28.優しさか? 忖度か?

「おーい」

 その時、ビルから呼ばれた。

 有村さんから。

 だけど、遠くて続くことばが聞き取れない。

「有村店長からです」

 誰か、聞こえた人が伝えてくれた。

「話し合いするなら、店でしてくださいって。

 蚊に食われますよって」

 なるほど。

 それはもっともだ。

 そう思ってビルに目を向けたら。

 うわっ。

 ビルの前に、銃を構えた人たちがズラリと並んでた!

 窓からも!

 ロケット砲を担いだ人もたくさんいる!

 ビルの守備部隊だよ。

 まあ、当然の対応だよね。

 そして、その一人が有村さんのことばを伝えてくれたんだ。

「店に、戻ろうか」

 歩きながら達美さんが呼ぶ。

「そうですね」

 みんな、一時の興奮は冷えたみたいだ。

 みんな、落ち着くの早いね。

「あっ!」

 守備部隊から驚きの声がかさなった。

 滑走路を見て。

 私たちも向くと。

 ボンボニエールたちは、音もなく消えていた。

「あんまりお腹空いてないけど、・・・・・・ナポリタン、好きだったね」

 アーリンくんが聴かれた。

 朱墨ちゃんから。

「僕はもういただきました。

 あなたは、カレーライスでしたね。

 甘口の」

 私は教えることにした。

「カレーライス、あるよ」

 私も、夕飯はまだだ。

 帰るまでまちきれない。

 ここで食べちゃおう。


 朱墨ちゃんとアーリンくんは、好きな料理があるのに、うれしそうにはみえない。

 無表情のままだった。

 でも、話し合うことを認めあったんだ。

 それは素晴らしいことなんだ。

 だったらいいな。


「あっ!」

 そう言えば!

「すっかり忘れてた!

 私たちの動画、今日できあがったの!

 朱墨ちゃんたちのお陰だよ。

 ありがとう」

 私からのお礼を聴くと、朱墨ちゃんは今日初めての笑顔を見せてくれた。

「こちらこそ、いい訓練になりました」

 この子の巫女装束も、ボンボニエールと同じように消えていた。

 今は、白に青の横縞が入ったTシャツ。

 それにブルーグリーンの、すそが広いパンツ。

 するんと入りそうな、柔らかシューズ。

 涼しげな普段着だね。

「また、やりたいです」

 うれしくなるほど、ニコニコ顔で言われた。

 う~ん。

 それには予算がちょっと、その・・・・・・。

 その時、私のお腹の虫がグ~となった。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――


 私たちはグロリオススメに戻った。

 改めて見ても、素晴らしい量のお菓子!


 グ~


 お腹の虫が、無心してくる。

 そう言えば、お腹がすいた時は、胃が強く縮むんだ。

 縮むけど、ねじれる動きもあるらしい。

 その動きが、胃の中の空気や液体などを腸へ押し出す。

 それが、この音なんだそうだよ。


 グ~ グ~グ~ 


「・・・・・・まずは、食べようか」

「そうですね」

 朱墨ちゃんがさそうと、アーリンくんが続く。

 泣けてくる。

 小学生にかばわれた。

「やっぱり、甘口のカレーをいただきます」

「ぼくも、今度は小さい牛丼をください」

 かばわれたからには?

 答えてもいいよね。

 席について、目の前のサンドイッチをパクッ!

 おいしい!


 テーブルにはまだまだ、美味が待ってる。

 キャラメルのロール、包まれたクリームの甘さがうれしい。

 ロールケーキ。

 もちろん、長さをたもったままの。


 ギュッと濃密なクリームチーズ。

 コクがあってお得感たっぷりの、チーズケーキ。


 しっとりフンワリなココア生地。

 それを包む艶やかで厚いチョコレート。

 食べると重圧な甘さをたっぷり楽しめる、チョコレートケーキ。

 ケーキは、円さをほとんど残している。

 切り分けは、任せて。


 地元の小豆を使った、どら焼きも忘れてはいけない。

 大きめで艶のあるこの小豆。

 そこから作ったアンコがたっぷり。

 作りおきされたクッキーも豊富。

 そしてだされる、カプチーノ!

 フワッフワの泡だよ。

 

 ハア。

 至福の時間だ。

「あの、うさぎ?」

 達美さんに止められた。

 そのとき感じたのは、うらみ!

 それまでこの人から感じたこともないほどの。

 でもすぐ、自分への恐ろしさにとってかわられた。

 これから、しなきゃいけないことがあるのに。

 私、いつのまにか忖度されるのが当たり前になったのかな。

「アーリンくん。まず、さっき気づいたことから、話してくれますか」

 お箸は不得意なのか、スプーンで食べ終えたミニ牛丼は、空だった。

「・・・・・・はい」 

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