Day6『どんぐり』

 カラン、と乾いた音が響いた。何か落ちたのだろうか、と思って床を見る。

 どんぐりが一粒、落ちていた。つやつやの、大ぶりなどんぐりだ。

 なんでこんな所に、と訝しんだ。私は独り暮らしだし、この家も山や森からは程遠い。何か荷物にでも混じっていたのだろうか。子供の悪戯か何かで、ポケットの中にでも仕込まれたのだろうか?

 出所不明のそのどんぐりが、途端に何か不快なものに思えてきた。眉をひそめて、窓を開ける。そして放り投げようと、腕を大きく振りかぶった。

「あ、お前そんな所に居たの」

 そのままの姿勢で、硬直する。声は、すぐ近くで聞こえた。そろりと、視線だけ下ろすと……アルミサッシのすぐ下、レールの外側に、それはいた。

 どんぐりだ。どんぐり。……三、四粒のどんぐりが、列を成して。

 そこを歩いていた。

「いやぁ、うっかり紛れ込んでしまってね」

 そう返事をしたのは、掌の中にあったどんぐりだ。もぞもぞと蠢くように、しかし快活に返事をしている。まるで当たり前みたいに。

「ドジだなぁ」

「うるさいよ」

「さあ人間さん、それを下ろしてくれませんか」

「うちらの連れがすいませんねぇ」

 はぁ、と思わず返事をしながら、震える手で、どんぐりをレールの上に置く。――仲間の元に、返してやる。

「やあ、ありがとうございました」

「それでは」

 頭を下げたのだろうか。どんぐり達は各々の体をカラコロと揺らしながら、そろそろと帰って行った。夜の闇の中へ、消えていった。

 ピシャリ、と窓を締め、カーテンを閉じる。今更になって、冷や汗が止まらない。

「人間さん」

 と私に呼びかけた声が、妙に生々しく頭の中に響いていた。つまりアレは、人間ではないということなのだろう。

 じゃあ一体、何だったんだ?

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