第50話


 普段一人で眠りについているベッドに、律を押し倒している状況。ゴクリと生唾を飲んでから、期待するような目でこちらを見つめている彼女を見下ろしていた。

 

 恥ずかしそうに耳まで赤く染め上げながら、ギュッと手を握られる。


 「……蘭子」


 いつもとは違う体制。

 今日は蘭子が恋人を押し倒していて、これから目一杯可愛がるのだ。


 先ほどからずっと胸が早鳴っている。

 そっと手を頬に添えれば、スリスリと擦り寄っきた。その姿が子猫のようで、愛おしさが込み上げてくる。


 「……律、可愛い」

 「蘭子の方が可愛いよ」

 「律には負けるもん」


 好きな人に可愛いと言ってもらえるのが嬉しくて、触れるだけのキスを落とす。


 いつもは蘭子の口内を蹂躙されていたが、今日は律の口内に柔らかい舌を侵入させていた。


 生暖かい粘膜に包み込まれながら、自分がされて心地良かった箇所を舌先で擽る。


 「んっ…ンッ」


 何度か角度を変えてから、唇同士が隙間が出来ないくらいピタリとくっつける。


 そのまま奥深くまで舌を差し込んで、水音をさせながら深いキスに酔いしれていた。


 唇の側面を舌で擦り合わせれば、ビクンと肩を跳ねさせる。もしかしたら、ここを擽られるのが弱いのかもしれない。


 「んッ…っ」


 恥ずかしいのか、あまり声を出してくれない。

 もっと声が聞きたくて、あえてもどかしいタッチで首筋に指を這わせてみれば、思わずと言ったように彼女の口から甘い声が零れ落ちる。


 「あッ、ん…っ」


 可愛い恋人が自分の手つきで喘いでいる姿に、たまらなく興奮してしまう。もっと気持ち良くなって貰いたくて、キスをしながらスリスリと指の腹で首筋を攻めていた。


 「んっ…ッ、ン、可愛い律」

 「まって、蘭子…そこ、っ……ッや」

 

 必死に逃れようとする体に、体重を乗せて動けなくする。無意識に腰を跳ねさせていて、あまりの可愛さに胸がキュンキュンと弾んでいた。


 「……やだッ…そこ、やぁ…」


 上擦った声が、どんどん蘭子の興奮を煽っていく。

 こんなに乱れているところを見るのは初めてで、みるみる内に体に熱が灯っていく。


 「……気持ちよくない?」

 「っ……ッそれは…」


 リップ音をさせながら唇を離せば、律は恥ずかしそうに口元を手で覆っていた。

 そして彼女なりに精一杯甘えた声を出してくれる。


 「……見れば分かるでしょ?」


 酷く期待をした瞳。吸い込まれるように、再びキスをしていた。あまりにも可愛い姿を独り占めしてしまいたい。


 これから先2度と、蘭子以外の誰かの目に触れさせたくなかった。


 「ンッ…ん、ふぅ」

 「……蘭子、あァッ、あぅ…」


 スカートを捲し上げて、そっと太ももに手を這わせる。

 内側に触れるが、律の反応はあまり良くなかった。手探りで少しずつ彼女の心地よい箇所を探していれば、太ももの付け根付近に触れた瞬間、あからさまに反応が変わる。


 「…ッあァ、んッ!」


 ショーツの境目あたりを指でなぞれば、更に甘い声が激しくなる。

 もどかしいのか太ももを擦り合わせていて、目線を下げればクロッチ部分が濡れていることに気づいた。


 あえて気付かぬふりをして、今度は胸元のボタンに手を掛ける。いきなり下を触れるより、最大限まで焦らして体の力を抜いた方が良いはずだ。


 「……蘭子」

 「どうしたの?」

 「……私、あんまり大きくないから…」


 そんなことを気にしているのかと、いじらしさに頬が緩んでしまう。全てを言い終えるより先に優しくキスを落としてから、全てのボタンを外して下着を露わにしていた。


 確かに控えめだけど、律の体だというだけで酷く興奮してしまうのだ。


 「……めちゃくちゃ可愛い」


 谷間にキスをして、そのままチュッと吸い付けば色濃いキスマークが刻まれる。

 色恋痕を指でなぞりながら、独占欲を更に膨らませてしまうのだ。


 「……気持ちよくするからね」


 そう言って、下着の紐を肩から落とす。背中に腕を回してホックを外せば、とうとう彼女の真っ白な胸が露わになった。


 優しい手つきで胸に触れて、自分がされて心地良かった触れ方で愛撫すれば心地良さそうにギュッと目を瞑っている。


 「……ッ、あぁ、ァッン」


 我慢できないのかどんどん声が溢れ出ていて、口の端からは涎が垂れているのに気づいてもいない。


 普段クールな彼女が恥ずかしげもなく、あられもない姿を晒している。


 その事実にさらに興奮して、蘭子は尚更律を愛おしく思ってしまうのだ。


 恋人の自分しか知らない姿がある。

 独占欲に駆られながら、この姿を目に焼き付けておこうと見入ってしまうのだ。


 「……蘭子も服、脱いで」

 「え……」

 「ずっと、したくて我慢してたんだけど…」

 

 震える手がこちらに伸びて、ショーツの上から敏感な部分に触れられる。最も快感の強い粒を布越しに指で弾かれれば、勝手に甘い声を溢れさせてしまう。

 

 「ここ、擦り付け合いたいの」


 互いの愛液が滲んだ箇所を擦り付けあえば、酷く興奮してしまうのは明確だった。

 コクンと頷いて見せれば、キスをされながらショーツを手際良く脱がされる。


 期待で胸を膨らませながら、そっと彼女の秘所へと手を伸ばす。初めての経験に酷く興奮しながら、理性を失って快感に溺れてしまうのだ。


 甘い声をあげる彼女を見ながら、蘭子もはしたない嬌声を響かせる。裸体でベッドの上で交わり合いながら、愛おしい想いに胸がはち切れてしまいそうだった。






 それからというものの、蘭子と律は順番に互いを可愛がるようにしていた。二人とも好きな人の可愛い姿を見たいため、妥協案で交代ずつにネコとタチを入れ替えることにしたのだ。


 本当は一夜でどちらも経験したい所だが、一度エッチを始めるとつい長くなってしまうため、話し合った結果それがベストだという結論に至っていた。


 眩い光に目を細めながら、ゆっくりと意識を浮上させる。

 慣れない姿勢を長時間取ったせいで、すっかりと腰が痛くなってしまっていた。


 「いたっ…」

 「律、体固いもんね」

 「蘭子が柔らかすぎるの…肌もぷにぷにしてるし」


 そう言って、太ももを撫でられたら、昨夜の名残もあって甘い声が出てしまいそうになるのだ。


 「やっ…朝なんだからダメだよ」

 「これから二人でサボる?」

 「……そんなことしたら怪しまれちゃう」


 だけど求めているのは蘭子も同じで、ダメだと言いながら彼女の唇に自身のものを押し付けていた。

 いやらしく舌を絡め合いながら、何も纏っていない体を彼女へ押し付けてしまう。


 「んっ…ンッ」

 「蘭子、可愛い…んぅっ」


 律はすぐに蘭子を可愛いというけれど、こちらだって想いは同じなのだ。以前どちらが可愛いかで言い争いになってしまったため、最近は褒められたらお礼をいうようにしていた。


 「……本当にサボりたくなっちゃったじゃん」

 「けど今日、テストの成績発表だよ」

 「そうだった!」


 ベッドから起き上がって、優しい手つきで律に下着を履かせてあげる。子供扱いされているようで恥ずかしいのか、頬を赤らめながらはにかむ姿が酷く可愛らしい。


 制服を着込んでから、軽く朝ごはんを済ませて二人で準備を済ませる。最近は伊乃には律の部屋へ行ってもらうことも多く、今度改めてお礼をしなければいけない。


 「じゃあ、行こっか」


 いってきますのキスを二人でするのも、すっかり習慣になってしまっている。

 唇を重ねるたびに愛おしくて、同時に守りたいという思いが込み上げてくるのだ。


 テストが張り出されている広間へ足を運べば、予想通りザワザワと賑わいを見せていた。


 「……蘭子ちゃん!」


 勢いよくハグをされて、感極まった様子に戸惑ってしまう。順位表を必死に指差しながら、ひなは今にも涙を流してしまいそうだった。


 「凄いよ!一位おめでとう」


 彼女の視線の先を辿れば、確かに一位の欄には蘭子の名前が刻まれていた。

 学年一位という文字の下にある、自分の名前。

 その下が律で、ひなは二つ順位を落とした3位だ。


 「みんな喜んでる!すごい!本当にすごい…!」


 チラリと隣いる恋人に視線をやれば、ひなと同じくらい嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 その姿にジワジワと喜びが込み上げてきて、蘭子も自然と笑みを溢してしまう。


 「頑張ったね、蘭子」

 「本当だ…やった」


 優しく髪の毛を梳かれながら、自分の努力が実った達成感に駆られていた。律のために必死に勉強をして、その努力がきちんと花咲いたのだ。


 「ご両親にも連絡するんでしょ?」

 「え、なんで?」


 どうしてここで両親の名前が出て来るのか、分からずに首を傾げてしまう。蘭子が今回のテストで死に物狂いに勉強をしていたのは律のためで、それ以外に理由なんてない。


 不思議に思いながら小首を傾げていれば、律が愛おしそうにこちらを見つめて来るのだ。


 「……私も蘭子も、変わったんだね」


 酷くシンプルな言葉に込められた意味はきっと複雑で、彼女の想いが秘められているような気がした。


 自分のことのように喜んでくれる恋人の手を握りながら、そっと胸に温かい想いが流れ込んでくるのを感じていた。

  

 淡い桃色に染まっている恋人が愛おしくて、お揃いのブレスレットを人差し指でなぞる。

 彼女に恋をしたおかげで、知らなかった想いを沢山教えてもらった。


 恋の切なさや、もどかしさ。

 胸が苦しくなるほど相手に焦がれる恋心も、全て律が注いでくれたのだ。


 このテスト結果は、全て律のおかげだろう。

 彼女を想ったからこそあんなにも頑張れて、目標を達成することが出来たのだ。


 乳白色のように繊細な心に、燃えてしまいそうなほどの赤い恋心。

 それらが均等に混ざって甘いピンク色の恋をしたからこそ、蘭子は大きく成長する事が出来たのだ。


 

 (了)

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ミルキーピンクな恋をして! ひのはら @meru-0731

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