第3話 初めてのギルド!
「もう!もう!!もう!!!」
足をドタドタ鳴らしながら道を歩く。周りの人は特に興味もなさそうにヘキオンを通り過ぎて行っている。
「ちょっとくらい肉付いてたっていいじゃん!ちょっと生臭くなるだけでしょー!」
プンスコプンスコという幻聴が聞こえるかのようだ。その姿はまるで蒸気機関車。怒りの終着点は見えていない。
それというのも、分かっているかもしれないがヘキオンは金欠である。野宿が嫌すぎて宿屋に泊まりすぎた。最近の宿屋は割と高い。小銭稼ぎしてる少女程度のお金じゃあ長くは泊まれないのだ。
それでも半年もったのは、食費やらを節約していたからである。それでも限界はある。というわけでたまに野宿したり、人の家に泊めさせて貰ったりしているのだ。
「……これからどうしよ」
怒りが冷めて冷静になったようだ。フラフラと街を歩いている。お金の関係上、もう宿には泊まれない。
「……の、野宿かぁぁぁ」
頭を抱える。やはり綺麗なところで寝たいようだ。それは世界を旅する者としてはどうかと思うが。
一応街から街までの移動の途中で野宿はしてはいる。虫に刺されたり、魔物に襲われたりと散々な目にあってはいるが。
「……なんとかならないかなぁ〜」
ヘキオンはボーッと空を見上げながら歩いていた。
「……あっ」
ある店の前で立ち止まった。看板には『冒険者ギルド スタートタウン支部』と書かれてある。
「そういえばギルドって来たことなかったなぁ。なーんか怖いイメージあって入るのに躊躇するんだよね……」
ギルドというのは簡単に言うと仕事をくれるところだ。ギルドに提供された依頼を受けおって遂行する。簡単なやつなら報酬は安いが、危険なやつはそれに比例して報酬が高くなる。
このギルドでの依頼をメインに金を稼いでる人も多い。危険ではあるが、一気に金が入るからである。
「でもやっぱり挑戦することが大事だからね!」
こんなことを言ってるが、実際には金がないのでなりふり構ってられないだけだ。
扉を開けるとすぐに酒の匂いがヘキオンの鼻に突き刺さった。中ではジョッキに入ったビールをガブガブ飲んでいる筋骨隆々の男たちと、これまた筋骨隆々な女たちが飲めや騒げや大騒ぎしていた。
ヘキオンは追い詰められた兎のように小さくなって震えている。小柄なヘキオンにとってこういうところは恐怖の場所でしかないのだろう。
「――お嬢ちゃんどうかしたの?」
後ろから50代ほどの男に声をかけられた。変な声を出しながら飛び上がる。
「お父さんでも探しに来たのかい?ここは子供1人で来るようなところじゃないよ」
ビクビクしているヘキオンに優しく声をかけている。さすがに悪い人じゃないと分かったヘキオンは震えを止めながら話した。
「……い、いや。これでも一応冒険者でして……今日は仕事が欲しいなぁ〜って……」
「はぇ〜冒険者!ごめんねぇ、そんな風に見えなくて!じゃあカウンターの所まで案内してやるよ!」
「あ、ありがとうございます」
『クエスト受注所』。看板にはそう書かれてあった。看板の下には青い服を来た髪の長い女性が立っていた。
「よ!姉ちゃん!」
「また来たんですかぁ……私は酒盛りしませんよ。仕事が終わったらです」
「まぁそれもして欲しいんだけどよ、ほれ」
おじさんに背を叩かれる。
「……なに。誘拐でもしてきたの?」
「うるせぇこっちにはちゃんと家族がおるわ!――この子が仕事を探したいって言ってたから連れてきてやったんだよ」
「へぇあなたが……」
青服のお姉さんがヘキオンをじっと見つめている。ヘキオンは蛇に睨まれた蛙のように動かなくなっていた。
「……可愛い顔してるわね。名前は?」
「ヘキオンです……」
「いい名前。年齢は?」
「16です」
「てことは……まだ駆け出しの冒険者ってところね。レベルを教えてくれる?」
「14です」
ここで説明しておこう。レベルというのはネリオミアにおける強さの指標である。レベルが高ければ高いほど強いとされている。もちろんレベル差が大きいほど相手に勝てる確率は低くなっていく。
目安として
駆け出しの冒険者の平均レベルは10ほど
普通の冒険者は50ほど
熟練の冒険者は100を超えるくらい
戦いに特化した人で500くらい
人生を戦いに費やした人で1000に到達
伝説の勇者と呼ばれた人物でようやく2000
といったところだ。
「まぁ平均よりちょっと高いくらいかぁ……ギルドは初めて?」
「はい」
「それじゃあ――」
カウンターの下から1枚の紙を取り出した。その紙をヘキオンの前に差し出す。
「これは……?」
「今のあなたにピッタリなやつよ。簡単ですぐできて、お金もたくさん入ってくる」
紙には薬草の採取を依頼している内容が書かれてあった。薬草の名前はグリーンハーブ。ネリオミアでは一般的な薬草で錬金術にもよく使われてる。
しかしヘキオンの目に入ったのはそこではない。
「報酬……1000!?」
現在のヘキオンの全財産は800円。宿に泊まるには1500円が必要だ。つまり……宿にまた泊まれるということなのだ。
「どうする?受ける?」
「受けます!受けます!頑張らさせていただきます!!」
目をお金の形にしながらお姉さんに詰め寄っている。さっきまでビクビクしていたとは思えない。
「わ、分かった分かったから。とりあえず薬草を取ってきたらここに持ってきてね。そしたらお金を渡してあげるから」
「はい!頑張らさせていただきます!」
ヘキオンは依頼の紙を握りしめたまま、スキップでギルドから飛び出していった。
「……なんかよく分からない子ね」
「元気があっていいと思うがな」
残された2人はヘキオンが元気よく飛び出すのを静かに見ていた。
それと入れ違いになるように1人の男が扉を開けてギルドに入ってきた。黒髪の刈り上げで無精髭を生やした浮浪者にも見える男だ。小さいバックを肩にぶら下げている。
その男は周りを見ることなく、一直線にクエスト受注所へと歩いていった。
2人はその男を知っているようで特別驚いたような顔をしなかった。
「終わったのねカエデ。ちょうどあなたと同じくらいの年齢の子がクエストに行ったのよ」
「今すれ違った子?」
「そうだよ。面白い子だったし、お前と気が合うんじゃないか?」
カエデはおじさんの方をコツンと叩いた。
「ほら、これが依頼されてたウルフマンの毛皮だ」
小さいバックから、明らかにバックには収まるはずのないほど大きい毛皮をカウンターに置いた。
お姉さんは毛皮を片付けながらなにかに気がついたかのようにハッと体を揺らした。
「あ!やばい!」
「どうした?」
「さっきの女の子にここら辺で薬草を取らないように言うの忘れてた!!」
「なんで?」
「最近なぜか強い魔物がここら辺で湧いてるの!あの子のレベルじゃ倒せないようなヤツらが!」
お姉さんがアワアワとしている。
「……俺が言ってこようか?」
「え!?いいの!?お願いできる!?」
お姉さんがキラキラした目でカエデを見つめている。その目の光に目をくらましたのか、お姉さんと目を合わさないようにしている。
「すれ違いだったからすぐ追いつくだろ」
「そうだな」
カエデは頭をポリポリかきながらギルドの扉を開けた。
続く
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