七夕

黒咲蒼

第1話




 織姫と彦星は1年に一度会える。


 そのためにお互い仕事を頑張っている。


 しかし、本当に一年に一度しか会えなくて、平気で仕事を頑張っているのだろうか…?


 時には、ネガティブな感情が芽生えるのではないだろうか…?


 そして、何もかも頑張ったのに、もう一生会えないと…


 もしも、


 もしも、そんな、


 そんな現実があったら、



 彼はどうなるのだろう…………








 雨が降り続いて、憂鬱な梅雨のある日に、彼女の訃報は届いた。






 部屋で1人、首を吊っていたらしい…



 新聞の隅っこに、ひっそりと書いてあったにも関わらず、私の目にはしっかりと入り込んできた。



 彼女と私は、幼なじみだった…



 幼なじみだから、ある程度交流はあった……


 そんな人物が死ぬ…


 そんなことを考えて日々生きているだろうか…


 よく本などで、「世界がモノクロになった」とかいうが、たしかにその通りだった。




 彼女の葬式は、速やかにかつ身内と、私だけで行われた。


 私が呼ばれた理由は、その場に向かうまではわからなかった…。


 私が呼ばれた理由は…


「〇〇くん…久しぶりだね……」


 そう声をかけてきたのは、彼女の母親だ。


 見た目は、最後にあった成人式の時から、少し頬がやつれているように思える…


 彼女は、私以上に辛かったのだろう…


「この度は」「やめて!」


 挨拶をしようと思ったらピシャリと止められた。


「あの子にそんな挨拶しないで。普通に『久しぶり』とか、そういう風に言って欲しいはずだよ…」


 そうなのだろうか…


 返事は返ってこないであろうけど、にっこり笑う彼女の方を見てそう問いかけてみた…。



 最後の別れが終わった後、彼女の母親から手紙を貰った。彼女がいうには、


「〇〇君に宛てて書いてある手紙。多分彼女の最後の言葉だろうね。私達には何も残さなかったのに、〇〇君にだけ残すなんて…。いや、それだけ君たちは仲が良かったって事だね」


 どうやら、遺書らしい。


 私は、それを受け取り帰路へついた。






 家に着くと、何もない胃袋をひっくり返した…


 未だに身体、心はダメらしい…


 ハンドバッグに入れていた、彼女の遺書を取り出し、私は、最期の言葉をしっかりと聞こうと思った。



















『この手紙を読んでいるということはもう僕は現実にいないってことだね!


 こんな出だしで書いてみたかったの!許して!閉じないで!!やめて〜最後まで読んでよ〜!!


 おほん。僕は耐えられませんでした。現実というか、社会が「僕」に対して向ける視線などに。いやー、最後だから書かせてもらうけどさ〜、まじでみんな女らしく生きろとか、女性はスカートを履いてくださいとか、なんなんだよ!好きなの着ていいじゃないか!!僕は、ズボンが好きなんだよ!!あんなヒラヒラしたのは履きたくないね!吐き気がする。


 あ!僕が死んで君は、耐えられないだろう〜なんたって僕は君の支えだったもんね…。ごめんね。こんな頼りない支えで…。


 無責任だけど、君は好きに生きてるんだろ?苦労はしてるだろうけど、まだ、生きてるってことは君はきっと大丈夫だよ…』


 そこで終わっていた。


 いや、その先は書いてあったが全て消してあった。


 かろうじて読める文字があった。


 それは「七夕」の2文字だ。


 きっと彼女はあの日の事を言っているのであろう…


 私が「私」として、彼女が「僕」として、生きると決めた…あの日の事が……






 高校 2年の夏に入りたてのある日、彼女から、買い物に行こうとショッピングモールに行った。


 ショッピングモールでは、七夕が近いこともあり短冊を書くコーナーがあった。


 彼女は、少年ぽいところがあるから「書こう!」と言って私の分まで取ってきた。


 お互いに短冊に願い事を書き、それを吊るした。


 その時は、まだ互いに何を書いたのか知らないまんまだった。


 知ったのは、その日の帰り道、彼女がこう言った。


「僕、男の子になりたかった。」


 短冊にはそう書いた。


 と、彼女は言った。








 その時の彼女の寂しげな表情は私の心をぎゅっと掴んで離さなかった…







 彼女がいなくなってから、こう思うのは、もう遅いけど、きっと私は、そんな彼女が好きだったんだと思う。



 そう考えた途端、とてつもない喪失感が私を襲ってきた。








 彼女を失った悲しみ。









 彼女と過ごした日々がもうこない事。










 彼女がもう、笑ってくれない事。










 何もかも手に入らない事、もう見ることの出来ないことを自覚したのを感じた…


 私は彦星たちにこう問いかけた。



「君らはもしもう相手が死んでいるならどうするんだい…?」



 普通に気が狂った人だ。彦星になんて声は届かない。それに彦星なんて誰かが創作した一人だ…。


 自分でも、そう思った。


 でも、その問いかけには、私の中から答えが聞こえてきた。


 それは至極まとものようで確かに狂った考え、何故思い浮かばなかったのか…何故思い浮かんでしまったのか……


「そうだ。君の待ってる場所に行けばいいんだ…」






















 翌朝、部屋を照らした朝日は、宙に浮かぶ、私の影を、作り出した………でしょう。

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七夕 黒咲蒼 @Krosaki_sou

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