45.閻魔 文華

「文華と言えば。

 ここは、異能力犯罪を研究しているーー」

 私は、ふりかえった。そして。

「安菜に語ってもらうのが良いでしょう」

 私は安菜と、はーちゃんと見合わせた。

 私はフルフェイスのヘルメット。

 安菜のヘルメットは首も固定された木目に、前と左右の丸窓。

 はーちゃんは、その横につけられた小型カメラ。

 窓ごしカメラごしでおたがいの視線はわかりづらいけど。

 決意を込めて、安菜が話しはじめた。

「あなたが、アーリンくんですね。

 私のことは安菜と呼んでください」

『よろしくお願いします。

 安菜さん』

 うん。ダイジョウブそう。

「文華については、私なりに言いたいことはあります。

 しかし、私は専門で研究しているわけではありません。

 それでも良いのなら、できる限りのお話をさせていただきます」

 プロではないけど、こういうときに手をぬかないのが安菜なんだ。

『むしろ、それを知りたいのです。

 僕も自分なりに調べてみたのですが、なんと言いますか』

 アーリンくん、前より安心してる感じがする。

『年月でウワサが一人歩きしているような気がするのです。

 それなら、当事者の近くにいる人がどう思っているか知りたい。

 なにに怒っているか知れば、それが注目するべき点だと思うのです』

 朱墨ちゃんのそばで、良い経験を積んだみたい。

 そういえば、朱墨ちゃんが執事をやとった、というウワサが流れたけど、アーリンくんのことかな。

「なるほど。ならまずは・・・・・・」

 安菜、一呼吸おいて。

「あっ。はーちゃん、この件は私に任せてちょうだい。

 手だしは無用」

「もともと手はだせません。

 口はだせますが。

 ですが、わかりました」

 ありがとう、と安菜は答えて。

 さてアーリンくんに、なにを話すかな。

「閻魔 文華と聞いて、すぐ連想したエピソードをお話します。

 私やうさぎにとって身近な人が巻き込まれた、有名な事件です」

 これで監視任務に集中できる。

 ありがたい。

 だけど、これから聞こえるのはゆかいな話じゃない。

 寒気がしてきた。

「10年くらい前まで文華は、元は魔術学園高等部の先生でした。

 出身は暗号世界ルルディ。

 彼女は、その王と王妃の子。

 つまり、お姫様です」

 こういうときの私の声は、どうしてもカクカクしてしまう。

 安菜は、そんなことない。

 人をリラックスさせる、耳にやさしい声。

「ちなみにですが、私はルルディや他の世界から人が来ることは、素晴らしいと思います。

 出身の友人がいます。

 世界同士でも技術や経済的に重要だし、なにより楽しいからです。

 ですが、文華はそんな流れにのらなかった。

 これは予想ですが、彼女には優秀な人には他に野心がある。

 それが理解できなかったのではないでしょうか」


 このまま、何らかの事件について話すだろう。

 それを聞いたら、気持ち悪くなることもあるかもしれない。

 ノイズキャンセラーで、安菜たちの声を消そうか?

 私のヘルメットについた機能の1つだよ。

 音は、空気を伝わる波だから。

 いらない音に、その反対の音の波をぶつけて、消してしまうんだよ。

 でも、このまま消すなんてもったいない、という気もちもあるの。

 私たちハンターキラーに、いまも影を落とす大事件。

 安菜の心に、どう写ってるのか知るチャンスかもしれない。

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