かう先は勿論水着コーナーだ。


「おおおおーー! 君、見てくれ! 水着がこんなにいっぱいあるぞ!」

「そりゃぁ水着コーナーだからな。青猫、好きなの選んで来いよ。僕は男性用のコーナーにいるから」

「な、何を言ってるんだ君は。ボクの水着は君が選ぶのさ。当然だろ? これだから童貞は……」

「当然なのか!? いや童貞は関係ないだろ!」


 女の子の水着を選ぶなんて高難易度ミッション、学生時代の男女ペア肝試しでビビらずにゴールするくらいの難易度だぞ!?

 どうする? 青猫に似合いそうな水着……やはり青か? それとも……いや、そもそもビキニにするのかワンピースタイプにするのか。しかし、最近の女の子の水着は種類が多いな。あの普段着みたいな水着っぽくないのも悪くないんじゃないか?

 いや、青猫のことだ。水着らしくないとか言って悪態をつくやも知れん。ならばやはりビキニ。待て、想像……妄想しろ、僕。あの平らなロリボディにビキニはどうなんだ? ありなのか? なしなのか? くそぅっ、僕にはわからない!

 となると無難なワンピースタイプの水着に落ち着くわけだけど、しかしその中のどれにするか。子供っぽいのが似合うのだろうけど、青猫は子供扱いを嫌う傾向にある。だからと言って大人の魅力を持ち合わせているわけでもない。

 考えていても埒があかない。ならばここは、取り繕わずに童貞の妄想を詰め込んでやる! ロリボディを最大限に活かす水着を見つけてみせる!


「あっ! ボクこれに決めた! 見て見て君! シンプルで泳ぎやすいと思うんだよね、この水着」

「……ん、あぁ、そう? え、それでいいの?」


 それスクール水着やん。

 ロリボディを最大限に活かしてますね、はい。


 どうやら僕の出番はなかったようだ。


「君の水着はこれにしよう! 店員さん、お会計よろしく!」



 水着を買った後、適当に腹を満たし帰宅。

 僕は一人、珍しく湯槽に溜めたお湯で身体を温めていた。自分で言うのもなんだけど一丁前に入浴剤なんか入れてみる。森の香りらしい。


 しかし、プールか。泳ぎ方、おぼえてるかな。と、そんな不安は次の瞬間には吹き飛んだ。


「やぁ、一緒に入ろっ!」

「なぅぁっ!? バカ! おま、ちょ、何入って来てんだ!?」

「あれれ〜? どうしたんだい〜?」


 まさか照れているのかい? なんて、クスクスと悪戯に笑う青猫は僕の動揺を物ともせず、そのか細いロリボディを覆うバスタオルを勢いよく取り払った。


「じゃーん! にしし、がっかりしたかい?」

「……み、水着……」

「クスクス、君の顔ときたら、プククク」



 ——ちゃぷん


 狭い。

 何故狭いか説明しよう。僕一人でも脚を伸ばせない湯槽に、あろうことか僕と青猫二人が浸かっているからだ。


「お、おい、青猫。あまり見るなって」

「わ、わわわ、わかってるって……し、仕方ないじゃないかっ……狭いんだから」

「せめて反対向いてくれよ……童貞には辛い」

「仕方ないなぁ。よいしょっと。これでいいかい?」


 青猫の背中が僕に向けられる。それにより青猫の身体が更に近くなる。失態だ。青猫が向こうを向いたことで背中が僕の胸板に密着する形になってしまった。これは……


「おい君、もう少し脚を開いてくれ。座れないじゃないか」

「座られると困る」

「どうしてさ?」


 ええい、どうしてもだ! わざとか? 天然か?

 僕は堪らず湯槽から出る。


「もう出るから、あとは勝手にしろ」

「ちょっと待ってくれ。君、まだ頭を洗ってないじゃないか。ボクが洗ってやるから、そこに座るんだ」

「べ、別にいいって……」





 結局、押しに負けて洗髪を任せることとなる。青猫の指が僕の髪の間で踊る。時折、青猫の胸が——胸らしきものが背中に当たる。

 やけに念入りに洗った後はシャワーで泡を流し完了。時間をかけただけあり、とても爽快な気分だ。


「ボクの髪も洗ってくれよ」


 洗ってもらっておいて、嫌とは言えない。僕は青猫の髪を洗ってやった。


 その夜、僕が中々寝付けなかったことは、言うまでもないだろう。







 そして次の休日、僕たちは朝から某有名遊泳場に来ていた。到着後は更衣室で水着の入った鞄を開けた。青猫チョイスの水着が僕を出迎える。


「青猫のやつ……」


 数分後、青猫と合流。

 スクール水着がお似合いの青猫は僕を見てクスクスと笑う。やがてその笑みは爆笑へと派生した。


「あはははっ、君、似合ってるじゃないか、あははは!」

「お前が選んだんだろーが! 頑なに見せないと思ってたら……」

「ブーメラン! きゃははははっ!」


 憎たらしいやつめ! くそぉ、こんな姿を友人にでも見られたら……待てよ? 大丈夫だ。

 僕に友人と呼べる人なんていないじゃないか。

 そうと決まれば、


「泳ぐぞ、青猫!」

「おー!」



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