ケリンの実力と、ある人物との再会

 歓迎会から翌日。 『スカーレット』のメンバーとケリンは、アルストの町の近くの森に来ていた。


「まずは、みんなにケリン君の実力を見てもらうために、この森で魔物を倒してもらうよ」


「なるほど、だからほとんどのメンバーを連れて来たのか」


 森の魔物はそれほど強くはないので、実力を見せるには丁度いい場所なのだ。


「あと、言うのを忘れてたけど、新たなギルドに入った時点でソロランクは一度Eランクに落とされるんだ。 ギルドランクとは無関係だから気にしないでいいけどね」


 歓迎会の直前に手続きを済ませていたのだろうけど、新しいギルドに入りなおした場合のルールを言うのを忘れていたみたいだ。

 そのため、アルマは申し訳なさそうにケリンに謝った。


「気にする必要はないよ。 まずはソロBランクを目指してじっくりやっていくから」


「そっか……。 あ、そろそろ魔物が来るね」


 アルマが魔物の接近を教えるとケリンは身構える。

 そして、現れたのは……ホワイトボアが5体だった。


「おいおい、多いじゃないか。 少し手助けすべきじゃないか?」


「私もそう思いま……ええっ!?」


 予想外に数が多い事に危機感を募らせたアレンとエリューシア。

 マスターであるアルマに手助けをすべきだと進言した矢先、エリューシアが素っ頓狂な悲鳴をあげた。


「す、すごい……」


 リキュアが驚きと称賛が混じった声を上げる。


「ボクも驚いたよ。 まさか、剣を抜いた瞬間、あっという間にホワイトボアを倒したんだから」


 アルマもまた、ケリンの攻撃に驚いていた。


 そう。

 ケリンが攻撃を仕掛けた瞬間、あっという間にホワイトボア5体が倒されていたのだ。

 エリューシアもアレンも開いた口が塞がらないでいる。

 他のメンバーもそうだ。

 しかし、何らかの形で見えていたメンバーがいたのだ。


「違うよ、マスター。 あれはかなりのスピードで居合抜きを繰り返して斬り刻んでいたんだよ。 しかも5体一気に」


「そうなの!?」


 シルスだった。

 同じスピードタイプの職業を持つ彼は、気を察する事でケリンの斬撃を複数回、察知できたのだ。


「ちなみに聞くけど、君はまとめて何回、居合抜きで斬ったんだい?」


「16回だよ」


「「「ええっ!?」」」


「なんというスピード技……。 そんな実力を持つケリンさんが向こうではBランク止まりだったなんて」


 アイシアがやはり彼の実力を感じて、向こう……エリクシア王国ではBランク止まりだったのが納得いかないようだ。

 怒りの表情が現れたので、弟が慌てて止めに入る。


「まぁ、脳筋主義のギルドに入れらてたんじゃ仕方がないわな」


「そうですね……。 でも、ケリンさんがここまで強いのならランクアップもすぐですね」


 我に返ったアレンとエリューシアは、ケリンが向こうに入れられたギルド『サテライト』が脳筋主義だったのを思い出していた。

 その上で、ケリンの実力を認め、冒険者のソロランクもすぐにアップできるとのお墨付きをもらった。


「それで、アルマ。 このホワイトボアはどうする?」


「食材に使えるから、内臓を取り除いてから持って帰ろうよ」


「了解」


 その後はみんなでホワイトボア5体の解体作業を行った。

 内臓を取り除いて、火の魔法で処分、それ以外は『インベントリ』に収納して持って帰る。 肉は言わずもがなで食用に使え、骨は出汁に使えるのだとか……。


「いやぁ、思った以上に多いからしばらくはイノシシ肉の料理かな」


 アルマが収納したホワイトボアの肉を見て、そう嘆いた。

 みんながイノシシの肉が嫌いなわけではないのだが、流石に多すぎるのだろう。


「まぁ、周辺のみんなにも分けたらいいかもね。 さて、帰ろうか」


 ケリンの強い実力を見たメンバーと共に、ギルド『スカーレット』があるアルストの町へと戻っていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「あ、アルマさん」


「あれ、どうしたの?」


「実は、レーツェル殿下が来訪されてて…今、待ってもらってます」


「ふええっ!? す、すぐに行かなきゃ…! どこで待たせてるの!?」


「えっと、ギルドハウスの方の広間です」


「分かった! みんな行くよ!!」


 ギルドハウスに帰ってきたアルマたちは、孤児院のメンバーからレーツェルという王族の人が来訪しているという。

 それを聞いたアルマたちは、慌ててその人物が待っているという広間へと急ぐ


(ん、レーツェルって?)


 だが、ケリンにはその名前に聞き覚えがあった。 かつて、単独で助けた王族の兄弟たちの一人がその名前だった。

 当時はどこの王族かは聞いていなかったが、そこで色々と話をした結果、親友となったのだ。

 その彼の名前と同じなのだ。


(まさか……な)


 アルマたちについていくように広間に着くと、そこには当時と同じ顔の男がいた。


「遅れてしまって申し訳ありません、レーツェル殿下! 少し用事があったので……」


「いやいや、構わない。 時間を調べなかった僕がわるいんだから」


 アルマとレーツェルという王族が会話をしている間に、リキュアがケリンにひそひそよ話掛ける。


「ケリンさん、あの方がリーベル公国の第三王子、レーツェル・グラン・リーベル殿下……ってケリンさん?」


 リキュアが王族の事を紹介している時に、彼の様子がおかしいことに気付いた。

 開いた口が塞がらないままなのだ。


「おい、ケリンどうしたよ」


 アレンも気になったのか声を掛けている。


「そういえば、アルマのギルドに新しいメンバーが入ったって……」


 レーツェルと言う男が、ケリンの方向に向いた瞬間、彼の時間が止まった感覚に陥る。

 双方の目線があったまま動かないでいると、向こうから口を開いた。


「お前、ケリンか? 何でここに……?」


「やっぱりお前だったのか、レーツェル」


「「「ええええっ!?」」」


 あまりにも衝撃的な場面に、メンバーは驚きの混じった悲鳴を上げていた。


「ちょっとケリン君、どういう事なの? なんで、殿下を知ってるの!?」


「ちょっと、アルマ、落ち着いて……!」


 ケリンは、ある意味衝撃的なシーンを見たアルマに両肩を掴まれた上で激しく揺さぶられた。


「ケリンとは、ある一件で妹や兄と共に助けてもらって以来、親友になった間柄だよ」


 レーツェルから話された内容に、メンバーはさらに固まった。


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