横島恋歌は〇〇たい──③

「え? 九鬼と遊びたい?」



 学校での昼休みのこと。

 恋歌からメッセージで、学校の校舎裏に呼び出されたときは何事かと思ったが、そういうことらしい。


 隣に座る恋歌は、指をもじもじとさせて、無言で頷く。

 なるほど、誘うのが恥ずかしいんだな。

 いやぁ、そんなこと言われても、俺も誰かを遊びに誘ったことなんてここ数年ないんだけど……参ったな。


 けど、せっかく恋歌が遊びに誘おうとしてるんだ。俺もできる限り協力はしたい。

 母さんの作った弁当をつまんで、方法を考える。



「そうだな……メッセージじゃダメなのか?」

「だ、だめっ。こういう大事なことは、ちゃんと誘いたいし……!」



 恋歌なりのプライドみたいなものか。

 でもそうなると、恋歌が勇気を出す以外に方法はないような。



「うーん……俺を相手に練習してみれば?」

「練習? 遊びに誘う?」

「そうそう。やってみ」



 恋歌は虚空を見つめて何かを考えると、何かを思い出したのか「あ」と声を上げた。



「そういえば、今やってるゲームのリアルイベントが、駅前のショップでやるんだって。一緒に行く?」

「おー、マジか。知らなかった」

「じゃ、次の土曜ね」

「おけおけ。……じゃない!」



 ビックリするくらいナチュラルに誘われたけど、違う。全然違う。

 おい、きょとんとするな。



「え、今のダメ?」

「お前な……九鬼ってオタクじゃないし、こんな会話ほいほいついて行くの、俺くらいだぞ」

「そっかぁ〜。でも昨日、アニメの話で盛り上がったよ?」

「今どきオタクじゃない人でも、アニメくらい見る。それだけで九鬼をオタク認定するのは違うぞ」



 俺は九鬼と話で1年になるけど、あいつがオタクの会話をしたのを見たことがない。

 俺も、オタ会話を出さないようどれだけ気を張ってたことか……。



「こういう場合はショッピングとか、映画とか、そういうのに誘えばいいぞ」

「なるほど。詳しいね」

「俺のメンターはインターネット先生」

「把握」



 え? 何で誘う相手もいないのに調べたのかって?

 ……九鬼を誘おうとしたんだよ。言わせんな、恥ずかしい。

 結局ひよって、誘うなんて無理だったけど。



「そんな感じで、もう一度言ってみ?」

「…………」

「……ん? どうした、そんなに俺を見て」

「……九鬼さんと十夜の顔面が違いすぎて、練習にならないんだけど」



 ゴスッ──!!



「殴るぞ」

「なぐったあ! 脳天なぐってから言ったあ!」



 やかましい。九鬼みたいな超絶美少女と俺を一緒にするなよ。そもそも性別が違うだろ。

 まあ、九鬼相手なんて、同性でもひよるのはわかる。

 あの可愛さは反則レベルだ。人類の神秘と言ってもいい。本当に同じ人類なのか怪しいほど。



「ほんと、恋歌は見た目陽キャで中身陰キャだな」

「見た目も中身も陰キャな十夜に言われたくない」

「痛いところを……」



 今のはブーメランだ。完全に俺が悪い。

 意図せず2人揃ってため息をつく。

 こいつとなら、何もしなくても気が合うのにな……。



「話を戻そう。練習が無理となると、まずは九鬼と一緒にいることに慣れた方がいい」

「あ、そっか。確かにメッセージは慣れたけど、九鬼さんと一緒なのは慣れてないし……」

「とりあえず、帰りでも誘ってみろよ。なんか知らないけど、あいつ帰るのはいつも1人だし」

「わ、わかった……!」



 恋歌はおばさんお手製のおにぎりを食べ、ふんすっと気合を入れる。

 意気込みは十分だが……こいつ、気付いてるのかな。

 自分から一緒に帰るのを誘うの、結構難易度高いんだぞ。






「で、結局こうなったと」

「ごめん、十夜……」

「あはは……いいじゃん。3人で帰りましょう」



 帰り道、俺と恋歌と九鬼は、一緒に帰路についていた。

 恋歌が九鬼を誘えず、俺に泣きついた結果、こうなったのだ。


 でもメインは恋歌と九鬼。俺は少し後ろをついて行くだけ。

 2人の後ろ姿を見ていると、なんとか会話は続いてるみたいだ。

 まだ恋歌は硬いけど、楽しそうではある。

 娘の成長を目の当たりにした親の気分で、ちょっと感動。

 お父さん、泣きそうです。お父さんじゃないけど。



「そ、それでねっ……!」



 お? 恋歌のやつ、何をそんなに大声を……?



「つ、つ、次の土曜日、いいいいい一緒、にっ……あ、遊べないかな……!?」



 …………お……おおおおおおおお!? いつの間にそんな話に!!

 よくやった! よくやったぞ恋歌! これで──






「あ〜、ごめんなさい。土曜はちょっと用事が……」

「…………ぇ……」

「oh……」



 ……空気、死滅。

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