五・八

 目を覚ましたこの世界で、僕は大学二年生だった。ちょうど十億個目の世界だった。


 いつかの法師の話を思い出す。

 仏は三千世界と呼ばれる十億の世界を一人で救うことが出来るらしい。とんでもないな、と今では思う。僕は未だに解脱に到達しない人間のままで、世界どころか一人すら救うことが出来なかったというのに。仏がどれだけ偉大か身を持って知った。


 僕も負けてはいられない。

 僕はこの世の理を外れ、彼女を救わなければならない。

 その前にやるべきことは分かっていた。


 衣服やらキャンプ道具やら、使えそうなものを何でもバックパックに詰め込んで、スマホを置いて家を出た。誰にも何も言わず僕は空港へ向かった。航空券はその場で買った。


 目指す場所はただ一つ。


 先の世界で、彼女が行きたいと話していた、イタリアへ——。

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