第6話 知らない人から貰ったのです

「モエは魔法が使えなくて役に立ってなかったですから、せめて迷惑をかけないようにって回復はこの薬草汁を飲んでしていたのです」


「──気にしすぎ、なんじゃない?前衛も含めての回復が神官系ジョブの役割なんだから」


 魔法の使えない魔法使いが前衛であるというのもおかしなことではあるが、フィナ自身が弓を使えないで前衛をやっているから自然とそう口にしている。


 ガサッと茂みをかき分ける音。聞き慣れた足音の主はまだモエたちを視認していない。


 茂みから鼻先が出たところが勝負とばかりに抜いたフィナの剣はその活躍を見せることはなかった。


 どうやったのか一気に最高速に達した鉄球がイノシシの横っ面を陥没させたからだ。


「役に立ってないなんてことは無いと思うけどね」


 鉄球自体の重さが150kgだと聞いている。


 そんな馬鹿なと持ち上げようとしたフィナが腰を痛めかけたのだからそれは信じるとして、今の初速。


 隣にいたフィナが剣で仕掛けるより速くその鉄球は的に命中していた。


 当たる直前のスピードもさることながら、振り出しをフィナは見ていない。


 どんなに馬鹿力に恵まれていてもそこが見えないなど無いはずなのに。


「モエちゃんはどれだけ力自慢なのよ」


「えっ?えぇー。モエはそんな事ないのですよ⁉︎普通の女の子なのですよ」


 フィナにはもはやモエが自分と“同じ”役立たずではないと思っている。


 突進を主な攻撃手段としているイノシシはその魔力を攻守共に役立つ“硬化”に特化させて纏っている。


 それを一撃というのはフィナの知るところでは他に居ない。


 もっと格上の冒険者や強力な武器持ちならいるだろうが。


「ということはその鉄球に何か仕掛けがある、という事なのね」


 モエの汁も謎だが鉄球も十分に謎である。


 しかしフィナはその鉄球がただの鉄だとは最初から思っていない。


 何故ならここに来るまでモエは犬の散歩のように地面を軽く転がしていたり、時には小脇に抱えていたりしたのだから。


「この鉄球は貰い物なのですよ」


「貰い物?」


「そうなのです。あれはモエがまだ10階層にいた頃のこと──」


 その頃はレベルが10に差し掛かったころで、他のメンバーも同じくらい。


 出てくる敵はまだ小物ばかりだが他のパーティでも魔法使いが活躍を始めた頃の話。




「他の魔法使いはみんなファイアもウォーターも使えるのにモエはなんでダメなのですか」


 魔導書も初級であれば魔法使いによる複製でギルドが格安で提供している。


 この時にはモエもその2つとウィンドを習得していたはずである。だが──


「ファイア」


 この時すでに、というよりは最初から火とは思えない赤い水が出るばかりで手元から落ちて地面を濡らしたあとは何も残らない。


 青い水と緑の水も同様だ。


「やっぱりモエの魔法スキルのこれが──」


 モエには最初から魔法スキルが備わっていた。


 生まれた時よりみな、何かしらのスキルを持ってはいるがモエのそれは一般的なスキルとは少し違っていたようだ。


 固有スキルとされるそれはオリジナル性が強く、開花させることが出来た者はみな上位の冒険者に登り詰めている。


 だからこそモエも魔法使いであることを周りも強要したし、おじいちゃんとの約束もあってモエはジョブチェンジなどもしていない。


 ふと、思い悩むモエは街の片隅にうずくまる男の姿を捉えた。


 みすぼらしいボロ着を身につけた汚れた男だ。


 髪の毛もいつ切ったのかわからないほどに伸ばし放題で、それは髭も同じである。


 ガリガリに痩せた身体は垢だらけで見るからに不潔。


 なのにモエはそんな男を汚いとか気味悪いとか思う事なく見つめて気がつけばそばにまで寄っていた。


 そしてその男の左足首にはめられた枷にもその時に気づいたのだ。

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