『孤児院狩り』

「しかし、アルマのギルドに入った新メンバーがお前だったとはなぁ」


「俺もお前が王子だっていうのは知ってたけど、リーベル公国の王子だとは知らなかったぞ」


「言う暇がなかっただけさ。 10歳になった妹のエルザもお前に会いたがってたから、たまには会ってやってくれ」


「そうだな。 新生活が落ち着いたらな」


 ある話し合いが終わった後で、ケリンとレーツェルはレストランにて食事をしながら会話を交わしていた。

 お互いの再会を分かち合いながら、色々と話をしているところだった。


「しかし、『孤児院狩り』ねぇ。 俺が『サテライト』を除名されると同時にエリクシア王国を出てから随分堕ちたもんだな」


「ああ。 ケリンがまともと評価した下の王子、王女も我が国に亡命するくらいだ。 今のエリクシア王は狂ってる」


「あの二人か。 いつも孤児の世話も手伝ってくれてたからなぁ。 後、マスターのアルマもこの話を聞いて怒り狂ってたな」


「まぁ、アルマは優しいからな」


 二人の話題は、一昨日おとといから起こっていた『孤児院狩り』に触れていた。

 レーツェルがギルド『スカーレット』に訪問した理由である。

 彼がどんな事を言っていたかは、数時間前に遡る。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「落ち着いたか、みんな」


「は、はい……」


 レーツェルに宥められ、ギルド『スカーレット』のメンバーは落ち着きを取り戻した。

 一部、未だに信じられずケリンとレーツェルを交互に見る人もいたようだが。


「しかし、驚きました。 陛下たちが盗賊に襲われていた事があったなんて……」


「しかも、それをケリンさん一人で駆逐していたとは……」


「あの時の俺は『サテライト』での扱いにイライラしてたからな。 盗賊を八つ当たりの相手にさせてもらったさ」


「その結果が、陛下やエルザ様と友達になったとか……、ケリン君ホントにすごいよ。 一部でアレだけど」


 エリューシアやリキュアが当時のレーツェルに起きたこと、それを当時のケリンが一人で解決したことに驚いていた。

 アルマもケリンの八つ当たりに苦笑しつつ、結果的にレーツェル達を救って友達になったことに対して素直に称賛していた。


「それで、ボクに用があったみたいですけど……」


「ああ、君のギルドは孤児院も運営しているからな」


「……といいますと?」


「君の所には、ここに書かれている孤児を引き取ってあげてほしいんだ」


 そう言って、レーツェルはアルマに孤児のデータが記載された紙を渡した。

 アルマはそれを目に通し、みんなにも見せていく。

 それをケリンにも見せた時、ケリンの表情が変わった。


「おい、レーツェル。 ここにある孤児のデータ……、全員俺がかつていた孤児院の孤児じゃないか!」


「「「えええっ!!?」」」


「そうだ。 ケリンがかつていた孤児院の孤児のデータだ。 ここにその子達を引き取ってもらおうと打診しにきたんだ」


 そのデータは、ケリンがかつて住んでいた孤児院にいた孤児たちだった。

 それを告げた後、『スカーレット』のメンバーは再度驚きのあまり、叫んでしまった。


「それって、どういう事なんですか?」


「エリクシア王国の国王は、孤児院を全て解体して孤児たちを野垂れ死にさせる暴挙に出たんだ」


「な、何ですって!? 孤児院を解体!?」


 レーツェルが告げた衝撃的内容にアルマやリキュアが顔を青ざめながら驚愕の声をあげた。


「正気じゃねぇな。 何が理由なんです?」


 アレンも怒りを露にしつつ、冷静に理由を尋ねる。


「我が親友であるケリンを始めとした孤児院出身の冒険者が『剣士』とか『ビショップ』とかの職業が多数だったことに国王は怒りを露にして孤児院の存在が邪魔をしていると判断したそうだ」


「反対は……いなかったな、あの国王絡みなら」


「そうだ。 現国王も脳筋主義の『サテライト』に属していた経緯があり、今でもそことのパイプが強い。 そうでなくとも、国王は冒険者は力が全て、そして国が管理すべきと今でも主張し続けているからな。 脳筋主義を是としている官僚も多いから即座に可決したのさ」


「だからと言って、孤児院を……孤児の子を捨てるなんて……」


「実は亡命してきたエリクシアの第三王子と第三王女が孤児を連れて来たと同時に、別の情報もくれてな。 今の国王は弱者が嫌いだったみたいで、弱者の象徴の一つである孤児院を排除する……、通称『孤児院狩り』をかなり前から考えていたらしい」


「そんな……! 孤児だって頑張って生きてるのに……!!」


 次から次へと出てくるレーツェルからの情報。 それを聞いたアルマは、怒りを隠せないでいた。

 優しい性格のアルマが、子供たちを……いや、孤児たちを野垂れ死にさせようとするエリクシア国王の暴挙を許せるはずがない。


「あの国王ならあり得る話だな。 俺がかつて住んでた孤児院も国からの支援が現国王になってからバッサリ切られたからな」


「そうなんですか?」


 ケリンがアルマに視線を移すと、無言だが怒りの表情は隠さなくなっていた。

 しかも、どす黒いオーラを見たためか、恐怖を感じた。

 それに気付いたリキュアがアルマを宥め、孤児を受け入れることを承諾した。

 色々あったが、これでひとまずの解散となった。

 その後で、レーツェルはケリンに再会の祝いとして食事に誘われ、今に至るのだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「それで、他の孤児はどうするんだ?」


「それに関しては他の孤児院に打診しているさ。 大半は受け入れてくれたけどな」


「そうか……」


 数時間の出来事を思い出しながら、食事を進める二人はその後の情勢も話し合った。


「あの亡命した二人は、どうなるんだろうな」


「それに関しても大丈夫だ。 養子として父上が引き取ると言っていたしな」


「そうか、それはよかったよ」


 今回の『孤児院狩り』がきっかけで亡命したエリクシアの第三王子と第三王女に関しても、レーツェルの父であるリーベル公国の王が二人を養子として引き取ると言った事を聞いたので、ケリンは安堵した。

 何せ、あまりいい思い出がないエリクシア王国の中でまともだったため、ケリンからも信頼が厚い二人だったので、その行く末が心配だったのだ。


「折角のケリンの新生活だ。 これ以上の湿っぽい話はなしにしよう」


「ああ、そうだな」


 その後はレーツェルの妹のエルザの話題とか、アレンの酒豪で苦労したレーツェルの兄の話とかで盛り上がった。

 改めて、新しい居場所を確保できてよかったと思うケリンであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る