二話 人生最後の日
二話 人生最後の日
「ではこれより、合同戦闘訓練を始める! いつも通り六人班を形成して並んでくれ!」
女性だけど性格がキツくて、鬼教官と称されるギュルグ先生の声の元、戦闘訓練が始まる。
この訓練では実際に徒党を組んだ敵、ならびに群れを成した魔獣などを相手と想定し、六人で班を作り戦う。
班の男女比は自由だが、基本的にどこも男女三人ずつで形成することが多い。僕の班だってそうだった。
「おい、さっさと来いよ。″元″一位グループの出来損ない」
「……はい」
そしてそんな仲間を失いはや一ヶ月。僕は剣士として生きていくうえで″致命的な欠陥″を負い、成績は下位のグループの数合わせ要員として利用されていた。
出来損ない、肉の盾、役立たず。僕に相応しい言葉だと思った。
だって、僕はもう────
「では次、チームF、チームG。用意!」
ギュルグ先生の号令を合図に、敵のチームFの六人が戦闘準備を整える。
男四人、女二人。剣士である四人が二人ずつで固まり、中央後ろに魔術師二人を置く構え。一見魔術師に盾が無く諸刃の剣のような陣形にも思えたが、違う。
四人のうち内側の二人は、常に魔術師を守ることに意識を割くようだ。故に二人の間隔は狭く、こちらの遠距離攻撃にもすぐに対応できる形を取っているらしい。
一方で僕の所属するチームGは、男三人女三人。僕を先頭のど真ん中に配置して、その後ろに魔術師三人を固める。その上で両脇に剣士を二人。だがその間隔は異様に広く、僕を剥き出しにして攻撃の的にするかのようだった。
チームを取っ替え引っ替えしている僕だが、こういう陣形を取られることは多い。要するに魔術師を肉の壁として守らせつつ、そこに攻め込んできた剣士を両脇の二人が迎撃するというやり方だ。これは僕一人に負担が偏っていて、相手の魔術も剣もその両方を一身に受けかねない。しかしその代わりに、チームとしては僕の利用価値などそれくらいしかないのだから、仕方ないとも言える。
「始め!!」
あくまで訓練であるこの授業では、真剣は使わない。構えられているのは木剣で、試合が始まると木と木がぶつかる音が響く。
みんな、この試合で結果を残すために努力している。剣士は身体を鍛え、魔術師は魔素量の底上げと魔術の精度を高めるための練習を。それらの努力を披露する場が、ここなのだから。
だけど……僕に披露できるものは、何もない。
「ねぇ、ちょっと! コイツまた……!」
「放っておいて集中して! 早く詠唱を!!」
あの日以来、僕は────一度も、剣を振れていない。
例え木剣であろうと、柄を握り剣先を見るだけで、あの日の光景が蘇る。
無惨に殺され、人間から肉へと変わり果てていく仲間の姿。脳内でフラッシュバックするそれは、僕の剣の意志をかき消していく。
「氷慧魔術来るよ! 迎撃!!」
「赤き紅蓮の弾丸よ、顕現し敵を穿て! ────ファイアボール!!」
まるで遠くで鳴っている音をぼんやりと聞いているかのように、僕の呼吸音以外の雑音はほとんど鼓膜を揺らせない。視界は曇り、薄れ、身体の震えだけが増大する。
明確な欠陥だ。戦闘中に剣を振れないどころか、動くことすら叶わない。猛烈に襲ってくる嘔吐感と頭を内側から捻り潰すかのような頭痛に身体は拒否反応を起こし、震える手先から木剣が落ちて姿を消す。
「オイ、お前ら援護! 二人で四人相手はキツすぎる!!」
「分かってるわよ!! あぁ、もう! なんで五人で戦わなくちゃいけないのよ!!」
学園側はこの症状に配慮し、あの事件から一週間の療養休暇を与えた上で、実戦の中でトラウマを乗り越えるという目標を課して僕をここに立たせている。
だが何度繰り返しても結果は同じで、どれだけ意志を強く保とうとしても、剣を握ればたちまち僕は記憶に襲われた。
もう、そろそろ学園から猶予を与えてもらう期間は終わりだ。何度訓練に出てもこのザマなのだから、あと一週間もしないうちに退学処分を言い渡されるのではないだろうか。
「そこまで! チームFの勝利! 負けたチームGは反省点を挙げ、用紙を提出するように!!」
最後の最後まで、人に迷惑をかけた。でも何かの形で挽回するなんてことは、欠陥品の僕には出来ない。
これ以上誰かを巻き込むのには、もう耐えられない。
こんな僕の人生の幕切れは、せめて静かに、誰もいないところで終わらせたい。
もう、疲れた。
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