44.訓練に終わりはない!

「お。

 川で消防車たちの放水がはじまったよ」

 テレビが中継してくれる。


 見下ろせば、防水シートがスルスル伸びていく。

 枝分かれしながら、後続の仲間をさらに進めてく。

 その一筋が、布ばりのビルへ伸びる。

 高さは4階くらいだね。

 そこへ、はしご車。

 六つのタイヤをもつ赤い大型トラックに、銀色のはしごをのせている。

 金沢市からきたんだ。

 あの巨体もスイスイ進めるって、便利だな。

 

「思うんだけど」

 なにか感づいたかな、安菜。

「あんなところに、ビルなんか建つの?

 すぐ倒れそうだけど」

 たしかに、こんなドロドロの山ではリアリティないね。

 でも、ここは訓練場だよ。

 埋め立て地だと、液状化現象ってのがあるよ。

 地震が起こるとね、埋た後も残った海の水が、土のなかでゆれて、まわりの土も巻き込んでドロドロになるの。

 建物も倒れるくらいのドロドロだよ。

「なるほど。

 震度7の想定なら、それはリアルだね」

 さて、ムダ話しはそこそこに。

 私たちの任務は、トラブルが無いかの監視だから。

「おっ、さっそく」

 安菜が察知した。

「関係ないシートに乗ってるハンターキラーがいるよ」

 こいつ時々、高性能なことするな。

 AIが探知したのは、その後だった。

 警告音がなり、ヘルメットのディスプレイが現実の視界にマークを重ね書きする。

「川を意味するブルーシートに、カーキ色のマークスレイ」

 マークスレイも知ってたんだ。

 ブルーシートは、雨風から農業機械とかを守るためにかけたりする丈夫なシート。

 でも、車とかがのるとやぶれる。

 そんな想定の訓練はない。

 そのオドジさんは、拡大して見ると風見鶏が屋根の上についていた。

「ルイン・バード。

 こちらは監視のウイークエンダー・ラビット。

 あなたが乗っているのは川を意味するブルーシートです。

 直ちに下りてください」

 ルイン・バードがハンターキラーとしての名前。

 マークスレイは、地上と低空での機動力を極限まで高めた2人乗りの装甲車だよ。

 風の抵抗をへらした鋭くてうすい車体。

 F1カーを思わせる。

 タイヤの代わりに機械の足を生やして、その先に改めてタイヤをつけたような姿をしてる。

 ジェットエンジンを備えて、6トンの車体を時速500キロメートルまで加速させる。

 そんな高性能機からの返事は。

『水がつめたくて動けないー』

 4本足で大げさにゆれる。

 信じられないかもしれませんが、あの人、金沢の大学生なんですよ。

 230歳なんですよ。

 宇宙でうまれ、ずっと旅をして来た。

 機械の体に意思をもつ生命体。

 だからあれは、マークスレイに化けたルイン・バードさん。

 それが正しいの。

 その心は、たぶんマッチョ男性的。

 

「大丈夫。そこ足つくから」

 言いかえしながら私は、言い表せない不安を感じていた。

 私は仲間の教育を間違ったのだろうか?

「お言葉ですが、ヒッパタクべきであると考えます」

 安菜も、そう言ってる・・・・・・。

 あ、ブルーシート川に緑色の巨大な影が近づいていく。

 陸上自衛隊の大型トラックだ。

 荷台にとっても分厚い鉄の板を4枚のせて、バックで川に近よる。

「はちに、じゃない。

 はちひと、しきじそう、かちゅう、きょう!」

 安菜、正解!

 81式自走架柱橋(はちひとしきじそうかちゅうきょう)

 あの分厚い板の2枚を1つに合わせて、橋にして架けてくれる。

 2枚の板を平行して架けるから、真ん中にすき間が開くけど。

「富山の第382施設中隊だね」

 大したもんだ。 

 あ、ルイン・バードが、つまみ出されたみたいに逃げていった。

 自衛隊の言うことは聞くんだ。


 その時、呼びだし音が鳴った。

 相手は、朱墨ちゃん?

『もしもし、パーフェクト朱墨です』

 その名前、気に入ったんだね。

『今、良いですか?』

 私は良いよ。

 あ、朱墨ちゃん。

 名乗るなら乗ってるロボットよりも、ハンターキラーの名前の方が通りが良いと思うよ。

『これからは気を付けます。

 ファントム・ショットゲーマーでいきます』

 そう。

 安菜と、はーちゃんは?

「はじめまして。安菜・デ・トラムクール・トロワグロです。

 今回は、乗ってるだけの人です。

 私はだいじょうぶです」

「はーちゃんと言われたのは私です。

 破滅の鎧が本名です。

 安菜さまに試験されている、鎧です。

 安菜さまにしたがいます」

 なら、ひと安心。

『そちらも複座になったのですね』

 え? 複座?

 聞こえてきたのは、男の子の声だった。

『お久しぶりです。

 アーリン・アルジャノン・オズバーンです』

 そっか。

 アーリンくん用の席を作ったのか。

『そうです。

 いろいろ教えてくれる人が居るって、心強いですよ』

 ファントム、満足そうだね。

『はい。

 ところで私たち、聴きたいことがあるんですけど』 

 声が、真剣な響きをもった。

 なんだい?

『主に僕が聴きたいのですが』

 アーリンくん。

『閻魔 文華についてです。

 あなたたちが彼女について思うこと。

 それが知りたいのです』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る