第10話 荷物持ちと騎士様

「はぁ……それにしても……まさか、こんなことになるとは……」


 重い荷物を背中に背負って、俺はかなり疲労していた。


 すでにそれなりの時間、荷物を背負って歩き続けている。


「おい! 遅いぞ!」


 ……少し離れた場所から騎士様のそんな声が聞こえる。俺は仕方なく駆け足で騎士様の方へ向かっていった。


「……はぁ。騎士様が……早いんですよ……」


「そんなことはない。貴様が体力がないからだ。仮にも元兵士だろう? 鍛え方が足りないのだ」


 得意げな顔でそう言う騎士様。俺はふと背後を振り返る。


 俺と騎士様が歩いてきた道の彼方には……小さく、かつての敵国……即ち、騎士様の出身の国の街並みが見える。


「……それにしても、良かったんですか? 本当に飛び出してきちゃって」


 俺がそう言うと騎士様は憮然とした顔で俺を見る。


「すでに言っただろう。私は旅に出たかったのだ。そして、丁度良く荷物持ちが近くにいた……だからこそ、貴様を連れてきたのだからな」


 牢屋から騎士様に引き取られた俺は、現在、騎士様の荷物持ちになっている。


 荷物は重いが……まぁ、牢屋で捕虜をやっているよりかは幾分かマシだろう。


 そして、騎士様はといえば、俺を連れて国を飛び出した。


 理由はよくわからないが、騎士様曰く、世界を見て回りたいとのことで……まぁ、高貴な生まれの人の考えることはよくわからなかった。


 まぁ、騎士様の表情はどこか晴れやかな感じがするし、国を飛び出したことに後悔はないのだろう。


 俺としても、こうして荷物持ちとして騎士様に付いていくのは、悪い気分ではなかった。


「で、騎士様。どこまで行くつもりなんですか?」


「さぁな……。私が行こうと思った場所まで、だな」


「はぁ……。え……。俺、それまでずっと荷物持ちですか?」


 俺がそう言うと騎士様は立ち止まり、そして、不安そうな顔で俺を見る。


「……嫌か?」


 そんなきれいな目と綺麗な顔で、そんな表情をされて「嫌だ」と言える男は少ないだろう。


「……嫌ではないですよ」


「なんだその言い方は。まったく。やはり、貴様は私を侮辱しているな」


「いや、だから、そういうつもりじゃ……あ。そうだ」


 と、歩いている時に、ふと、俺は思い出した。


「どうした? 急に」


「騎士様、俺の国で捕虜だった時、変なこと言ってましたよね?」


「……変なこと?」


「えぇ。ほら。俺に相変わらず辱めるつもりなんだろ~、とか言ってた時ですけど、俺がそんなことないですよ、って否定したら、話が違う、とかなんとか……」


 俺がそう言うと騎士様はしばらく黙っていたが、なぜか急にとても恥ずかしそうにして俺から視線をそらす。


「知らん! そんなことは覚えてない!」


「いや、でも……というか、騎士様、どんな話を聞いていたんですか?」


 俺がそう言うと騎士様は少し涙目になりながら、俺のことを悔しそうに睨む。


「やはり、貴様は……! 私のことを辱めようとしているではないか!」


 その上で、騎士様はキッと俺のことその凛とした目つきで睨み、俺に向かって指をさす。


「もう一度言うぞ! 私は貴様のどんな辱めにも、決して屈しないぞ!」


 そう言って高らかに宣言する騎士様。


 そして、俺も今一度騎士様に苦笑いしながら、答える。


「だから、何もするつもりないって言っているんだけどなぁ……」

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私は貴様のどんな辱めにも、決して屈しないぞ! 味噌わさび @NNMM

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