第6話 見えないせいちょう 後編

「はあ……今日も気持ちよかったぁ……」


 三日月が浮かぶ中、綺麗な星空が広がるある春の日、私は心地よい疲れと幸福感を味わいながら毛布をかけずに裸でベッドの上に寝転がっていた。

その隣では同じく裸の成政が微笑みながら私を見ており、月日も流れて更に男性的になったその見事な肉体が月明かりに晒されているのを見ながら私はさっきまでの出来事を思い出し、ふぅと息をつく。


「それにしても……あれから三年かぁ。私、もう成政以外の異性に興味持てなくなっちゃったよ」

「俺も姉ちゃん以外の女を見ても別に彼女にしたいとは思わないな。俺はずっと姉ちゃんしか見てないし、姉ちゃんにもずっと俺だけを見ていて欲しいから」

「うん、それはもちろん。でも、あんなにダメだって自分で言っててこれだからなぁ……」


 そう言いながら私はあの日の事を想起する。

からかった事で成政に激しく抱かれたあの日、我に返った私は成政とシてしまった事を後悔していたが、あの肉体と成政の中にある男性としての一面にすっかり心を奪われていた事で、私はその翌日からも成政に抱かれた。

今日だけは、なんて言っていた成政だったが、どうやら中学一年生の性への興味は凄まじかったようで、誘ってきたのも成政だった。

まだ少し理性が残っていた私はこんな関係はダメだと言ったが、少しゴツゴツとし始めた成政の身体を服越しに感じながら私を求める成政の囁きで私の我慢も限界になり、しっかりと避妊だけはして私達は毎日のように肌を合わせた。

その頃はまだ成政の顔には幼さがあった事で、初めの頃は少しだけ私も余裕を持ちながら成政に快感を与える事が出来ていた。

しかし、一年また一年と年を取るにつれて、成政の表情も少しずつ大人びていくと、私も姉としての余裕を失っていき、成政が高校一年生となった今ではただ私が気持ちよくさせられるだけになっていた。

けれど、そんな状況も悪くなく、愛する成政になら何をされても良いと思うようになっていて、一人の弟を持つ姉だった私は一人の男性に恋する女性へと変わっていた。


「……ほんと、成政はせいちょうしたんだね。男性としての性徴と生き物としての成長をして、こんなにも良い男になった。私も女性としての性徴と生き物としての成長はしたけど、まだまだ人間として、姉としては成長出来てない。本当なら弟の事を止めて、もっと違った人生を歩ませてあげなきゃいけなかったのに……」

「姉ちゃん……」

「成政、弱いお姉ちゃんでごめんね?」


 少し涙が浮かぶ中で私は成政に謝る。成政に言った言葉は本音だ。成政が私の事を一人の異性として見ていたとしても、あの日に無理にでも逃げてしまえば、成政はやはりダメなのだと考えて私の事を諦めたかもしれない。

けれど、弟からのキスと露になった肉体に惹かれて私は弟に抱かれ、その後も抱かれる快感と幸福感を求めて誘ったり誘われたりを繰り返し、そんな関係がもう三年も続いている。

私の事を愛していると言ってくれていても、もっと私自身が強くなり、私が人間的にも女性的にもせいちょうしていれば、この幾度と無く続けてきた交わりも一夜の過ちだった事に出来、成政にちゃんとした恋愛をさせてあげられたのかもしれないと思ったら、どうしようもなく悲しく、どうしようもなく情けなくなってきたのだ。


「ごめん……成政、本当にごめんね……!」


 月明かりの中で私は肩を震わせながら泣く。成政に対して強くて大人な姉でいられなかった事もそうだけど、何度も成政に愛されてきて成政を好きになってしまった事も涙の理由だ。

私が成政を異性として好きになってしまわなければ、私はその後も自分を強く持っていられたと思うけど、成政を異性として好きになった事で私も恋を知って幸せになれたのもまた事実だったため、好きにならなかったらというのはその幸せすらも否定してしまう事になり、それがたまらなく悲しかった。

そうして私が涙を流していた時、成政はふぅと息をついてから私を優しく抱き締め、その直接感じる成政の体温や肉体の感触に私はとても安心していた。


「なりまさ……」

「姉ちゃんは弱くなんてねぇよ。だから、もう泣くなって」

「でも……」

「それに、弱いっていうなら俺だってそうで、俺だって全然せいちょう出来てないんだよ」

「え……?」


 私が顔を上げると、成政は優しく微笑む。


「俺が強かったら姉ちゃんが好きだっていう想いを秘めておけただろうし、あの日の姉ちゃんの挑発にも乗らなかったと思う。俺だって血の繋がった姉弟が恋をしてこういう事をする関係になるのは間違ってるってわかってるからな」

「…………」

「それに……姉ちゃんの事は一人の異性として愛してるけど、弟として姉ちゃんに甘えたいっていう思いがないわけじゃないし……」

「え……それじゃあ私を誘ってきたりシてる時に抱きつきながら何度も私の名前を呼んでくるのって……」

「……ああ、姉ちゃんに甘えてたんだよ。姉ちゃんの、愛する女の前では強い男でいたかったけど、やっぱり俺は弟で姉ちゃんは俺の姉ちゃんだから……」


 そう言う成政の顔は赤くなっていて、さっきまでの頼れる一人の男性としての姿ではなくまだまだ甘えたい盛りの可愛い弟としての姿になっていたのが、おかしかったけれど同時に嬉しかった。


「……そっか」

「性や体のせいちょうはもう進んでるけど、俺達の人間としての成長はまだまだだ。だから、これからもそばにいて一緒に歩んでいって欲しい。姉弟としても恋人としても」

「……うん、もちろん。私も成政を好きになった以上はちゃんと最後まで一緒にいるよ。大切な恋人で大切な弟だからね。弱い子供同士、お互いに補いあいながら行こう、成政」

「ああ、姉ちゃん」


 成政と笑いあった後、私達は抱き合いながらキスを交わし、相手を愛おしく想いながら舌を絡め合う。これまではお互いに気持ち良くなったり行為の準備のためのキスだったけど、このキスは違う。このキスは私達が初めて相手を想いながらしている愛のキスなのだ。


「んっ、むぐ……はむっ……」

「はあっ……んぅ、むぅっ……」


 いつものように舌を絡め合う事で出る水音と荒い鼻息、相手を求める事で思わず出てしまう声が部屋に響き、その声や音は私達を更に興奮させていく。

そうして舌を絡めたキスを十数分程度した後、私達は口を離した事で出来た涎の橋を見てから相手の顔をじっと見つめる。

薄暗い部屋で月明かりに照らされる成政は子供と大人の中間のような顔や肉体をしており、そんな成政がカッコいいと思うと同時に可愛いと思い、私は成政に対してにこりと笑った。


「成政、大好きだよ」

「……俺も大好きだよ、姉ちゃん」


 お互いに大好きである事を伝えた後、私達はまた姉弟として、そして一組の男女として相手を求めながら愛し始めた。

夕飯を食べて両親が寝静まったのを確認してからさっきまで何度もシていたのに、相手への想いを再確認した事や少し休憩を取った事で私達の体力は回復していたため、両親に聞こえないように声に気をつけながら私達は何度も愛し合う。

キスをしながら成政の引き締まった身体を愛撫して成政が気持ち良さから身を震わせるのを楽しんでいたけれど、成政も負けじとあらゆるところを刺激して私を何度も絶頂させる。

やっている事自体は愛し合う男女の愛の行為ではあったけれど、相手にちょっかいを掛け合うという言い方をすれば、これもまた姉弟でのじゃれあいみたいな物であり、私達は姉弟でありながらも恋人であるというこの状況を楽しみながら夜を明かした。

そして、私の肌の至るところが成政のキスや上がった体温で赤くなり、汗や相手の体液などでベッドの上がびちゃびちゃになった頃、私達は遂に体力の限界がきて揃ってベッドの上に体を倒した。

行為に夢中になっていたからか外は少しずつ明るくなり始めており、外から差し込んでくる弱い光に照らされた成政の顔や肉体は月明かりに照らされて見えた物とはまた違った魅力を感じさせた。


「……もう朝になっちゃうね」

「……だな。まあ、今日も休みでどこかに出掛ける予定もないから、シャワー浴びてベッドも片付けて、後は二人で思う存分寝てたら良いんじゃないか?」

「ふふ、そうだね。はあ……一緒に成長していくって決めたけど、流石にお父さん達にはこの事は言わないといけないなぁ。流石に隠したままには出来ないし、いつかは気付かれそうだしさ」

「まあな。母さんには泣かれて、父さんにはぶん殴られ、俺達の今後を考えてなんて言われて離ればなれにされるかもしれない」

「うん……でも、私は離れる気はないからね」

「俺も離れる気はない。それが姉ちゃんを好きになった俺の責任だからな」


 そう言う成政の顔はまた大人びており、私はそんな成政に頼もしさを感じて静かに抱きついた。

その後、しっかりとシャワーを浴びてベッドの片付けや着替えをしてから二人で寝ていたところを両親に見つけられ、私達は睡眠を取ってから両親にリビングへ呼び出された。

両親の表情から私達の関係について少しは勘づいているとわかり、私達は覚悟を決めて姉弟でありながらも恋人でもある事を話した。

話している最中、両親は複雑そうな顔をしていて、私達も緊張で手汗や口の乾きが酷かったが、話さないといけない事だったため、決して逃げずに最後まで話した。

話を終えると、両親は顔を見合わせてから揃って息をついており、やはりダメかと考えていると、私達の予想に反して両親は私達の関係を認めてくれた。

驚きながらその理由を訊いてみると、なんと両親も元々は姉弟だったらしく、両親も勘当を覚悟しながら祖父母にその事を伝えると、祖父母はしっかりと覚悟を決めていてお互いに最後まで愛し続けられる程に好きなら何も言わないと言ってくれたようだった。

だから、私達が生まれてきた時ももしかしたらとは思っていた上に隠れてシていたのも実は気付かれていた事もわかり、私達は驚くと同時に血は争えないなと思っていた。

その後、両親は姉弟で恋人になる事の大変さや社会的な目などについてもしっかりと教えてくれ、私達はそれを聞きながらこの関係を続けるためにしっかりと覚悟を決めた。

両親達も苦労してきたように私達もこの関係を続けるためには色々な苦労もあるだろうし、中には軽蔑してきたり酷い言葉を言ってきたりする人もいるだろう。

だけど、私は決してくじけない。愛する人と一緒に成長していくと決めているし、成政がこれまで見えないところでせいちょうしてきたのを今度はそばで見守ると決めたのだから。

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