第7話 本音

第7話


その声を、俺は識っている。


解らない筈がない、間違うなど決して有り得ない。


俺に兄だと問いかける彼女は…


「ひ、久し振りだな、真美まみ…」

「うん♪久し振りだね、お兄ちゃん♪」


俺の実妹、十六夜 真美だ。


可愛くて、小さくて、目に入れても痛くない俺の最高で最強のマイエンジェル。


だが、それがいけなかった。


何故なら、今の俺は…


「うっ、すまん…少しトイレ行ってくる……」

「はいはい、行ってらっしゃい先輩。」

「えっ…う、うん……」


と、快く俺を送る未來に対して、少し悲しそうな顔を見せる真美。


そう、俺のコレは実妹も例外ではない。


実の母親でさえ対象だったのだ、そう現実が上手く行く筈もない。


「おえ゛っ!!ああ、クソっ!!!!」


どうしょうもなくムカつく。


妹があんな目で俺を見る筈がない!


母さんがあんな表情を俺に向ける訳がないんだ!


それなのに、それなのに俺は!!!!


「ちくしょう…ちくしょう……」


…どうして、俺の心はこんなにも悲鳴をあげるんだ?


…どうして、家族さえも拒むんだ?


…俺は一体、どうすれば良いんだ?


「誰か…助けて……」


思わず言葉を漏らしてしまった。


そのせいで、少しずつ俺の目から涙が溢れる。


一度溢せば、もう止まらなかった。


此処はファミレスのトイレだというのに、感情の暴走を止めらなかった俺は………


「………ううっ、………クソがっ!」


情けない話だが、数分の間ずっと、泣き続けてしまったのだった。


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真美side


「もう!久し振りの再会なのに!」

「仕方ないでしょ、今の先輩はなんだから…」

「解ってるわよ!だから、ムカついてるのよ!」


ああ、本当に腹が立つ。


愛されてる癖に、両思いな癖に!


「何でフッたのよ、先無のクソ女!」

「私はフッた訳じゃないと思ってるし、先輩はそう言ってないでしょ?」

「いや、絶対にそうよ!お兄ちゃんがああなった日から、何か変だもん先無!」


あの日から様子が可笑しいし、何か無駄に離れた女子校に行くし!


「それに、お兄ちゃんが先無のゴミ女以外で可笑しくなる事なんて皆無でしょ!!!」

「いや、まぁ、それはそうなんだけど……」


でしょ?


…それに、言いたい事はまだある。


「何で未來は範囲外なのよ!何でそんなにくっついても平気なのよ!」

「…色々と事情があるの。それにコレはそうなに嬉しい物じゃない。」


と、未來はいつもそう言う。


毎回、何度も、悔しそうで悲しそうな顔で。


でも、私はお兄ちゃんと触れ合える未來が心の底から羨ましい…


…忌々しい位に妬ましいのだ。


こんな感情を向けるのは、先無のクズ女以来だ。


私はずっと見てきたから識っている。


先無のバカ女も、私の親友な未來も…


…お兄ちゃんが心の底から大好きなのだと。


それは私だって同じなのに…


どうして、私は…


「…同じ場所に立てないの?」


思わず声に出してしまう。


慌てて口を閉じるが、よく見ると未來は眠そうに首を揺らしていた。


良かった、聞こえてなかったぁ………


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未來side


「良かった、聞こえてなかったぁ………」とか可愛らしい事思ってるんだろうなぁ。


うん、通常運転で可愛らしいね。


ぜひ、その真美にはそのままで居て欲しいよ。


「…本当に嬉しくないんだよね、真美。」


と、真美に聞こえない様に呟く。


だって、私が例外なのは本当に酷い理由なのだ。


ずっと昔から自覚はしているし、それでも頑張るつもりではいた。


……………………でも、コレは相当キツい。


「もう呪いじゃん。」


初めて先輩に会った時から続く痛み。


感じない様に、疼かない様に目を逸し続けてたのに、先輩の女性恐怖症が全てを台無しにした。


私はずっと見てきたから識っている。


先無さんも真美も、劔先輩が心の底から大好きだって事を。


でも、だからこそ現実は残酷なのだ。


「どうして、私は同じ場所に立てないんですかねぇ…」


ああ、大好き。


愛してます、劔先輩。


貴方の顔を見る度に、体に熱がこもる。


貴方の声を聞く度に、蜜が溢れ出す。


貴方の存在が、私の生きる理由なんです。


だから…


「…………………………………私を見て。」


と、決して叶う訳もない夢を、今日も今日とで無駄に垂れ流し、浪費する未來ちゃんでした。


続く

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