映画【Fly Me To The Moon】 4月19日より。

 一昔前の時代で描かれる吸血鬼物、普通の顔面偏差値の主人公が大学へ通う場面から始まる。

 そして主人公が好きな人をキャンパス内で見付けた瞬間、暗い画面から明るい画面と音楽へ切り替わった。


 今日も幸せな日だと帰る途中、怪我をした人を見付け近寄る。

 そうして見目麗しい吸血鬼に襲われ、気を失ってしまう。


 気が付いたのは自宅のアパートのベッド、何日もうなされ、そして目覚める。

 日の光は目を刺す様に眩しく、日に当たれば焼ける様に熱い、そして異常な喉の渇きに気付く。


 そんな意識が朦朧とした状態のまま、初めて人を襲ってしまった。


 ただ少しの羨望が吸血鬼の本能によって膨れ上がり、好きな人の初恋相手を吸血してしまう。

 泣きながら遺体を抱き締め、激しく後悔する。


 それでも、憧れの人を目にすると欲望が膨らむ。


 相応しい美しさが欲しい、彼の隣に立ちたいと。

 葛藤しながらも街を彷徨い、時に暴漢からホームレスを助け、また寮へと戻る。


 そうして何日目かの夜、空腹の彼女の足は彼が褒めたモデルへと向かってしまう。

 そのモデルも決して悪い人では無い、近所のホームレスにケータリングを分けたり、幼馴染に片思いをしていたりと、普通に良い女性。


 それを見て何とか衝動を抑えようと必死に堪えていると、主人公を襲った吸血鬼がモデルの女性へと襲い掛かった。


 主人公は立ち向かい、見事に撃退するが、女性が血を流しているのを見てしまう。


 この世で1番美味しい匂いが漂う、空腹は限界。

 思わず襲ってしまい、更に自己嫌悪へと陥り掛ける。


 すると先ほどの吸血鬼が戻って来る。


「飢えて貰っては困る、君を仲間にする為に吸血鬼にしたのだから」


 そうして吸血鬼としての人生を考えて欲しいと提案する、君の欲しい人が簡単に手に入るんだとも。


 吸血鬼の入れ知恵により日焼け止めと日傘を手に、久し振りの大学へと戻る。

 憧れの彼は主人公へも優しく接してくれる、良い人間に見えるが、実は全部計算しての行動だった。

 逆玉の輿を狙って、令嬢を落とす段取りの一環の中、主人公は恋に落ちてしまっただけだった。




 そうして彼に近づく中で、聴覚の鋭くなった主人公は更なる情報を得てしまう。

 彼の理想の声の持ち主が居ると、それを聞いた主人公はその事ばかりを考えてしまう。


 勉強も趣味も何もが手に着かない状態になり、自分に足りないのは声、魅力の無い自分を補う為には声が必要だと思い込んでしまう。


 そしてまたも、その声の持ち主を探して夜の街へと向かってしまう。


 次の標的はスーパーのレジの女の子、クソな母親の代わりに兄弟を養う為、バイトを掛け持ちする健気な女の子。

 次のバイト先へ向かう路地で、彼女に話し掛け銃を渡した。


「自分を殺さないと、貴女を殺す」


 最初は冗談だと思い相手にしなかったが、主人公の恐ろしい形相に思わず引き金を引いてしまう。


 だが、弾丸を撃ち尽くしても主人公が倒れる事は無く、銃のスライドで怪我をした手に惹かれ、血の香りに誘われ、空腹のままに襲ってしまう。


 もう殺したく無い、だが自殺する為に日の光に照らされるのは失神も叶わぬ激痛に襲われる事になる。

 そうして腕を焼く事で空腹を紛らわし、アパートに引きこもっていた。


 何日か乗り越えた頃、訪問者が現れてしまう。

 彼の好みの癖を持つ、品の良い大学の事務員、親切心から主人公を訪問し襲われてしまう。


 だが、その事務員の女性はクルマに人を待たせて居た。

 教会で聖歌隊をしている息子の帰り道だった、血塗れのままにアパートを後にする主人公を、その息子が目撃し、教会へと駆け込むシーンで場面が切り替わる。




 雨で血が流れ落ちた彼女は、美しく儚げな美女へとすっかり変わって居た。

 その足はフラフラと、彼の居る寄宿舎へと向かう。


 時期はハロウィン、寄宿舎ではパーティーが行われ、彼は意中の女性とは別の女に優しく声を掛けている。

 同級生に招き入れられるがままに、お酒を飲む主人公。


 その所作や声、全てを気に入った彼が主人公へと声を掛ける。


 そして一夜を共にし一緒に朝食をとり、夢の様な時間を過ごす。

 そうしてすっかり入れ込んだ彼に対し、主人公はどんどんと冷め、ついには振ってしまう。


 完全に目的を失い、家にも帰れぬ主人公は初めて空腹の為だけに人を襲った。

 完全な吸血鬼となった主人公は以前の姿に変身し、空を飛び、懐かしい実家へと戻った。


 丁度そこには幼馴染の一家が訪ねて来ていたので、一緒に食事をする事となる。

 もう血を見ても抑えが効く様になり、もしかしたらまた普通に過ごせるのではと思ってしまう。


 夕食後に一家を見送った後、自分の部屋のベッドへ寝転び、アルバムをめくる。


 少しして窓がノックされた、幼馴染が木を伝い、部屋へと訪ねて来たのだった。

 子供の頃からの習慣、心配し、昔の様に訪ねて来てくれた。


 懐かしさと彼の変わらない純朴さに心が揺れ動く、だがもしまた誰かを好きになれば、その相手の周りを殺してしまうかもしれないと葛藤する。

 悩む主人公に気付いた幼馴染は、デートしてから考えてみよう、もしダメならまた幼馴染に戻ろうと優しい提案をする。


 絶望と孤独に手を差し伸べられ、思わず返事をしてしまう主人公。


 そして日焼け止めをたっぷり塗り、可愛い服に日傘を持ち、待ち合わせの場所へと向かう主人公。

 音楽も演出もハッピーエンドを予感させる様な、明るい音楽と色調。


 だか神父とすれ違い、燃え尽き、服を残し霧散していく。

 音楽は止まり、一気にモノクロへと変わった。


 主人公の最後の破片、小指の爪一欠片が宙を舞い、幼馴染が顔を上げた所で、優しい曲とエンドロールが流れ始める。

 ゆっくりと舞う欠片と共に、幼馴染がいつまでもいつまで待つ映像が、上空へと引いていく。


 幼馴染の心境の様な歌詞が、優しい歌声と共に流れ、フェードアウトしていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る