第4話 仕事は大変!

「1000えーん!1000えーん!1000えーん!!」


もはやスキップとは思えない速度で移動するヘキオン。


「暖かーい部屋!明るい場所!虫がいなーい!魔物に襲われなーい!美味しいパーン!!」


声からしてテンションが高まってる。周りの人達の視線を集めていることをヘキオンはわかってないようだ。


「はやく終わらせてお金貰おーー!」








街の外。名前はクサル広原。レベルが5~10ほどの魔物が出没する以外は普通の広原だ。


弱い魔物しか出ないので駆け出しの新人冒険者に人気の場所であり、人気の錬金素材が大量に集めることができる。今日は人がいないようだが。



「はやく〜♪はやく〜♪集めておっ金〜♪」


謎の歌を唄いながら地面に生えてる草をガサガサ漁っている。まるで小動物のようだ。


「これは――違う。これは――ん、違う」


青い草。赤い草。トゲトゲの草。丸い草。なんか振動してる草。ぷよぷよしてる草。


確かに草自体はかなりある。だがその中から特定の1つを見つけるのはかなり難しい。


特にグリーンハーブは雑草と似ているため間違えることが多い。それにグリーンハーブよりも雑草の方が数が多いので見つけるのはさらに難しいのだ。


「――ぁあ!もう!なんでこんなに雑草多いのー!おかしいよ!グリーンハーブなんてそこら辺の店で売られてるでしょー!」


またプンスコ怒り始めた。怒ったり、ビクビクしたり、嬉しそうにしたり、とかなり感情豊かだ。




「――やったァァ!!見つけた!!」


緑色の葉っぱが付いた植物を天に掲げて叫ぶ。少し時間がかかったが、まぁ無事に取れたようだ。


ハーブをバックに入れて立ち上がる。


「ふふーん♪はやく帰って1000円もーらお♪」


ヘキオンが陽気な鼻歌を歌い始めた時だった。








グルルルルルルルルゥゥ……。


何かが唸る声が聞こえた。一体だけじゃない。数体の声だ。ヘキオンも気がついたようで声のした方に体を向けた。



黒い体毛。銀色の牙。真っ赤な瞳。こちらの世界で言う狼のような生き物が複数でヘキオンのことを狙っていた。


この魔物の名前はウルフィー。ここら辺ではよく出没する魔物だ。


白い涎を垂らし、ヘキオンをまるで兎のような優しい草食動物のように思ってるのだろう。それは見当違いである。


「これは……やばいなぁ……さすがに同じ場所に留まりすぎた……」


冷や汗を1つ。流れ星のようにヘキオンの頬を流れた。


狼の数は3匹。後ろにはいない。ヘキオンは軽く後ろを見てそれを確認した。


「やるしかない……か」


両手を合わせた。拍手をするというよりも、ハエを叩き潰すかのように。強く、力強く。「パン」と空気がなる音を出した。


音に合わせるかのように青い気体のようなものがヘキオンの手から出てきた。青い気体は蛇のようにヘキオンの手に纏わりついてくる。


「ふぅぅ――ごめんね。まだまだ死ぬ訳には行かないから……!!」


ヘキオンが手をグッと握りしめた。青い気体はヘキオンの手の一点に集まり、圧縮される。まるで青い点のようにヘキオンの拳に引っ付いている。


まるで浮き輪の空気を抜くように。まるで風船の空気を抜くように。口から肺の空気を絞り出す。体の力を抜いて腕をブラつかせる。



「――はあ!!」


一喝の声と共に、青い点が炎のように手を覆った。しかしそれは炎ではない。炎とは逆の物。


手を滑らかに振り回し、構えた。総合格闘技のような構え。重心を低く、スタンスは広め。


その手からは蒼色の水が炎のように流れていた。




魔法。ネリオミアにおける超能力のようなもの。この世界では一般的に使われており、使用するには魔力が必要だ。


魔法には属性というものがある。

の7種類があり、それぞれに特徴がある。ちなみにヘキオンは水属性だ。


そこから派生した属性もあるが、ここでは紹介しない。とにかく魔法があるということを覚えていてくれたらいい。





狼とヘキオンが睨み合う。狼は呼吸すらも止めてヘキオンの隙を狙っている。


自分から行けばカウンターを食らって負けるのは狼でも分かる。狼側は人数有利。相手から来たら数で倒せる。


ヘキオンが狙うのはカウンター。まともに戦えば数の暴力で負ける。ならば狙うのはカウンターのみだ。見つけられたのはレベル6の魔物。運のいいことに弱い魔物だった。



まるで空気が固定されたかのような空間。風すらも止まっているようだ。


我慢比べ。先に動いた方が負け。両者それが分かっている。だから動かない。両者動かない。


しかし永遠に続くかと言われたらそれは無い。今回もそうだった。





先に動いたのは狼だった。


1匹の狼がヘキオンに飛びかかった。この時点。この時点でヘキオンの勝利が決まったようなものだ。この飛びかかりが勝敗を分けた。



流れるように狼の顔をヘキオンの左拳が打った。その威力に狼の歯が砕け、皮が波打つ。


その光景に怒りを覚えてか、それとも恐怖してからか。2匹の狼がヘキオンに飛びかかってきた。



ヘキオンは冷静だった。表情1つ変えない。呼吸も乱さない。


「ふッッ――」


狼の顎に掌底を入れた。歯が砕け、血と涎が混ざった液体が宙に舞う。


流れる水のように。石をするする抜ける川水の如く。滑らかに次の狼へ移動した。



手に纏っている水が足に覆われる。その炎のような水はヘキオンの動きに合わせるように空中に線を作っていった。


その線は綺麗な円を作った。円の線上にいた狼は深紅の血を空に舞わせていた。



「――はぁぁ……」


纏っていた水が空気に拡散する。疲労からか、緊張が解けたからか、ヘキオンの体が地面に落ちた。


「――怖かったァァァ!!」


半年間の旅で何度も命の危機はあった。それでも怖いものは怖いのだろう。そのおかげで強さも手に入れてるのだが。











続く

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