Novelber day 13 『樹洞』

 ――あの穴には、な。

 と、先導していた叔父が言う。叔父は、口元を深くマフラーで隠し、半ば嫌々といった様子で、その方向を見た。……樹に、大きな穴が空いている。いわゆる樹洞、という現象だろう。

 ――あの穴には、な。神様が棲んでいるんだ。

 ――神様?

 叔父は、どちらかというと現実主義者で、神様や信仰に関する話題を口にすることは殆どなかった。今、こうして話している口調からも、信心よりも……恐怖心を、感じる。

 ――だからな、決して近づいてはいけないよ。

 ――神様なのに?

 ――神様だから、だ。

 これ以上は何も言いたくない、という態度で、彼は私の腕を強く引っ張った。私は、引き摺られていきながらも、首だけをその樹に向ける。

 周りに注連縄も、供えられた御神酒のようなものもない。ただの樹。ただの穴だった。

 ……暗くて、暗くて、どこまでも落ちていきそうな。

 雪景色の中で、ぽつんと黒く浮かび上がっているような――それは深い、穴だった。

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