第2話 ラブラブデートで実験するお姉さん

「今日は天気も良いからデートしましょう」


 俺が事務所に入ると、綾奈さんの第一声がそれである。


「え、ええっ! あ、あの……」


 いきなりデートと言われて慌ててしまう。自分でも顔が赤くなるのが分かるくらいだ。


「幼馴染のお姉さんとデートをする設定ね。ん? あれあれあれぇ~っ? キミ、何で赤くなってるのかな? もしかして、お姉さんとデートって聞いて誤解しちゃったのかな?」


「ち、違います!」


「うふふっ、いいねいいね、その反応」


 本気なのか冗談なのか、綾奈さんが楽しそうな笑顔でからかっている。


「まったく、からかってないで、もう行きますよ」


「ごめんごめん。キミがあんまり良い反応をするからさ。悪気は無いんだよ」



 そうして二人でデートをしながらアプリの実験と収録をすることになった。詳しいことは分からないが、実際に野外で収録して臨場感やリアル感を出すそうだ。


 心拍数などを計測する器具は、手首に付ける小型のバンド型だ。これなら目立たない。


 ◆ ◇ ◆




 先ずはハンバーガーショップに二人で入る。店内は人の声で騒がしく、このまま録音できるのか心配になるが、綾奈さんは黙々とセッティングを進めている。


「じゃ、開始するわね」

「はい」


 実験と録音が始まった途端、綾奈さんが俺の隣に移動した。そのまま俺の腕を取り抱きつき寄り添ってきた。


 俺は声を出せず、綾奈さんのされるがままだ。


「キミと一緒にデートできて嬉しいよ。ふふっ、また緊張してるの?」


 耳元でささやく綾奈さんの声が心地良い。俺の腕に抱きつき顔を寄せているのだから、周囲から見たら完全にラブラブカップルだろう。


「顔赤くしちゃって可愛いんだから。ふふふっ、そんなに赤くすると、もっとギュッてしたくなっちゃうよ」


 ぎゅぅぅ~っ!


「えっ、からかうなって? ごめんごめん、キミがあんまり可愛いから、ついからかいたくなっちゃうんだよ。そんなに可愛い反応するキミが悪いんだぞっ」


 大きな胸を押し当てるようにしながら、上目遣いで俺を見つめる綾奈さん。やっぱり、こんなのされたら好きになっちゃいそうだ。


「ほら、ポテト食べる。ふふっ、あーん・・・で食べさせてあげようか? もぉ、恥ずかしがらなくてもいいのに。私が食べさせたいんだから、キミは素直にあーんすれば良いんだぞっ」


 綾奈さんがポテトを摘まむ。そして、それを俺の口に持ってくる。


 えっ、ホントにやるの? でも実験だし、契約書には最後までやるように書かれてるし……。


「はい、あーん。どぉ、おいしい? じゃあじゃあ、今度はお姉さんにも、あーん・・・で食べさせてねっ」


 これ、やらないとダメなのか……。

 俺はポテトを摘まんで綾奈さんの口へと運ぶ。


「あーん、うんっ、美味しいっ。キミが食べさせてくれたから、いつもよりず~っと美味しく感じるよ。えへへっ、何だか恥ずかしいねっ」


 綾奈さんの顔が赤い。本当に恥ずかしがっているように見えた。


「えっ、顔真っ赤だって? もぉ~っ、からかうなぁ。からかって良いのは私だけなんだぞっ。年上のお姉さんをからかうもんじゃありません。余計に恥ずかしくなっちゃうでしょ」


 綾奈さんに、頬をツンツンされる。


「ほらほらぁ、お姉さんをからかったバツだぞっ。ほっぺをツンツンしちゃうから。ほぉーら、ツンツン、ツンツン」


 もうラブラブバカップルのようで恥ずかし過ぎる。


「ちょっとぉ、何で恥ずかしそうにするのよ。えっ、バカップルみたいだって? もう、この際バカップルになっちゃおっか?」


 更にギュッと抱きつく綾奈さん。


「もうダメぇ、ギュッてしたくなっちゃった。キミが悪いんだぞっ。お姉さんを興奮させちゃうから。キミと一緒にいると、私の胸がドキドキして止まらなくなっちゃうよぉ~」


 俺の目を見つめる綾奈さんが、実際に真っ赤になっている。


「ねっ、キミもギュッてしてよ。お姉さんもキミにハグして欲しいなぁ。えっ恥ずかしいって? だ、誰も見てないから大丈夫だよぉ。ええ? 見られてる? き、気のせいだよ。ギュッてしてよぉ~っ♡ これじゃ、まるで私ばかりキミを大好きみたいじゃない。ズルいズルい」


 真っ赤な顔でギュッギュッとハグする綾奈さんが可愛くて、本当に抱きしめたくなってしまう。


 そして、俺の腕が勝手に動き、綾奈さんの体を抱きしめてしまった。


 ぎゅぅぅ~っ!


「あぁ~ん♡ やっとハグしてくれたね。そう、もっとギュッてして。ああっ、お姉さん、キミに抱きしめられてとろけちゃいそう。ああぁん♡ ダメダメ、それ以上ギュッてされると、本当に我慢できなくなっちゃうからぁ」



 ちょっとヒートアップしてしまい、周囲の視線を感じたところで実験は一時終了した。これ以上はハレンチカップルになってしまう。


 ◆ ◇ ◆




 次は場所を変更して、公園のベンチへと移動した。ここなら人も少なく落ち着いて実験と収録もできそうだ。


「じゃあ、再開するわね。ここでも私の指示にしたがってね」


「はい」



 ベンチに二人並んで座り、寄り添うように体を寄せ合う。そのまま収録を開始した。


「この公園、落ち着いてて良い場所よね。ベンチに座ると二人っきりになれるし」


 本当の恋人のように肩を寄せ合う。


「えっ、さっきはハンバーガーショップで恥ずかしかったって? 違うよぉ、あれはキミが私を興奮させるからでしょ。もぉ、ホント、キミはエッチなんだから」


 綾奈さんの目が熱を帯びているように見える。


「えっ、エッチなのは私だって? ち、違うよぉ、キミが悪いんだよ。あんなに情熱的なハグをするから……。あんな風にされたら、お姉さん我慢できなくなっちゃうんだからぁ。他の子にも、あんな風にしてるの? お姉さん妬いちゃうな」


 俺の目をジッと見つめる綾奈さん。まるで俺に問いかけているみたいだ。


「えっ? 初めて…………。そ、そうなんだ。ふ、ふ~ん、ハグしたの初めてなんだ。ふふっ、キミのハグ初体験は、お姉さんなんだね。ふふっ、ふふふっ♡ そうかそうか、初めてなんだぁ」


 綾奈さんが、本当に嬉しそうな顔になる。


「じゃあじゃあ、キミにもう一つ初体験をさせてあげるねっ。膝枕してみる?」


 な! ななな! 膝枕だとっ! 今日の綾奈さんはミニスカートに生足。ということは、あの柔らかそうな太ももに俺の顔が……。


 グイッ!

 綾奈さんに抱かれたまま、太ももの上に頭を寝かせられる。本当に膝枕をしてしまった。


「どうかな? 気持ち良い? そうなんだ、気持ち良いんだ。それは良かった。ふふっ、そんなに緊張しないでよ。もっとリラックスして欲しいなっ」


 綾奈さんの手が、俺の頭を優しく撫でる。


「ほら、ナデナデしてあげる。これならリラックスできるでしょ。な~で、な~で、な~で、な~で」


 ううぅ、気持ち良い……綾奈さんの手が……。


「ああ~ぁ、今さわったでしょ? 太ももをさわったよね? もぉ、エッチなんだからぁ。メッだぞっ」


 綾奈さんが俺の手を取り、自分の太ももに置いた。スベスベの生足が刺激的過ぎる。


「こらぁ、また触ってるぅ♡ くすぐったいよぉ♡ ダメぇ、そんなにタッチされると、また我慢できなくなっちゃうからぁ♡」


 ああっ、綾奈さん……。


「ダメぇ~っ♡ さわり過ぎぃ♡ もうっ、エッチなんだからぁ。そんなにイタズラばかりしてると、お姉さんもキミをさわちゃうぞ。コチョコチョコチョコチョ~ぉ」


 ぐわぁぁぁぁ~っ!


 収録中で声を出せない中、俺は必死に綾奈さんのくすぐり攻撃を耐え続けた。綾奈さんの柔らかな太ももの感触と、俺をくすぐる少しだけエッチな指先とで、もう完全にお姉さん大好きになってしまいそうになりながら。


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