第3話 遊園地デートで実験するお姉さん

 実験と収録は進み、次なるイベントは一緒に遊園地デートになった。今、俺は人生初となる女子と二人っきりで遊園地デートに来ているのだ。


 まあ、アプリ開発のモニターバイトなのだが。


「じゃあキミ、いつも通りお願いね」


 優しい笑顔で俺に話しかける綾奈さん。最高に可愛くてドキドキしてしまう。これが実験なのだと忘れてしまいそうなくらいに。


「はい、分かりました」


「うふふっ、私、男の人と遊園地デートって初めてなの。すっごく楽しみ。初めてがキミとで良かったよ」


 えっ? まだ機材を回してないよな。もしかして、綾奈さんが遊園地デート初めてってことなのか? 俺で良かったって……。


「あ、あのっ、今のは……そ、そうそう、練習。本番前に気分を高めようと練習したの。ご、誤解しないでよね。別にキミを狙ってるとかエッチなこと考えてるわけじゃないからねっ。って、わ、私なに言ってるの……」


 突然、テンパったように言い訳する綾奈さん。顔が真っ赤だ。


「えっと……綾奈さん?」


「ち、因みに今のも練習だから。さ、さあ、行こぉ」


 こうして、何故かテンパり気味の綾奈さんと、遊園地デートの実験が始まった。




「す~はぁー、す~はぁー、じゃあ始めるね」

 なぜか深呼吸してから綾奈さんが話し出す。


「遊園地デート楽しみだなぁ。キミと一緒に来れて良かったよ。ん? キミも楽しみだって。それは良かった。そうなんだ、遊園地デート初めてなんだ。ふふっ、またキミの初体験もらっちゃったね」


 初体験という言葉でドキッとしてしまう。


「あ~っ、今エッチなこと考えたでしょ。ダメだよ、エッチなのは。も、もう少しデートしたりお話したりして、もっと仲良くなったなら……それならエッチなのも……って、お姉さんになに言わせてるのよぉ!」


 とても演技には見えなくて、こっちまで恥ずかしくなってしまう。


「も、もう行くよぉ。ほらほらぁ」


 腕を組んで連れて行かれる。


「ううぅ……恥ずかしい。顔熱いぃ……ちょっと、キミ。なにニヤニヤしてるのよぉ。お姉さんをからかうなぁ。もうっ、そんな顔してると、お姉さんもこうしちゃうんだから。ぎゅぅぅぅぅ~っ!」


 組んだ腕にギュッと抱きついた綾奈さんが胸を押し当てる。


「ほらほらぁ、どう? お姉さんに抱きつかれた感想は? あぁ~っ、赤くなってる。恥ずかしいんだぁ。えっ、とても柔らかいって? ちょ、なに言ってんのぉ。エッチなのはダメって言ったでしょ。もぉ~っ! えっ、お姉さんの顔も真っ赤だって? う、うるさぃ~っ」


 ううっ、ホントに胸が当たってるのだが……。これ、良いのか? もう、完全にカップルみたいじゃないか。


「あっ、あれ乗ってみようよ。ほら、あのジェットコースター。あれあれぇ、キミ、もしかして怖いのかなぁ? えっ、怖くないって? じゃあ乗れるよね。一緒に乗ろっ」


 ガタンガタン、ガタンガタン――


 本当にジェットコースターに乗ってしまった。レールの上をゆっくりと上昇して行く緊張感がスリル満点だ。


「こ、こ、怖かったらお姉さんに言うんだよ。お、お姉さんは、こ、これでも年上だからね。えっ、私の方が怖そうにしてるって? こ、こ、怖くないわよ。こんなの全然平気なんだから……」


 ガタンガタン……ガラガラガラダダダダダダダダァァァァァァ!!


「きゃああああ~っ! 怖いぃぃ~ぃ! ヤダぁ、止めてぇ~っ!」


 ガタンガタンガタン――


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……ねっ、怖くなかったでしょ。え? すっごい叫んでたって? 違っ、あれは楽しんでただけだからぁ。こらぁ、頭を撫でるなぁ。キミ、もしかして私を子ども扱いしてるでしょ? と、年上を敬いなさぃ。だからナデナデするなぁ」


 ナデナデするなと言われて、しないといけないのかと思い、綾奈さんの頭をナデナデする。


「ああぁん♡ ほ、ホントにナデナデするなんて……キミって、意外と大胆だよね……う、ううっ、もうどうしよぉ。キミといるとドキドキしっぱなしなんだけど……」


 綾奈さんの迫真の演技で俺も頑張らなくてはと思い、更に頭や背中をナデナデしたりギュッと抱きしめてみた。


「はあああ~ん♡ そ、そんなに抱きしめられたらぁ♡ ちょ、ちょっとぉ……。今日のキミって、いつもより大胆だぞっ。そ、そんなに優しく撫でられたら……お姉さんおかしくなっちゃいそうだよぉ♡」


 綾奈さんの足元がふらついている。


「ねえ、キミ。ちょっと支えてくれない? ちょっと興奮しちゃって、お姉さん倒れちゃいそうなのぉ。はぁっ、はぁっ、ううっ……年下男子に攻められて、こんなになっちゃうなんてぇ♡ キミが、こんなに攻め攻めだなんて知らなかったぁ♡」


 もう演技なのか本気なのか分からない綾奈さんを連れ、ベンチに座って休憩をする。


「はあ~ぁ、全然大丈夫じゃないよぉ~っ。年下男子に攻められてフニャフニャにされちゃうなんてぇ。もう、年上お姉さんとしての威厳がボロボロだよぉ。ええっ? 可愛いから良いって? こ、コラぁ、か、可愛いとか言うなぁ♡」


 隣で寄り添う綾奈さんの体温を感じる。綾奈さんが本当の彼女だったら良かったのに。


「ねえ、次はあのコーヒーカップに乗ってみようよ。あれなら怖くないし」


 綾奈さんに手を引かれコーヒーカップに乗る。繋いだ手が熱くなっているのが自分でも分かるくらいだ。


 ぐるんぐるんぐるん――


 可愛い見た目の遊具からは予想できないくらいに、意外とコーヒーカップは回転が速くて激しかった。


「ちょっとぉ、コーヒーカップがこんなに激しいだなんて聞いてないよぉ。だ、ダメぇ、もっとギュッてしてぇ」


 ぎゅぅぅぅぅ~っ!


「んあぁ♡ そ、そんなに強く抱きしめられたら……も、もうっ、ホントにキミのこと……ダメぇぇぇぇ~っ♡」


 実験のはずなのに本当にデートしているみたいだ。俺は、いつからか本当に綾香さんが好きになってしまったみたいだ。


 いや、あの日あの時、初めてであった時から、俺はこの可愛い年上のお姉さんに、恋の魔法をかけられてしまったのかもしれない。


 そんなラブラブな実験が過ぎて行く。実験だと分かっているはずなのに、もっともっと綾奈さんと一緒にいたいと思ってしまう。

 この幸せな時間が、いつまでも続いて欲しいと願いながら――――



「ねえ、最後にあれに乗ろうよ」


 綾奈さんの指差す方を見る。


「あれあれ。あの大きな観覧車。あれ乗ってみたい」


 二人で寄り添い合いながら観覧車へと向かう。こでれ最後なのかと、少し寂しい気持ちになりながら。


 ガラガラガラ――

 観覧車は、ゆっくりと登って行く。少し日が傾きオレンジに染まる街を二人で見つめながら。


「凄く高い。ここからだと街が綺麗に見えるね。夕日に照らされてオレンジ色に輝いて。こんな綺麗な景色をキミと一緒に観られて良かった。初めての遊園地デートが、キミと一緒で良かったよ」


 綾奈さんの顔が近い。頬を寄せるようにピッタリと体をくっつけている。


「ん、どうしたの? そんなに私の顔をジッと見つめて。えっ、わ、わ、私の方か綺麗だって? も、もぉ、バカバカ♡ そんなコト言われたらホントに我慢できなくなっちゃうからぁ。お、お姉さん、こんなに我慢してるのにぃ」


 綾奈さんが俺の肩を掴んで見つめ合う。


「えっ、我慢しなくて良いって。へ、へぇ……そんなこと言うと、お姉さん本気にしちゃうぞっ♡ 良いの? 良いんだ。ホントに我慢できなくなっちゃうから」


 綾奈さんの顔が、どんどん近付いてくる。


「キス……しちゃおっか?」


 は? まさか本気でキスするのか?


「あ、あの、目、閉じて……」


 ドキドキドキドキドキ――

 心臓が飛び出そうはほど胸がドキドキする。


「はぁっ、はぁっ、ん、ちょ、ちょっと待って。これ、キスしちゃって良いのかな? でもでも、すっごくキスしたいけど……実験のはずなのに、こんな気持ちになっちゃうだなんて……これって職権乱用? あぁん、もうどうしよう」


「あ、あの、綾奈さん?」

 

 設定と違う内容を喋り始めた綾奈さんに、つい俺が声を出してしまった。


「えっ? あ、ごめん。今のナシ。もう一度やりなおすからね」


 今のセリフをボツにして、もう一度収録を始めた。


「ねっ、これからも仲良くしようね。ずっとずっと。約束だよ。ちゅっ!」


 キスは頬にされた。ただ、ギリギリくちびるにかかりそうな場所に。


「えぇ~っ、くちびるにされると思った? 残念でしたぁ♡ ほっぺだよ。ふふっ、くちびるには、また今度ね♡」



 遊園地デートの実験が終わった綾奈さんは、俺と同じように顔を真っ赤にしてうつむいていた。その反応が可愛くて、更に俺の顔が赤くなるのを感じてしまう。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る