九鬼円香は〇〇する
◆
「んじゃ、オレらは電車だから。じゃーな」
「レンたん、とーやくん! ついでにくっきーも、また明日ー!」
「私はついでか!」
俺、恋歌、九鬼以外のみんなが駅に入っていく。
一気に人数が減ったから、少しだけ寂しいと思ってしまった。
今までこんなに誰かに囲まれたことはなかったから、人疲れしたけど……楽しかったな、思いの外。
けど俺以上に、恋歌だよな。
「恋歌、大丈夫か?」
「……はぁ〜。き、きんちょーした……」
だろうな。ずっと気を張ってたみたいだし。
気が抜けたのか、俺の服を摘んで深々と息を吐く恋歌。
本当に頑張ったよ、この子は。
恋歌たちを連れて、駅を離れる。
口数は少ないが、こういうことに唯一慣れてる九鬼がくすくす笑った。
「常澄くん、恋歌ちゃん。今日はどうだった?」
「……悪くはなかった。けど、毎日これだと死ぬ」
「ウチも……」
「あはは。さすがに毎日じゃないよ。みんな部活とか用事あるし」
それもそうか。どんだけ仲良くても、ずっと一緒なわけないし。
ちょっとだけ、ほっとした。
「これが恋歌の憧れてた世界、か。これから大変だな、恋歌。頑張れよ」
「え、何言ってるの? 十夜もずっと一緒でしょ?」
「……マジ?」
え、今日だけじゃないの? それか、たまにだけ絡むような仲とかさ。
あのキラキラしたグループにずっといたら、俺の中の何かが浄化される気がするんだけど。
想定外のことに困惑していると、九鬼が嘆息した。
「常澄くん、私が君を呼んだのは、恋歌ちゃんのためでもあるんだよ」
「恋歌のため?」
「だってあの状況で恋歌ちゃんを1人にしたら、どうなると思う?」
1人にしたらどうなるか……?
…………。
「……泣くな」
「泣かないよ!?」
いや、泣くでしょお前は。
弱い力でぽかぽか殴ってくる恋歌の頭を撫でると、すぐき機嫌を直した。
「常澄くんを呼んだのはノリと勢いもあるけど、半分は恋歌ちゃんのため。言ってしまえば保護者だよ」
「なるほど、把握」
それなら任せろ。昔からの得意分野だ。
だが、俺と九鬼の話を聞いていた恋歌は、むすーっとした顔で俺たちを交互に睨んできた。
「なんか納得いかない。ウチ、十夜がいないと何もできない子みたいじゃん」
「事実だろ?」
「そんなことないもん! 十夜がいなくても何でもできるし!」
「それ、1年前にも聞いた」
「……確かに」
あれを考えると、まだまだ恋歌からは目を離せないよ。
「少しは反省しなさい」
「あーい」
まったく、やれやれだ。
と、俺たちのやり取りをみていた九鬼が、少し居心地が悪そうに頬をかいた。
「九鬼、どうした?」
「えっ? あー……その、2人って、お互いのこと大切にしてるんだなー、と……」
「そりゃな。幼馴染だし」
「うい」
気の合う幼馴染じゃないと、こんなに大切にすることはないと思う。
けど九鬼は、そんな答えじゃ納得していないようで。
意を決したように、続きを口にした。
「えっと……ふ、2人は、お互いを好きあってるの……?」
「「…………好き?」」
好き……んー……?
「いや、ないな」
「ウチもないかなー。十夜に対しての恋愛感情はないよ」
昔から兄妹同然で育ったせいだろうか。
今更、お互いにそんな感情を持ちようがない。
「えぇ……そんなアニメみたいなこと、本当にあるの?」
「俺たちが証明です」
「今の関係が心地いいからね。これ以外考えられないよ」
恋歌と肩を組んで、ピースをする。
こんなボディータッチも日常茶飯事だ。俺を背もたれに座るのも、同じ布団でゴロゴロするのも、いつも通りだもんな。
「へぇ……ならさ、お互いに好きなタイプとかいないの?」
「好きなタイプ?」
こりゃまた、唐突な話だな。
俺の好きなタイプか……思えば、誰かを好きになったことってかいかも。
でも、そうだな……。
「強いて言うなら、オタク趣味に理解があって、1日中一緒にいても居心地が悪くなくて、安心できる相手かな」
「おー、ウチも同じ。居心地マジで大事」
「「なー?」」
となると、恋歌が今のところ当てはまる。
けど、恋歌は異性というより家族みたいな関係だ。
感覚としては、夜美に近いものがある。
だから好きとは言えない関係なんだ。
「それ、お互い……気付……なぃ……」
「円香ちゃん、ぼそぼそ呟いてどしたの?」
「なっ、なんでもないわ」
「そう? なら早く帰ろっ。お腹空いたー」
恋歌がスキップして帰路を急ぐ。
そんなに急ぐと転ぶぞ──と、言いかけたところですっ転んだ。
「とぉやぁ〜……ころんだぁ……!」
「アホか」
もう少し落ち着きをもってほしい。もう高校2年生なんだから。
急いで恋歌のもとに向かい、泣いてる恋歌を起こす。
──そのせいで、九鬼が呟いた言葉は聞こえなかった。
「……いいなぁ……」
〇ッチギャルのお相手は、幼馴染の俺のようです 赤金武蔵 @Akagane_Musashi
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