第6話 その男強い!
この世界の冒険者には職業というのがある。正確に言うなら役割というべきか。
近距離メインの剣士
中距離メインの魔法使い
遠距離メインの弓使い
補助メインの僧侶
超接近戦メインの格闘家
近距離、防御メインの戦士
隠密メインの盗賊
冒険者になって初めてなるのはこの7つ。通称下位職と呼ばれている。下位職があるのならばその逆。上位職もある。
上位職へ行くには100レベルが必要だ。もちろんその苦労に見合った強さを手に入れることができる。
剣士よりも強いソードマスター。
呪いを扱う呪術師。
遠距離特化の狙撃手。
アンデットに強い神官。
高精度の技を持つ武道家。
狂気的な強さを持つ狂戦士。
影に隠れて相手を殺す暗殺者。
などなど他にもたくさん職業が存在する。上位職が完全に下位職の上位互換かと言われれば違うのもあるが、だいたいの場合は強くなる。
そしてどれにも属さない職業。それが無職である。そもそも無職というのは正確にいうならば、職業ではない。
冒険者になるためには一旦無職になる必要がある。そこから手続きとかを済ませ、職業転生の儀式をおこなってその職業につくのだ。
無職になると、技や魔法を扱うことができない。それは戦闘においてかなりのバッドアドバンテージになる。
そもそも無職になってからの手続き、職業転生はその日の内におこなうのだ。やらなければ不審がられる。
なので無職になることはあっても、無職のままは普通存在しないはずなのだ。
それを踏まえたうえで見てもらおう。
「――無職!?」
ヘキオンが目を丸くして驚いた。当たり前だ。自分が倒せるはずがない魔物を無職だ倒したのだから。
「おう。これ言ったらみんな同じ反応する」
「だ、だって無職って……無職って……」
「とりあえずギルドに戻るか。歩きながら話そう。質問したいこといっぱいありそうだし」
「はい!は、はい!」
「……あの、質問する前にお礼をさせてください」
「え?いいよいいよ。あんなん本読みながらでも倒せるし」
「でも命は救っていただきました。……ありがとうございました」
「……感謝は受け取っておくよ」
気恥しそうにヘキオンから目をそむける。
「お礼はしたので質問よろしいですか?」
「うん。いいよ」
「色々質問したいことはあるんですけどね。とりあえず最初に――」
ヘキオン大きく深呼吸をした。その様子を不思議そうにカエデは見つめる。
「――なんで無職なんですか?そんな強いのに」
「それは言えない」
「じゃあなんで強いんですか?ウルフィーロードってレベル100くらいですよね」
「それも言えない」
「木の棒で戦ってるんですよね。その木の棒ってなんか特別な物でできてるんですか?」
「言えない」
「なんも言えないじゃないですかー!!」
ヘキオンがプンスコ怒る。今日はヘキオン怒ってばっかりだ。
「言えないようなことばっかり聞くじゃん。もっとあるだろ他に」
「えーなんですか?」
「ほら……何歳?とか身長何cm?とかさ」
「……すみません。特に興味無いです」
カエデの輪郭が固まった。ショックを受けたようだ。
「……1つ言うとしたら……無職はレベルが上がりやすいんだよ」
「そうなんですか!?知らなかったです!」
まだショックが抜けてないようで、少ししょんぼりした様子で話を続ける。
「そりゃあ無職の状態でレベルが上がることは滅多にないだろうしな」
「ちなみに今レベルどれくらいですか?」
「えーっと……9999くらいかな」
「へー高いですね。9999って」
「……」
「……」
2人に静寂が流れた。さっきのウルフィー戦の時よりも静かな空間だ。
「――って9999!!??」
その空間はヘキオンの叫びによって消し去られた。
「え!?え?!え!?9999!?言い間違いじゃないんですか!?」
「いや。間違ってないと思うよ」
「だ、だって伝説の勇者でレベル2000ですよ!?」
「それは勇者だからだよ。さっきも言った通り無職はレベルが上がるのが早いの」
「だ、だってそれにしても――」
「ほら、ギルド着いたぞ」
いつの間にかギルドに着いていた。話すのに夢中になって気がつかなかったようだ。
「えぇ……まだ聞きたいことがあるんですけど」
「自己完結しておきなさい」
腑に落ちないような顔をしているヘキオンを尻目に、カエデはズカズカとギルドへ入っていった。ヘキオンもその後ろに着いていくのだった。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます