繊細さん

比嘉パセリ

1 HSS型HSP

「ねぇつみき、HSPって言葉聞いたことある?」


普段通り騒がしい教室の隅で、先程まで読書の世界に耽けて集中していた“つみき“と呼ばれた少女は首を傾げる。彼女は普段から単独行動を好むような子であるが故、こうして人に話しかけられると、つい肩が上がって緊張気味になってしまうことが多々ある。


「なにそれ…。心理学の本にでも書かれていたの?」


「そうそう!“生まれつき“繊細な人のことを言うんだって。

中でもHSS型HSPっていうのは、外交的で凄く好奇心旺盛な性格なのに、めっちゃ繊細な人の事を言うんだって。めっちゃ矛盾してるけどさ、“病気じゃない“のに生まれつき持ってるだなんて、何だか可哀想だよね〜。」


“HSP“。

初めて聞いた言葉のはずなのに、脳内で其の言葉だけがずっと渦を巻くようにして台風のように停滞している。少し前に、“私、心理カウンセラーになりたいんだ!“と自慢げな顔をしてつみきに話していた観月にとっては、彼女に話さずにはいられないとウズウズしていた。



「…人付き合いとか、恋愛だとか色々と苦労しちゃいそうだもんね。何だか少し理解できるような気がする…。」


「つみきが?あ〜…確かに。つみきって小さい頃から好奇心旺盛というか…刺激を追い求めて刺激の溢れる世界に飛び込むところがあるけど、次見た時には心がズタボロにやられているような〜…。」


「…観月の言葉は少し心に刺さる…。でもあながち間違ってないから何も言い返せないのがちょっと悔しい…。」


観月、と呼ばれた少女は手に持っていた紙パック型のジュースで喉を潤しながら、積み木の発言に明るくけらけらと笑いかけた。



「そりゃね〜。小さい頃からずっと一緒だから、良い面も悪い面も知ってるからいざそういう事言われたらぐさってくるか〜…。」


腕を机につき手に頬を添えながら、うんうん、と頷きながらつみきの言葉に耳を傾ける観月の姿は、妹の話を聞いてあげる温和なお姉さんのようだ。



「実際さ、私がこうやって話しかけてない時はいつも読書してるし。後は音楽聴いたり…それか、寝てる?気がする。」


「読書している時って、その本の中の世界に入り込める様な気がして好きなんだよね。なんていうか…一連の物語を傍で見ているような感じ。…最近はほのぼのとした物語をよく読んでいるんだけどね、やっぱ胸の奥がこう…ぽかぽかするから自然と元気になれるの。」


つみきは机の中から一冊の本を取り出すと、本をぱらぱらとめくり小さな文字一つ一つを愛おしそうに見つめながら、ふにゃりと幸せそうな笑みを浮かべた。



「…因みにね、そのつみきの“感受性が豊か“な部分も、さっき話した“HSP“っていう“気質“に含まれるんだよ〜。あ、そうだ!もし時間があるならさ、今日帰宅した後にでもいいから、つみきも調べてみなよ!案外共感できる部分が多いと思うからさ。」


「…うん、分かった!」


普段通りの騒がしい休み時間なのに、観月が教えてくれた“HSPという言葉がきっかけで、いつも以上に充実した時間を得られたような気がしたつみきであった。

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