第6話 見えないせいちょう 前編

 せいちょう、という言葉がこの世の中にはある。このせいちょうとは色々な物があって、それは成長であったり生長だったり、人によって整腸という物に馴染みがあるかもしれない。

だけど、私にとって一番馴染みがあったのは“性徴”だった。性徴とは、動物の雌雄を判断する際に基準となる特徴の事で、私達人間もその例に漏れず、バカな事を言ったりしたりしていた男の子はだんだんカッコよく逞しい男性に、可愛らしくて体つきも小さい頃は男の子と似ていた女の子はだんだん綺麗で色々なところが大きくなった女性になっていく。

それは私達長尾ながお姉弟も同じで、姉である私、育美いくみもぺったんこだった胸は大きくなって顔も少しずつ女性的になり、二歳下の弟の成政なりまさも筋力や体力もついてガッチリとした男性的な体格へと成長した。

私にとってはいつまでも可愛い弟だけど、その性徴はそんな私達の思いや意思を考慮せずに訪れて、いつしか私は実の弟を一人の異性として好きになっていた。

それを初めに自覚したのは、私が中学三年生で成政が中学一年生の夏だった。その日はとても暑く、受験生としては勉強を頑張らないといけなかったけれど、暑さとダルさでそれどころではなかった。


「はあ……あっつ。扇風機の風くらいじゃ全然涼しくない……もう服も汗でビショビショだし、せっかくだから下着姿でやろうかな」


 汗で濡れた服とズボンを脱ぎ、ブラジャーとパンツだけになると、扇風機の風が肌に直に当たってとても涼しく、着ている物が少ないという状況は私に解放感を与えた。


「ふう、涼しい……まあ、この格好だと少し恥ずかしいけど、家の中だし見るとしたら家族くらいだから良いでしょ。それにしても……お風呂の時も思ってるけど、こうして改めて見ると、私の胸やお尻って大きいんだなぁ」


 下着で隠れている部分に目をやりながら独り言ちる。私は同級生の中では発育が良い方らしく、胸とお尻が大きい中で顔は小さい方からか友達の女の子達からは羨ましがられている。

ただ、それを意識しているのは男子達もそうみたいで、直接的に言われたわけでは無いけれど、男子達で集まって話してる時でも時々私の胸やお尻をチラチラ見ているのはわかっていて、その時もエロいだとか触りたいだとかいう声も聞こえてくる。男子的には見てないフリをしていたり聞こえないように言ったりしているんだろうけど、結構視線や声はこっちには筒抜けなのだ。

女の子達はそれを聞いてそういう目でしか見られないのは最低とか子供っぽいとか言って冷たい目で見ていたけれど、私はその男子達の反応に少し驚いていた。

小学校の頃から少し他の子よりも違いはあるかなと思っていたけど、同じ小学校から上がってきてこれまでそういう目で見てこなかった男子も少し女性的になっただけで性的な観点から見始めたわけだからその驚きも当然だと思う。

因みに、ウチの成政も前までは一緒にお風呂に入ってもあまり気にしないどころか遠慮なしで触ってきたのに、お風呂に一緒に入るのを止めたり私が薄着でいるだけでチラッと見てから喉をゴクリと鳴らすようになっていたので、実の弟である成政から見ても私は結構女性的な体つきなのだろう。

そんな事を考えていた時、部屋のドアがトントンとノックされると、ドアの向こうから成政の声が聞こえてくる。


「姉ちゃん、ちょっと良い?」

「うん、良いよ。入っといで」

「ああ、わかっ──って、なんて格好してるんだよ!?」


 ノートや筆記用具を持って入ってきた成政が顔を赤くしながら大声を上げる。まあ、姉が部屋の中とはいえ下着姿でいたら、流石に驚くだろう。


「今日も暑いでしょ? だから、服も汗でビショビショだし、せっかくだから下着姿でやろうかなと思って」

「暑いのはわかるけど……!」

「それで、どうかな? 自分の部屋で下着姿でいる実の姉って弟からしたらどう思う?」


 セミロングの茶髪を軽くかき上げながら訊く。別にそのアクションはいらなかったけど、そうしてみた方が成政を少しからかえるかなと思ってやってみたのだ。

そしてどうやらその効果はあったらしく、成政は顔を赤くしたままで私を見たりそらしたりを繰り返しながらどぎまぎしており、そんな成政の姿が私には可愛らしく見えた。


「ふふっ、答えられないくらいセクシーだったわけだね。それで、アタシに何の用?」

「え……あ、ああ、受験生なのはわかってるけど、ちょっと勉強を教えてもらいたくて」

「まあ、ノートや筆記用具を持ってるもんね。いいよ、私も教える事で復習になるから」

「あ、ありが──」

「だけど、その代わりに成政も下着姿になってね」


 私の言葉に成政は驚きで体をビクリと震わせ、その短い黒髪がふわりと揺れる。成政は趣味が筋トレだからか筋肉もそこそこついていて、背丈も他の男子よりは高い方な上に体格も前よりはガッチリとしている。

だけど、カジュアルな服装とはいえ、成政が服を着ているのを見ると、こっちまで暑くなってきてしまうし、久しぶりに成政の体がどんな風に成長したかを見たかったのだ。


「え……あ、えっと……」

「あれ……成政、もしかして恥ずかしいの? 実の姉の前で下着姿になって恥ずかしがっちゃうの?」

「そ、それは当然だろ……!」

「でも、いつかは成政にも彼女が出来るんだから、その時には下着姿よりも恥ずかしい姿を見せる事になるんだよ? だから、今の内に私を練習台にして慣れておいたら?」

「姉ちゃんを……練習台に……」


 呟くように言った成政の目に少し妖しい光が宿った気がしたけど、私はそれを気のせいだと思ってもっとからかうために言葉を続けた。


「そう。こんな風に練習台になってくれる姉なんていないんだから、今の内に──」

「……わかった」

「え……?」

「それじゃあ姉ちゃんの言葉に甘える事にするよ」


 目が据わった状態で成政は答えると、持っていた物を机の上に置いてから私の方を向く。その顔がどこか真剣だったからか相手が実の弟だとわかっていても少しドキリとしてしまっていると、成政は顔を近づけてきてそのまま自分の唇を私の唇に重ねた。


「んっ……!?」


 いきなりキスをされると思ってなかった私は驚いたけれど、重なった唇の柔らかな感触がとても心地よく、その後に私の唇の間から入ってきた成政の舌は優しくもねっとりとした動きで口内を動き回ったり舌に絡み付いたりして少しずつ快楽で私の心を解きほぐしていった。


「んっ、んむぅ……はむっ……」

「はぁ……んぅ、むはぁ……」


 私達しかいない室内で鼻息や水音、お互いを求める息づかいが響き、しばらく姉弟での熱いキスが交わされる。そうして数分くらいキスをした後、離れていく成政の口と私の口の間によだれの白い橋が架かる中、成政はボーッとする私の前で服を脱ぎ始め、その程よく筋肉がついて中学一年生にしては少し男性的に成長した裸体を露にする。

テレビで見るアスリートの人達程では無かったけれど、こうして間近で見ると、腕や足にも筋肉がついていて、腹筋も少し割れているのが確認出来、これまで可愛い弟だと思っていた成政がカッコいい男性に見え始めていた。


「な、なりまさ……」

「……姉ちゃんが悪いんだ。俺は姉ちゃんを練習台なんかにしたくないし考えたくないのに、俺の気持ちも考えずにそんな事を言うから……俺は、姉ちゃんの事を一人の女として好きなのに……!」

「え……」

「姉ちゃんはいつもそうだ。俺をいつも子供扱いしてからかってきたり少し小馬鹿にしてきたり……俺は姉ちゃんに一人の男として見てもらいたいんだ。二歳下の弟じゃなくしっかりとした男として!」

「なりまさ……」

「だから、ごめん。少しでも姉ちゃんに意識してもらうために、これから“イケナイ事”をするよ」


 そう言いながらまた顔を近づけてくる成政の姿をボーッと見ていたが、その言葉の意味に気づいた瞬間、私の中で成政を止めないとという警報が鳴り始めた。


「だ、ダメだよ……! 私達、血の繋がった姉弟だし、お母さん達だっているのに……!」

「ああ、母さん達ならいないよ」

「えっ……?」

「さっき、急に出掛けないといけないからって急いで出ていったし、夜まで帰ってこないって言ってたから、焦らずに姉ちゃんに意識してもらえそうだな」

「そ、そんな……」

「……姉ちゃん、終わったら幾らでも叱られるし殴られもするから、今だけは俺の女になってくれ」


 そんな普段の成政なら言わなそうな事を言う成政の表情はどこか大人びており、その姿にドキドキしている内に私は再び成政からキスをされた。

その後、ベッドまで運ばれた私は下着すらも脱がされて裸になり、成政のように見える男性に何時間も愛され、これまでに感じた事がない気持ちよさと幸福感で胸がいっぱいになっていた。

本当なら押し退けてでも逃げ出して、夜までどこかに行っていた方が良かったのかもしれない。だけど、与えられる快楽はまるで麻薬のように私の中にゆっくりと染み込み、最初はどうにか拒んでいた私も自分から愛される事を欲するようになっていた。

その事に驚きはしていたけど、昼を過ぎて自分から相手を気持ちよくさせたいと思うようになっていた時に私はどうしてそうなったのかわかった気がした。

成政が私を愛しているように私も成政を愛するようになったからだ。自分でも言ったように私達は血の繋がった姉弟で、こんな事をしたり相手に恋をしたりするのはよくない。だけど、中学一年生にしてはせいちょうしていた成政のカッコよさや逞しさ、優しさやセクシーさに気づいていく度に私の心は徐々に成政に奪われていき、夕方になる頃には、私は一人の弟を持つ姉から一人の男性を愛する女になっていた。


「なり……まさ……」

「姉ちゃん、本当に可愛いよ。姉ちゃんは最高の女だ」


 交わる度に幾度と無く成政の口から出てくるそんな言葉に嬉しさを感じ、成政という異性から愛される事で幸せを感じるようになっていた私はそれを求めるために成政と繰り返し交わった。

そうして愛し続け、夕暮れ時になってようやく成政の体力が尽きると、成政は私の隣に横になりながらいつもの子供っぽさの残る顔で眠り始め、その姿に私はようやくまた成政を可愛らしいと思えるようになっていた。


「……違う勉強を一緒にしちゃったね」


 成政は本当は学校で習う勉強を一緒にするために来たのに、私が悪ふざけをした事で学校では習わない勉強を一緒にしてしまった事が哀しかった反面、成政と一緒に出来た事を嬉しく思っていた。

姉として成政の事を叱るべきだし、もうこんな事をしたらダメだというべきなのはわかる。だけど、すっかり成政に心を奪われた私にはそんな事は言えなかった。


「……見えないところで成政もせいちょうしてたんだ」


 私の隣で眠る成政とさっきまでの成政を比べながら独り言ちていた時、私もまたせいちょうしていた事を実感した。

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