八壁ゆかりに関する噂

八壁ゆかり

八壁ゆかりに関する噂

 時を遡ること二十余年前、ここは私立ワキトヒ学園。県内でも有数の進学校だが、入試の偏差値が高いだけで内情は実に緩い中高一貫校である。


 大きな敷地内には中学と高校双方の校舎、二つの体育館とサッカーやフットボール、野球のコート、そして二つの特別校舎があり、特に中学校舎から新館に続く渡り廊下は放課後、青春の甘酸っぱい西日に照らされる。


 さて、そんなワキトヒ学園の高校一年にひとりの問題児がいた。

 その名は八壁ゆかり。

 二学期から不登校になり、たまに校内に顔を出したかと思えば、女子生徒特有のグループ行動に馴染めず成績と品行の悪い男子とばかりつるむ、出席日数ギリギリの生徒であった。

 

 一学期は、とある委員会にキャラに合わないレベルで精を出し、ミスコンの男子版、『ミスター・ワキトヒ学園』の称号を持つイケメンな三年生の吉田先輩と親しくなった。


 これにより、三年の生徒たちは、


『八壁っていう一年が吉田と付き合ってるらしいよ!』

『この前二人だけで下校してたよね!』

『なんか家でもケイタイで話してるとかって!』


 といった噂で持ちきりになった。


 時を同じくして、八壁は中学時代の部活の二年生の男子生徒、永沢ながさわ先輩と、『乗換駅が同じだから』という理由だけで共に登下校していた。

 部活内でも担当が近く、また親同士も交流があったことからそうしていたのだ。しかし、放課後、たまに永沢が八壁を待って帰宅することがいくたびかあり、そのたった数度の待ち伏せが二年生の間で話題となった。


『永沢って一年の女子とデキてるんだって!』

『中学から仲良かった奴でしょ?』

『親公認ってマジ?』


 この噂は八壁が学園を退学してから耳にしたものだが、当時はかなりセンセーショナルな噂だったという。

 というのも、永沢が八壁が通常つるむ『成績と品行の悪い悪ガキ』ではなく、後に東大法学部に合格するレベルの成績も品行も良い優等生だったからだ。



 所変わって、ワキトヒ学園中学校での話。

 入学時、『物凄い美少年がいる!』と、新入生、二年三年生はもちろんのこと、高校校舎からも見物人が来たほどの男子生徒がいた。

 中坂なかさかという名のその生徒は、八壁の二つ下であり、当時中学二年生であった。

 八壁と中坂の出会いは至極シンプルなもので、八壁の逆ナンである。

 全学年は絡むイベントでたまたま顔を合わせた際、八壁が中坂に、


『おまえ美形だな、名前教えろよ』


 と声を掛けたのが、全ての始まりだった。

 その後も八壁は中坂と顔を合わせると親しく歓談するようになり、互いに進級し、八壁が高校校舎に移っても学園内で会えば昼食を共にすることも多々あった。


『中坂くんってさ、やっぱあの先輩と付き合ってんのかな』

『多分そうだよね……、一年の時からずっと仲良いもん……』

『でもあの先輩恐いから中坂くんが逆らえないだけかもよ?』

『それあり得るかも!』



 さて、八壁ゆかり当人の一年生の間では、八壁は嶋田しまだという黒髪ロン毛の同級生と付き合っていることになっていた。八壁と嶋田は中学一年生の自分からの知己であり親友であった。

 正確に言えば、八壁は授業をサボる時、嶋田と池野いけのというベビーフェイスでかわいい系の男子と三人で行動を共にしていた。


『八壁ってさ、嶋田と池野、どっちと付き合ってんの?』

『なんか二年か三年の先輩とかとも噂あるんでしょ?』

『二股? 三股?』

『不登校になったのって妊娠したからって聞いたんだけど!』

『あれ? いつも中学の奴とメシ食ってね?』

『どんだけビッチなんだよ八壁』


 酷い言われようである。

 

(ちなみに余談だが、『ビッチ』は本来英語では『嫌な女』の意味であり、和製英語の意味する『ビッチ』にあたる単語は『ス(自主規制)』となる)



——といった数々の色濃い色恋話を中高に振り撒いた八壁ゆかりは、高校二年に進学したが一学期でワキトヒ学園から退学する。

 真相は闇の中、はたして八壁は誰と付き合っていたのか、そもそも誰とも付き合っていなかったのか?

 ただひとこと八壁が言い残したことといえば、


「私、モテる人とか人気者の異性に気に入られる傾向があるらしい……」


 のみであり、これはその後とある男性との出会いで『歩くドリーム小説』と呼ばれるようになることを示唆するような、なんとも空恐ろしい発言だ。

 


 正解は読者諸君に託す。

 学園一イケメンな先輩、中学からの付き合いの先輩、いつも行動を共にしていた悪友男子二人、逆ナンがきっかけで打ち解けた美少年の後輩……。

 好きな男子を選んで貴方なりに学園恋愛シミュレーション妄想を繰り広げてみてはいかがだろうか?

 もしその妄想が活字として結実した暁には、是非ともカクヨムで公開し、筆者にご一報をよろしくお願い申し上げる。以上。

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