第5話ギャップありすぎ


文化祭は主に午前の部と午後の部に分けられている。


僕たちは午後の部。


5分のアニメを体育館で二回上映するという流れになった。


また、午前の部が始まる前に山本先生に頼み込んで一度リハーサルをさせてもらうことになった。


 しかし、結局のところ僕はひたすら御堂が渡してくれたセリフをイメージして音読を繰り返しただけ。


特段上達したなという感触を自分の中で得ることはできずに文化祭当日を迎えることになってしまった。


御堂は、というと三日で500枚という僕には理解しがたいペースでどうにかイラストを描き上げたよう。


まじですごい。


三日前よりも目のクマが酷くなっていたが、僕と顔を合わせるとニッコっと白い歯をのぞかせながら笑いかけてきた。


「なんとか描きあげることができた~。 会心の出来だね。 間違いなくいいアニメになるよ、灰崎君! ん? どうしたのそんな浮かない顔して」


「いや、僕の方は三日前と比べて全然上達しなかったなと思って、御堂がめちゃくちゃ頑張ってくれたのに申し訳ないな…。やっぱり僕なんかが本当に……」


自分でも情けなく言ってしまったが、御堂は


「まあ、試しに一回リハーサルで通してみようよ。判断はそれからだね。 口の動きに合わせて吹き込んでって、言わなくてもわかるか」


「……うん」




☆★☆


体育館。


まだ誰もいない。


居るのは僕たち2人。


 御堂は、描いたイラストを机に”ドンッ”とおいて上映を始めた。


(後で聞いた話ではその量は2500枚もあったらしい。そりゃ、クマもできるか……)


僕は練習通りキャラの口に合わせてセリフを吹き込む。


いつもはパラパラと紙を自分でめくりながらやっていたが、今はそんな手間はない。





☆★☆


 最後のセリフを言い終えた。


ぎこちなかった。


やっぱり僕なんかがやって本当にいいのか?


申し訳ない気持ちで一杯だ。


「御堂……ごめん。やっぱり僕……」


「………………」


「御堂?」


目を見開いたまま固まったまま動いていなかった。


近くによって呼び掛けても無反応。


「なあ」


「……」


「なあ」


「……」


「なあってば!」


あまりに無反応だから、つい声を大きくしてしまった。


御堂はハッと我に返ったように、僕の方に向き直って、


「うう~、感動したよ。いやぁ~、いい作品ができるなとは思っていたけどまさかここまでやるとはねぇ~。やはり私の目には狂いはなかったよ。……良かったよ! うん!」


 まさかの大絶賛で。


バンバンと僕の肩を叩いてきた。


痛い。


正直、自分とのギャップが大きすぎる。



「べた褒めされてもらってもこっ、困るよ。御堂はオーバーなんだよ……。全然できた感じしなかったんだけど」


「まあ、今はそう思っててもいいよ。上映後には私の言っていたことが正しかったと灰崎君も理解するから。 まあ、これで準備は万端だね! ……私はここ三日寝ていないから、しばらく教室に戻って仮眠する。時間になったら起こしに来てね。じゃあ、また後で。……やっと寝られる〜!」



 そう言い残して、御堂はふらふらとした足取りで、ごしごしと今にも閉じてしまいそうな目をこすりながら教室の方へと歩いて行った。



最初の上映開始時間は13時30分から。


今の時刻は8時30分。



まだ時間……あるな。



「グー」


そう思った瞬間お腹が鳴った。


そういえばまだ朝飯を食べていなかったな。


とりあえず僕は食堂へと向かうことにした。

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