ラブコメオタクの不良は地味男と美少女転校生をくっつけたい!! ~俺は現実でラブコメがみたいんだよおおおお!!!!~

プリントを後ろに回して!!

第1話

俺の名前は多々良 誠愛(たたら せいあ) ラブコメを愛してやまない高校2年生だ。


中学の頃、俺は学校で名の通った問題児だった。


毎日喧嘩に明け暮れ、悪い友達とつるみ、大人達に反抗してばかり…… 今思えば本当にどうしようもない人生だった。


しかしそんな俺を救ってくれたのがライトノベル『こいしちゃって!? 』であった。


全5巻で構成されているのだが、気弱な男子高校生アユムが突然転校してきた美少女レイと紆余曲折を経て恋を成就させるといういわゆる王道ラブコメライトノベルだ。


それを読んだ俺は強く感銘を受け、憧れた!


【俺もあんなふうなラブコメが見たい!!】


そう、俺はアユムのような人生を送りたいのではなく、アユムのようなやつがラブコメをする所がみたいのだ!


俺は壁になって尊いを見守りたいのだ!!


だから俺はまず壁になるために今までの不良生活を捨て、ひたすら目立たないように努力した。


そのお陰で中3になる頃には俺が不良だったなんてみんな忘れて、いや存在すら忘れられる位の壁能力を手に入れたのだ。


そして死ぬ気で勉強し、高校はもと女子校で女子率の高いここ桜花高校に入学した……… と言うに


屋上は閉鎖されてるわ、中庭は草がボーボーで使えないわ、アユムのような男いないわ、美少女転校生こないわでもう、呆れちまった。


呆れて呆れて、気付けば俺は高一の後半には不良に逆戻りしててしまっていた。


そしてとうとう俺はラブコメを見ることなく、1年といつ月日を経た。



高二になった俺は2週間ちょっと学校をサボってしまう。


ラブコメのない高校なんて………


だが、流石にそろそろ卒業とかヤバいかと俺は久々に学校に行くことにした。


高二になって初めて行く学校…… とはいえ、どうせラブコメなんてないんだろうな。


俺の席は1番窓側の1番後ろの席、いわゆる主人公席のひとつ隣の席だった。


はぁーーーーーーー


俺は机に突っ伏し、顔を伏せ絶望する。


「お、おはよ〜」


俺に向かってか細い声で挨拶をしてくる奴がいた。


まじかよ、2週間も学校を休んでその上見た目超不良の俺に挨拶とかやべーだろ。


俺はバッと顔を上げ挨拶してきた奴の顔を見る。


「あ、会うの初めてだよね…… 僕は佐藤 優太って言うんだ、よ、よろしくね」


明らかに緊張した様子でこちらに作り笑いを向けてくるこいつを俺は知らない。


「おう、ヨロシク」


俺は単調に挨拶を返すと、佐藤は少し嬉しそうに席に着いた。


こんなやついたっけ?


見るからに地味で、真面目で、気弱な、『こいしちゃって!?』で言うところのアユムみたいな―


ハッ!!!!!!


俺は気づいてしまった……


この奇跡に!!


今俺の目の前にはアユムのような奴がいて、そいつが今、アユムが座っていた席に座っている!!!


こりゃあ奇跡だ。


「佐藤! お前!! 」


俺に突然呼ばれた佐藤は驚き、小さい悲鳴をあげてこちらを見る。


「お前女と付き合ったことあるか? 」


俺の問いに佐藤は不思議そうな顔を浮かべる。


「い、いやないけど…… 」


「幼なじみはいるか? 妹は? 美人の姉は? 両親は海外出張中か? 」


俺はアユムの設定を捲したてる。


その質問攻めに少し戸惑ったように佐藤は少し考えてから、口を開く。


「どうして、僕のことをそんなに知っているの? 」


……………………キタ


キタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタキタ!!!


「キターーーー!!」


俺は両腕でガッツポーズを取り立ち上がる。


神はいる、そう思った。






その後もしばらく佐藤に質問攻めをしたが、聞けば聞くほどこいつはラブコメの主人公にピッタリだ。


――しかし、俺は油断しない。


ラブコメにはもう1人、美少女転校生が必要な訳だがこれは現実的に考えてそうは有り得ない。


だからこれに関しては学年のマドンナ的なやつに―


「そういばさ、多々良君知ってる!? あの噂」


佐藤は突然目を輝かせ俺に問うてくる。


「なんだ? しらないな」


「今日ね、転校生が来るんだって! 」


なに…


「しかもすっごい可愛いらしいよ」


なんだと…


「あ、先生きた」


気付けばクラス担任の山形が教壇に立っていた。


「えーと、朝礼をはじめま―、なんだお前ら今日は随分聞き分けがいいじゃないか? さてはもう知ってるな? …… はぁ、じゃあ隠してても仕方ないし」


山形は入っていいぞと教室の外にいる誰かに声をかける。


「失礼します」


静かな物言いで入ってきたその少女はそれはそれはとてつもない美少女だった。


クラスの男子はもちろん女子ですらその美しさに声を出せなかった。


美しい長い黒髪で、陶器のような肌、目の色は薄いブルーが入っている。


背が高いせいか教壇に上がるとその迫力というか、華がいっそうと増している。


ホントの美人の前では騒ぐことなんて出来んないんだと俺は実感した。


「え〜今日からこのクラスに新しい仲間が入ることとなった。 じゃ、自己紹介を」


山形はそつなく転校生に自己紹介を促すと自分は教壇を降りる。


みんなその美少女の発言を息を飲んで待つ。


「あ! 君は漣(さざなみ)さん、、? 」


「君は…… 佐藤君…… ?」


なんだなんだとザワつく教室。


漣と呼ばれたその転校生は自分を律するために、1度髪を耳にかけると凛とした表情で正面を向く。


「初めまして! わたしは私立凛花高校から来ました。 漣 美呂久(さざなみ みろく)と言います! 」


クラスからは おぉー という感嘆の声が漏れ、みな自然と拍手を送っていた。


まるで美しい芸術作品を見ているかのような感覚だ。


「そこの佐藤君は私が今朝道に迷っていた時に助けて頂いて… 」


全員の視線が佐藤に向かう。


「え、あーいやぁ〜」


佐藤は恥ずかしそうに俯く。


クラスの男子達から嫉妬の視線を向けられる佐藤。




パンパンッ!


山形が手を叩いて空気を切り替える。


「はいはい、じゃあ漣さんの席は… そこの後ろの席に座ってくれ」


「はい」


漣 美呂久は静かに頷くとつかつかとこちらに歩いて来る。


さっきから怒涛のラブコメ展開ラッシュに俺の脳内はパニックを起こしてしまっていた。


これは、神がとんでもない気まぐれを起こしたに違いない!!!!


そしてこれはたまたま主人公とヒロインが隣の席になるやつぅぅぅぅ!


漣はこちらを向いて歩いてくる。


これは確実に佐藤の隣になるに違いない!!!


キタキタキタキターーーー!!


さぁ漣 美呂久よ、早く佐藤の隣に座るんだ!


佐藤の隣に! 佐藤のとなりに、佐藤の隣?

佐藤のとなりって…誰かいたような………


俺じゃねぇーーか!!


俺は心の中でそう叫ぶ、そして漣は俺の右隣に座る。


そう、俺が座っていた席こそ『こいしちゃって!? 』でレイが座っていたヒロイン席だったのだ。


「よろしくね、多々良くん、佐藤君! 」


彼女は左隣の俺と俺を挟んで向こうにいる佐藤に微笑みかける。


違うそうじゃない!!


「よろしく漣さん! そして多々良君! 」


違う、違う!!


佐藤は右隣の俺と俺を挟んで向こうにいる漣に微笑み返した。


ラブコメを壁になって眺めていたい俺にとって1番の邪魔者が俺だった。



こうして、ラブコメのヒロインと主人公に挟まれるラブコメオタクという奇妙な構図がうまれてしまったのだった。






【おまけ】


―――数時間が経つも俺は依然として立ち直れずにいた。


まさか壁は壁でも2人の間に立ち塞がるポジションの壁とは…


人生で1番の失態と言える。


「あ! 」


その声とともに、漣が手から消しゴムを落とす。


刹那―――俺のラブコメセンサーがラブコメ思考回路に司令を出す。


この事象から導き出される、ラブコメイベントは……… そう、『主人公がヒロインの消しゴムを拾い渡す時に手が触れちゃう』 だ!


俺は床に向かって落ちていく消しゴムを、物凄いスピードで持っていた15cm定規を使い上へ弾く。


すると、消しゴムは綺麗な放物線を描いて俺の頭を通り越し佐藤の方へ飛んで行く。


「え? 」


漣は何が起こったのか分からないような顔をしてこちらを見ている。


「これ、多々良君の? 」


佐藤は自分の元に落ちてきた消しゴムを手に取り、俺に渡そうとしてくる。


「違う、それは漣のだ! 」


俺は目を見開き佐藤にそう訴える。


「そ、そうなの… ? じゃあこれを漣さんに渡して―」


「なわけあるか!? 」


「ひぃ! 」


俺の剣幕に佐藤はただ怯える。


「お前が拾ったんだからお前が渡すのが道理だろ!? 」


「そ、そうなの? 」


俺は無言で頷くと体を椅子の背もたれにグッと寄せ、漣の顔が見れるようにする。


「ほら、渡せ」


その様子に漣も困惑しているようだったが、関係ない。


意地でもこの2人にはラブコメをしてもらうからな!


「さぁ、早く渡すんだ佐藤! 」


「う、うん」


「漣も手を伸ばさないと受け取れないぞ! 」


そこにはヒロインと主人公に挟まれるキモイ男がいた。


2人が手を伸ばしその手が俺の前で近づいていく。


(よし、もう一息、あとちょっだ!! )


佐藤と漣は2人とも結構体を乗り出してめいっぱいに手を伸ばしている。


あと数センチ、あと数センチで佐藤と漣の手が―


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとう佐藤君」


あと数センチで手が触れるという所で佐藤は持っていた消しゴムの向きを変え、長さを伸ばし、漣の手が触れたのは消しゴムだけであった。


クソ!!!!


一筋縄ではいかねぇか………


俺は佐藤と漣を交互に見る。


2人とも困ったようにこちらに微笑んでいた。


絶対に、コイツらにはラブコメしてもらうからな!!


そうして俺は現実でラブコメを起こすことに1度しかない高校2年の1年間を捧げるのであった。




《あとがき》

読んでくださってありがとうございます。


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