最終日朝「なんで避けないの? キスしちゃったじゃん!」

紗矢

「ん……朝か」


波矢

「おはよう紗矢ちゃん」


紗矢

「おはよ。アラームってまだ鳴ってない?」


波矢

「うん、設定した時間よりも少し早いよ」


紗矢

「そっか……ふぁああ」


波矢

「……おっきな欠伸だけど眠いの? 寝不足? 何故か思い当たるフシあるんだけど……」


紗矢

「私もあるわね……けど違うわ。今日で合宿も終わりだし、今晩は自分のベッドでゆっくり寝られるなと思ったら自然と」


波矢

「あーうん。わたしもわかるなぁ。結局は自分のベッドが一番だよねぇ」


紗矢

「……波矢、顔近い」


波矢

「わたしも紗矢ちゃんも起きたらこの距離だったもんねぇ」


紗矢

「……これ、どう考えても私の寝相が原因で波矢側に寄っちゃってるのよね?」


波矢

「いやぁ……それがね、わたしも大分紗矢ちゃん側に寄っちゃってるんだよねぇ」


紗矢

「……つまりお互い様と」


波矢

「うん」


紗矢

「……波矢?」


波矢

「……小説とか漫画でよくある、吐息のかかりそうな距離ってこういうのを言うんだろうなぁなんて」


紗矢

「かかりそうって言うか、かかってるじゃないのよ……」


波矢

「ふーっ」


紗矢

「……どういう反応するのが正解なのよ、この場合」


波矢

「吹き返せばいいんじゃないかな」


紗矢

「…………ふーっ」


波矢

「…………ごめんね、反応に困るね……これ」


紗矢

「でしょうね!」


波矢

「わっ、この距離で大きな声出さないでよぉ、ツバ飛んでるし……」


紗矢

「それはごめん」


波矢

「じー」


紗矢

「ん? なに、私の顔をジッと見て」


波矢

「……」


紗矢

「ちょ、なんで更に近づいてくるのよ」


波矢

「――ちゅ」


紗矢

「――ん!?」


波矢

「なんで避けないの? キスしちゃったじゃん!」


紗矢

「ツバ飛んでるってば」


波矢

「そのネタはいいから」


紗矢

「ネタなんかい……抵抗しなかったのは自分でもわからない……けど」


波矢

「けど?」


紗矢

「なんか、波矢となら……避けなくてもいいかなって思っちゃったのよね」


波矢

「へ、へぇー」


紗矢

「あんた自分の今の表情見てみなさいよ。にへらぁとしててキモいから」


波矢

「そういう紗矢ちゃんは、必死に視線逸らそうとしてるけど近すぎて出来てないよ?」


紗矢

「うっさい」


波矢

「あ、ほっぺどころか首筋まで真っ赤になってる」


紗矢

「わかっててもそういうことは指摘するんじゃないの! というかなんであんたは平然としてられるのよ」


波矢

「……わたしも結構、恥ずかしいよ? これでも」


紗矢

「そう見えないから言ってるのよ。これじゃ私だけが変に意識してるみたいじゃない」


波矢

「そうですね、紗矢先輩」


紗矢

「あ、こら、なんでこんなときに私が歳上ってことを意識させてくるのよ!」


波矢

「ねえ、紗矢ちゃん」


紗矢

「……なによ」


波矢

「拗ねてる?」


紗矢

「拗ねてない」


波矢

「紗矢ちゃん」


紗矢

「だからなによ? ……まぁなんとなく予想つくけど」


波矢

「流石幼馴染み」


紗矢

「いいから言いなさいよ」


波矢

「今度は紗矢ちゃんからキスして欲しいなぁなんて」


紗矢

「私からすると思ってるわけ?」


波矢

「うん、今ならワンチャンしてくれるかなぁって思ってるよ?」


紗矢

「……恥ずかしいからヤダ」


波矢

「えぇ……わたしはしたのにぃ」


紗矢

「あんたが勝手にしてきた――」


波矢

「ん――」


紗矢

「――んむっ」


波矢

「えへへ……」


紗矢

「な、なにしてんのよ!」


波矢

「なにって、キス?」


紗矢

「あ、あんたねぇ!」


波矢

「二回目のほうが動揺するんだね」


紗矢

「う、うっさいっ」


波矢

「紗矢ちゃんの唇しっとりしててやわらかぁい。それに、触れた瞬間、ピクって動くの可愛いよねぇ」


紗矢

「やめて自分の唇の感想とか聞きたくない」


波矢

「……もう一回してもいい?」


紗矢

「いいわけないでしょうが」


波矢

「んー」


紗矢

「わざとらしく唇突き出すのやめなさいよ」


波矢

「嫌なら避ければいいんじゃないかなぁ」


紗矢

「……まったく」


波矢

「おぉっ、こ、この流れで抱きしめられるのは予想外かもっ」


紗矢

「やっと波矢も照れたわね……私だけ不公平じゃない」


波矢

「変なところで負けず嫌いを発揮しないでよぉ」


紗矢

「――ちゅ」


波矢

「――ぁ」


紗矢

「こ……これでいいでしょっ」


波矢

「……くすっ、これ、されるの、恥ずかしいね」


紗矢

「……するほうも恥っずいから」


波矢

「お相子だね」


紗矢

「……そうね」


波矢

「ねえ紗矢ちゃん」


紗矢

「なに?」


波矢

「これからもたまにでいいから……一緒のベッドで寝たいなぁなんて」


紗矢

「……たまに、ならね」


波矢

「うんっ、そう言ってくれる紗矢ちゃん好きだよ?」


紗矢

「……」


波矢

「そこは紗矢ちゃんもわたしのことを好きって返してくれる流れじゃないの!?」


紗矢

「……いや、どうしてこうなったのかなと」


波矢

「合宿始まったときはわたしと同じベッド嫌がってたのにね?」


紗矢

「ほんとどうしてこうなっちゃったのかしらね。でも――」


波矢

「でも?」


紗矢

「――嫌じゃない……かもね」


波矢

「最後に余計なの付いてるよぉ!」


/アラーム音


紗矢

「さ、合宿最終日がんばろ」


/ベッドが軋む音


波矢

「あっ! ちょっと紗矢ちゃん!」


紗矢

「波矢も起きた起きた」


/ベッドが軋む音


波矢

「待ってよーっ!」


END





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相部屋までは我慢するけど、なんでベッドがひとつなの!? 綾乃姫音真 @ayanohime

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