第14話 11週目

 本来は昨日いくはずだった通院だが、急用が入り今日行くことになってしまった。広崎さんには、昨日行くと伝えていたから突然お邪魔する形になってしまう。だから今日は少し多めにグミを買っていった。

 彼女の病室へ行くと彼女は窓の外をぼんやりと眺めていた。野球の試合が無いととても静かだった。そのせいか病室に悲壮感が漂っているような気がした。

「あ、陽介さん。今日来たんですね」

 彼女がやっと口を開いたのは、俺が病室に入ってから1分ほど経ってからのことだった。

「すいません、昨日は急用が入ってしまって…今日来ました」

 この俺の一言で会話は途切れ、病室には沈黙が滞った。

 俺は沈黙に耐えかねて席を立った。

「俺、もう腹減ったんで帰りますね」

「お昼時ですからね、それではお元気で」

 彼女は俺に微笑むとまた窓の外を眺めていた。様子が変だなとは思ったけど、かける言葉が見つからず、俺は病室を出てしまった。

 エスカレーターに乗って1階まで降りる途中、上りのエスカレーターをいつものおばちゃん看護師が血相を変えて上っているのが視界に入った。

 俺はなんだか嫌な予感がして、すぐに折り返して彼女の病室へ向かった。


 彼女の病室へ行くと発作を起こして苦しむ彼女の姿があった。その傍らには立ち尽くす叶汰の姿もあった。医者たちの迅速な処置で彼女の容態はすぐに安定した。

「お前がやったのか」

 叶汰は俺を睨んでそう言った。

「何のことだよ」

 俺は睨み返した。

「真結を殺そうとしたの、お前なんだろ」

「何を根拠にそんなこと言ってるんだよ」

「根拠なんていくらでもあんだよ」

 叶汰は俺の胸ぐらを掴んだ。

「真結は発作が起きない程度のナトリウム水を点滴で摂取していること、お前知ってるよな? その点滴の量が増えてたんだ。あれは誰かが意図的に変えない限り変わったりしねーんだよ!」

「俺がやった根拠にはなんねーだろ」

「俺が来る前、お前と真結は2人きりだっただろ!」

 俺は呆れて叶汰の手を力づくで離した。

「お前の言ってることは全部でたらめだ」

 俺がそう言うと叶汰は俺のことを突き飛ばして、

「お前に会ってから真結の病状はどんどん悪化してんだよ! もう真結の前に二度と顔出すんじゃねぇ!」

 と吐き捨てるように言った。俺は何も言い返さずに彼女の病室を後にした。

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