第2話

髪どうしたのか

しつこく聞かれてる.今.


これ,真子にやって貰った.

実費だけ,手出し.

ブリーチ2回して色入れて貰った.

人件費タダ.

持つべきものは何でも出来る友.

綺麗に白くなって満足.大満足.

あ…そうそう.

真子のおじさんとこで.

間借り.

いや金払って無いから,押しかけ?

伯父さんやったか,叔父さんやったかは

あんま覚えてない.

若見えするから,叔父さんかな.

サロンの一角勝手に借りて.

いや勝手では無いな.

きちんとお願いとお礼は言った.

金だけ払ってないだけ.

駄目だな.普通に…言ってる事が.

おじさんがオーナーって言ってたんだ.

ここに真子就職したのかなって思ってたら,

何でも自由に出来るとこは

向上しないからって,

真子が.

経営が身内だからって客相手で自由に出来なくない?

いや知らないけど.

そういえば,

カラーの配合もオーナーが調合してくれた.

さすがだなぁ.

あの人もタダ働きさせたんだ…後でよくよく考えたら.

お陰様で非常に仕上がり良.

物凄く付けも待ちも洗いも,

時間かかって,

最後の方,

真子も互いに話す事なくなって,

真剣にスマホで対戦してたりした.

明るかった外も暗くなってて,

ほんと何だか驚いたし,

めんどくさって思ったし,

真子見ながら笑ってしまった.

ちゃんと

「ありがと.」

って真子に言ったら,

「綺麗に出来てる.」

って笑ってた.

鏡の中の僕が何だか

新しくて,これから良い事しかないんじゃないの?って

思えた.

鏡越し,髪摘まみながら,

真子に

「凄いね.まじで.」

って言ったら,

照れくさそうに笑ってた.


「ついでに就職とんとんいかないかなー.」

って言ったら,

「決まって無いの?」

ってオーナーが喰い付いてくれた.

「そうなんすよー.

いい子なんすけどねー.」

真子が言ってくれた.

おぉう,推して推して真子.

身内推しで何とかなんない?

あはは…

はぁ…

こんなんで上手く言ってたら世話無いわな.

「うち来る?」

それほんとっ?

まじですか?

担がされてないですよね?

「是非にっ.」

物凄い勢いでオーナーガン見.

なんか一応,履歴書と免許証のコピー出してだって.

はい,勿論っす.

やったー.

あんま条件聞いては無いんだけどー.

敗戦続きの身には,もう何だって有りな気がした.

僕も,とんとんじゃない?これ.

まじで持つべきものは便利な…

あ…いや…

持つべきものは真の友ですねー.


就職先決まったからーって

すぱーん家出たけど,

家は無くて

真子の所に転がり込んだ.

持つべきものは部屋持ち同級生.

彼は,

とんとん就職先も決めてて,

何で,こうも

人生違うんだろうって

思ってた.

苦労の仕方が絶対に違う.

おかしすぎる.

散々,本人に向けて軽めに愚痴ってたけど,

愚痴った所で

あんま意味無いし,

自分のダメージだけ蓄積してた.

がっつり愚痴って無くて良かった…まじで.


ついでに真子は彼女も出来て,

家来た時は

こっち居候だから出てかなきゃいけない羽目になる.

結構可愛かったから,なんか理不尽なんだよなー.

もうファミレスのジュースは並び迄把握したし,

何ならシフトも分かる.

漫喫も,そう何度も行かなくていい…

コミックは,流行をつまみ食いするくらいで.

アニメになった時に,

おぉやっぱ僕すげぇ目の付け所がいいなって

思うくらい.

ネットも偏って見てるし,

あれがーとかこれがーとか,あんま言わない.

モールに座ってても駅構内ぶらっとしてても,

流行を感じる位で,

多分僕は,ここにいる人じゃないって思うだけ.

淋しい訳じゃない.うん.そう.多分.

人の流れる変化を見ていると淋しくなる.

あぁ僕帰るとこ無いのかって.

だから見ないように移動して,移動し続けて.


ぶらりと就職先に立ち寄る事もある.

結構遅くまでやってる時もあればーな感じ.

ふらりと

「ばんわー.」

って言いながら入る.

遅い時はオーナーしかいない.

この時間,どうかな.

レジ横,客が待てるスペース.

ふかふかなソファーに座って

両手組んで口元に当てる.

ここ閉まったら,どこ行こう.

「練習しに来たの?」

お…オーナー…

焦って立ち上がる.

いや…

予想はしてたけど,

言われてる事が言われてる事で,

何か溜め息.

そうだよ.

練習…必要…

だけど,

マネキン高いの知ってるし,

シザーだって取り急ぎ揃えたもの.

色々と値段じゃないって分かる.

分かってるけど.

何だか色々と駄目だ.

「あ…いえ…」

しどろもどろ.

「そろそろ閉めるよ.」

「あっはい.」

「何か用があったんじゃないの?」

・・・

用が…無い…

無用の用…


はぁ…

下を向いて…

そんな事

オーナーには関係無いよなって思い直して,

就職先も世話して貰って置いて

これ以上迷惑はかけらんないよって思って,

顔上げて

「用は無いです.

オーナーいつも有難うございます.」

そう言った.

「えっ?」

「えっ?」

首傾けながら顔を見る.オーナーの.何?何々?

「会いに来たって事?」

えっ!?

…えっ!?

違う違う.

けど…何て言ったら角が立たないの?

もう…

勘違いより

正直の方がいいなって判断下す.


「今,僕…

真子さんの家に転がり込んでて…

ちょっと事情があって…

家が無いんです.

あ…」

彼女連れ込んでるとか言っていいのか.

身内だな,この人.

友は売れない.

僕だったら…ちょっとばらされたくない.

ここまで言って…

どう出たらいいのか…

じゃあ真子んち帰りなよの流れになんないか.

ふっと笑って,

「そのうち家見つけます.

もう少し真子さんの家に,お邪魔します.

すみません,ここで失礼します.」

礼をして,ドアに向かう.


「喧嘩したの?」

背中越しの声が優しかった.

喧嘩…

喧嘩…位ならいいかな.

「あ…」

はいともいいえとも言えない態度.

言えないんだけど,正確には,いいえ.

違うけど,違うって言ったら

帰んなくちゃいけないし.

どうするよー.

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