#19
「いってらっしゃい」
元気よく手を振りながら6人姉妹の末っ子が旅立って行った。
それを彼女は小さく手を振って見送る。優しく微笑むその目元には随分とシワが増えた。
「あの子も旅立ってしまいましたね、アナタ」
旅立つ我が子の背中が見えなくなるまで見送って、彼女は寂しげに呟く。
「みんな上手くやってるでしょうか」
「おまえの子だからな。いろいろとやかしてはいるだろうな」
「そうですね……でも、アナタの子ですから、何だかんだでどうにかしてしまうのでしょうね」
「それもそうだな」
「私とアナタの子供たちですよ。きっとみんな大丈夫ですよね」
「あぁ、俺たちの子供だ。みんな大丈夫だよ」
彼女はするりと俺の腕に自分の腕を絡ませ寄り添うと、そっと俺の肩に頭を乗せた。
「寂しいか?」
「少しだけ……でも私にはアナタがずっと傍に居てくれますから」
甘えるように呟く彼女を不覚にも可愛いと思ってしまう。
月日が過ぎて、年老いて彼女も大分落ち着いたものだ。
しかし、何年経っても、どれだけ歳をとっても、俺の中の彼女への熱は治まることを知らない。彼女の事を思うと愛おしさが頭を溶かしていく。
「久し振りにふたりっきりだね」
満面の笑みを浮かべる彼女のその表情は、まだ俺たちが若かったあの頃を彷彿とさせる。
よく泣かせていたあの頃。
彼女がポンコツヘタレのクソザコで、虐めて、からかって、弄んで、散々泣かせてきた時に見た泣き顔。
でも、その泣き顔以上に俺は彼女のこの笑顔を何度も見てきた。
俺の名前を呼びながら駆け寄ってきては偉そうにベラベラと延々に喋り倒しては俺に泣かされる事を繰り返してきたわけだが、彼女は気がついてないだろう。
俺を見つけた時の自分の表情を。
それからも彼女はよく笑っていた。もう初めて会ったあの時の冷めた無機質な表情を思い出せなくなるぐらいに。
「そうだな。久しぶりにふたりっきりだし。思い出話でもするか」
「いいですね」
「まず、結婚式の時におまえがドレスを破って泣き出した話を……」
「アナタ……やっぱり思い出話やめません……?」
「まだまだあるぞ」
ひとつひとつ振り返って思い出話をする度に彼女は過去の自分の醜態を思い出しては顔を赤らめ俯いていく。
「もぅ……許してぇ……」
「くくくっ、恨むなら過去の自分を恨むんだな」
「あぁ……なんで私はあんな恥ずかしい真似を……」
両手で顔を覆ってぷるぷると震える姿にどうしても口元が緩んだ。今も昔も変わらずに可愛い奴である。
「アナタ……私、目標があったんです」
「へぇ」
「気になります?」
「いや別に」
「…………」
「あー……わかった。わかったから。そう睨むなって。気になる気になる」
「ホント興味無いんですね……」
「おまえの事だ。いつも泣かされてたから、いつか俺を泣かせるとか、そんなところだろ?」
「…………」
「はい、当たり」
「もう……!もうっ……!アナタって人は……!」
「はははっ、俺を泣かせるなんて、おまえには死ぬまで無理だよ」
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