【比翼の妖精】 4月23日より。

【比翼の妖精】


 ほんの少し前、つい最近のお話。

 片羽根の妖精と片目の無い御使い様が、病院へやって来ました。


「この羽根を治せる人か」

《この人の目を治せる人を知りませんか?》


 妖精が人間の赤い髪を持ち上げると、ぽっかりと穴が開いていて。

 妖精が振り向くと片羽根だけでした。


 残念な事に無くなってしまった目は戻せないし、医者も看護師も妖精の羽根を戻す方法も知らないので。

 今度は魔道具屋へ行ってはどうかと、知り合いの知り合いを紹介してあげました。


「この羽根を治せる人か」

《この人の目を治せる人を知りませんか?》


 魔道具職人は答えました、義眼なら作れるけれど、お金は有るのか。


「お金は無い」

《だからいつも野宿なんだ》


 ご飯はどうしてるのかと聞かれました。


「木の実を生やしたり」

《キノコを生やして食べているから大丈夫》


 じゃあ、お風呂はどうしているの。


「それはアヴァロンや」

《ブルーラグーンに行けるから大丈夫》


 ただの旅人だと思っていた魔道具職人は急いで注意しました。

 アヴァロンの事もブルーラグーンに直ぐに行ける事も内緒にしないと、悪い人間に捕まってしまうから、お風呂はいつも借りていると答えなさいと、急いで教えてあげました。

 そして御使い様が心配になった魔道具職人は、義眼を作ってあげる事にしました。


 ですが、何度と目に入れても、ポロポロと落っこちてしまいます。


 そうして魔道具職人と共に医者に相談しに戻ると、義眼にエリクサーを入れた方が良いと教えられました。

 でもエリクサーは高価なので、誰も持っていません。


 皆で悩んでいると、エルフの看護師さんがやって来て、良い事を教えてくれました。

 アヴァロンのティターニアに会ったら、作り方を教えてくれるかも知れない。


 そうして今度はエルフの看護師さんと一緒にアヴァロンへ出かけると、下半身がロバの妖精に出会いました。


『向こうにティターニアが居るよ』


 言われた通りに進んでも、様々な妖精がアッチだコッチだとグルグルと迷わせます。

 そうしてすっかり日が暮れた頃、シワシワのお爺さんが現われました。


『ティターニアなら向こうだよ』


 エルフの看護師さんは疑いましたが、妖精と御使いはそのまま信じて行ってしまいました。

 そして結局心配した看護師さんが様子を見に行くと、妖精と御使いは蒸留器で沸々とエリクサーを作っていました。


「ティターニアはもう帰ったよ」

《お菓子を沢山くれました》


 御使いの肩に乗る妖精が指差す方向には、可愛らしい水色のアフタヌーンティーセット。

 紅茶にクッキーにスコーン、そして小さなサンドイッチやジャムが沢山。


「食べて待ってて」

《直ぐ出来るから》


 そうして看護師さんがお腹いっぱいになった頃、ピッチャー3杯のエリクサーが完成しました。

 そのエリクサーを注射器の中に入れ、義眼へと入れ、目にはめ込んでみました。


 するとどうでしょう、義眼が目と一緒に動く様になりました。


 ティターニアへのお礼にはお花を。

 看護師さんには木の実を。

 お爺さんには御使いの髪の毛を渡し。


 魔道具職人とお医者さんにはキノコを渡し、妖精と御使いは次の場所へ向かいました。




 次に訪ねたのは大魔女ロウヒ。


「この羽根を治せる人か」

《この人の目を治せる人を知りませんか?》


 魔女は答えました、方法は1つだけだが、対価はその素敵な義眼だと。


「はい、どうぞ」


 魔女は答えます。

 妖精の羽根を全て粉々にする事、そうすれば1度死に、羽根はすっかり元通りになると。


 ですが妖精は答えます。


《この人の事も、旅の事も忘れてしまうので、何か他の方法を探します》


 そうしてまた次の場所へと向かいます。




 今度はとても寒い北極へ、アザラシの妖精に会いに行きました。

 そこでも良い方法は見つかりませんが、美味しいお魚を貰えました。


 次は東へ、次は南へ。


 そうしてずっと、1匹と1人で旅を続けましたとさ。

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