横島恋歌と初〇〇──④
「窓からどうも、恋歌ちゃんです」
「おー、おかえり」
あれから1時間くらいして、恋歌が帰ってきた。窓から。
それはいい。いつも通りだ。……が。
「おじゃましまーす」
「……え、九鬼?」
なんで九鬼が窓から? いや別にいいけどさ……。
恋歌はいつも通りベッドにダイブ。おま、九鬼がいるんだなら少しは自重しろ?
クッションの1つを九鬼に渡すと、お礼を言って床に座った。
「帰ってきたんだな。初お出掛け、楽しかったか?」
「めちょ楽しかったー」
「そいつはよかった。九鬼も、恋歌に付き合ってくれてありがとうな」
恋歌の頭を撫でながら九鬼にお礼を言うと、満面の笑みで首を横に振る。
「気にしないで。私もすごく楽しかったから」
「……そっか、そいつはよかった」
2人のことはほとんど見てたけど、確かに楽しそうだったもんな。
いいなぁ。俺も友達と遊びに行きたい。遊びに行く友達、いないけど。
「そうだっ、十夜にお土産買ってきたんだよ!」
「え、お土産?」
なんでお土産? 別に遠出したわけでもないのに?
首を傾げると、九鬼が紙袋を渡してきた。
これは……マカロン、か? なんでマカロン?
「これ2人から。ここのマカロン、すっごく美味しくてね。常澄くんに食べてほしくて」
「そ、そうか……ありがとう、2人とも」
これはありがたくいただきます。
思えば、女子からのプレゼントなんて人生初だ。
は? バレンタイン? ぶっ〇すぞ。
「でも、なんで突然お土産?」
「日頃のお礼も兼ねてね。常澄くんのおかげで、恋歌ちゃんとも仲良くなれたし」
「ねーっ」
お……おおっ。そうか、そうか……! 恋歌、ちゃんと仲良くなれたんだな。
あの後、もしかしたら台無しになってしまったのかと思ったけど、そんなことなくてよかった。
ついに恋歌にも、リア充の友達が……感慨深い。泣ける。
ここ数日、俺泣きすぎじゃない?
ありがたくマカロンを一口食べる。
うぉっ……うめぇ……! なんだろう、この洋風モナカ感。ピスタチオ味、うますぎる。
これがリア充の食べ物ってことか(偏見)。
「それにしても、常澄くんの部屋は漫画やゲームがたくさんあるね」
「んぉ? ああ、趣味だからな」
「こういうの、好き?」
「もちろん。生き甲斐だ」
オタ活のない俺なんて考えられない。
それは恋歌も同じだ。……いや、同じだと思っていた。
けど、目指せ陽キャ、目指せリア充を目指してすべてを切り捨てた。
ある意味ですごい覚悟だ。俺には真似できない。
「生き甲斐って、十夜おおげさすぎじゃない?」
「何を言う。生き甲斐があった方が人生華やかだろ」
恋歌だって、ここ最近は入り浸って1年間の穴を埋めるように読み漁ってるだろ。
つむじをぐりぐりくらえ。
ぬぐおぉぉ……と声を上げている恋歌を見ていると、目の端に辛そうな顔の九鬼が見えた。
「九鬼、どうした?」
「……え。な、何が?」
「いや、なんか変だから」
「そ、そんなことない。大丈夫だから。……ただ、羨ましいなって……」
羨ましい……?
九鬼の言っている意味がわからず、首を傾げる。恋歌も似たような反応だ。
「好きなものに全力になるって、ここ数年なかったから……」
「そうなの? 円香ちゃん、いつも全部に一生懸命だと思うけど」
「みんなの前ではね。けど……なんのために頑張ってるのか、わからなくなるときがあるの」
…………? やっぱりよくわからない。
恋歌と顔を見合わせると、九鬼は無理に笑顔を作って立ち上がった。
「ごめんなさい。用事があるから、帰るわね。今日はありがとう、楽しかったわ」
「あ、うん。送ってくよ」
恋歌と九鬼が、窓から恋歌の部屋に戻っていく。
結局、最後まで九鬼が何を言いたかったのか、俺にはわからなかった。
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