第3話やるなら1人で
☆★☆
受付場に行くとそこには山本先生がいた。
先生は受け付き締め切り直前に、ようやく来た僕たちに明らかにいらだった様子だった。
山本先生は、
「遅かったじゃないか。クラスの出し物にも参加せずにさっさと帰っていくし、個人の出し物の登録も済まさないから、さぼったのかと思ったじゃないか。まあ、灰崎はしないと思ったけど、御堂にな……。唆されたかと思ったわ」
とブツブツ言いながら、登録参加書を僕に渡してきた。
僕が黙々と紙に必要事項を記入している間、御堂と山本先生は、
「先生、それはあんまりですよ〜。私のような優等生がそんな不良のような振る舞いするわけじゃないですかー」
「たわけ。授業中にずっとイラストを描き続けているお前のどこをどう見たら優等生なのだ?」
「あれ、なんでばれているんですか?」
「むしろ、教科書を縦にして手元を隠したぐらいでこの私の目をごまかせると思ったな。バレバレだ」
「あーすいません! でもこれには深いわけがあってですねー」
「ほう、どんなわけだ?」
「よくぞ聞いてくれました。それはズバリですね……」
「灰崎と一緒に出す出し物に使うためだろ?」
「なんだ、知っているじゃないですか。知っているなら知っていると言ってくださいよ。私、どう言い訳しようかと考えてたんですから。学生の本文である学校行事にきちんと従事してるんですから見逃してくださいよ!」
「御堂よ。学生の本文は勉強だぞ……お前も少しは勉強しろ……。地頭はいいんだから」
「え〜何ですかそれ〜? 褒めてますっ!?」
「褒めてない、貶してるんだ」
「ガーン」
などと言い合いをしていた。二人はいつもこんな感じで言い合いをしているが、決して先生も御堂のことを嫌っているというわけではない。
御堂は今の会話でも分かるように、とっつきやすい生徒であり、先生からすればクラスに一人はいてほしいといた感じの生徒だ。
一方、僕はクラスでも殻に閉じこもりやすいタイプの生徒。
……自分でも分かってるよ。
クラスメイトや先生とも必要最低限の会話しか交わさずに一歩距離を置いた関係って感じ。
だからこそ、タイプが真逆な御堂と僕が、絡む機会がまあまああることは、他の人から見れば違和感があるらしい。
(周囲は僕たちが幼馴染みであることは知らないから当たり前)
でも他人の目が気になる僕はそのことを御堂に話したとき、『まあ、そんな事気にしてもしょうがないよ?』と、笑い飛ばされた。
……まあ今はその話いいっか。
☆★☆
二人が言い合いしている内に、記入事項はほとんど書き終えた。
そして、最後の項目のテーマ(具体的に何をするのか)ということで、先ほど御堂が言っていた”準備していたこと”を確認するためにも、今もなお口論しあう二人の会話に口を挟もうとした。
「なーに言っているんですか。 それを言うなら教師の本文は生徒が興味をもったことを認め、それを伸ばすことなんじゃないんでしょうか?」
「ほほう! それでうまく言ったつもりか、御堂。 お前は口が達者だから周りの者は言いくるめることはできるかもしれないが、この私は無理だぞ。 授業中サボっていた分の宿題は増やすからな。 まあ、せめてもの慈悲として締め切りは文化際の次の日までにしてやるからな。 覚悟しろよ! ガッハッハ!」
「ひ、ひどいです。それでも教師か!このぉ……。——ん、なに、灰崎君?」
よ、良かった。
僕は御堂じゃなくても二人で会話することには抵抗を抱くことはないが、今のように僕以外の人が会話している中に割って入るのはそんなに得意ではない。
むしろ苦手。
だから、視線だけを向けて相手が察してくれるまで待つしかない。
「あ、あのさ、この紙の最後のテーマの部分。さっきは、時間がないからということで言わなかったけど……、ここに記入しなくちゃいけないからさ。具体的に何をするのかということをそろそろ教えてもらわないと、困るんだけど……」
「ん? なんだ、お前たち御堂の描いた絵でも額縁に入れて、裏でこっそり売りさばくもんだと……」
「先生、本当に私たちのことなんだと思ってるんですか? 違いますよ、私たちが文化祭で出す出し物は”自作アニメ”ですよ」
「……じ、自作アニメ?」
……何を言ってんだ御堂は。
確かに僕は御堂は絵を描くのが非常に上手いことも、アニメが好きなことも僕は知っている。
だけど、僕は知っている。
そんなの一人で作るなんて無理。
それに、アニメというのは一人一人のキャラクターに合わせて声優というものが存在していて、キャラの動きに合わせて感情をこめなくてはならない。
いわゆるアフレコというやつだ。
そんなの僕にできる訳ない。
しかも文化祭の出し物なんていう皆の前でやるなんて尚更だ。
当然、御堂もそんなことはわかっているはずだ。
そんな事をするぐらいならば、御堂の描いた絵を山本先生が言ったように裏で売りさばいた方が、ましだ。
だから、僕は御堂にこう告げた。
「……そんなの嫌だ。やるなら御堂一人でやってくれ。僕はやりたく……ない」
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