音波攻撃!が出せるドラゴンを辞めるための受験

DITinoue(上楽竜文)

ドラゴンを辞める試験

 おれは、現代社会がだるくなって転生してきた中三の不良。

 この世の中は腐ってやがる。

 そう思って、この世の中を見限って異世界へやってきた。


 来た頃は普通の人間だったのだが、ドラゴンに憧れていたから、ドラゴンになれる試験を受けた。

 そして、あっさり受かった。テストの結果はあまりいいものなのか分からなかったが、受かってた。


 というわけで、俺は角がたくさんあって、鱗はゴールド、細い目をしていて赤いたてがみが馬のように生えている。そして、大きな翼から何か出せるというドラゴンの体を獲得したのだ。



 ――だが。

 そのドラゴンだが、まるで使い物にならないということが分かった。



 と、いうのもこの異世界はサバイバルだ。出会ったものとは、50%戦いになる。負けた方はどん底、と呼ばれる闇に突き落とされるらしいが、詳細は知らない。


 このドラゴンで戦ったことはまだない。というよりは、試しに色々やってみた結果、使えないということが分かったからだ。


 何が使えないか。

 翼も大きくて、飛行能力は最高。角がたくさん生えていて頭突きも最強。爪もしっかりあってひっかきも最強。で、たてがみで首を守ってある。


 なら、なにがダメなのか。それは……必殺技だ。

 戦い、特にドラゴンのような幻獣には必殺技があった方が言いだろう。スーパー火炎攻撃とか、氷を出すとか、なんかすげぇ必殺技を想像していた。なのに。


「このドラゴンは音波攻撃しかできねぇのかよ!!」

 音波攻撃は、その名の通り目に見えない音波を出す攻撃だ。それで、相手を撃ち落としていく。陸上の相手にも大きなダメージを与えることができる。音波が大きければ大きいほど、相手の目や耳、鼻に損傷を与える。その分エネルギーは使うが。

 まあ、それで何が不満なのか。答えはズバリ言うとこうだ。

 ――弱すぎるんだよ。


 そう、音波攻撃が弱すぎるのだ。なんの手違いがあったのか、音波はコウモリの音波を少し強めたくらいのもので、グリフォンとかの相手をやることは当然のこと、ウサギも倒すことができない。せいぜい、倒せるのは蠅や蟻、蛾だろう。



 だから、変えてくださいと言ったが、それならドラゴンの体を丸ごと返上しろと迫られてしまい、渋々このままでいることにしたのだ。



 そんなことが嫌になって、もうドラゴンを辞めたいと思って、どうにか方法を模索していたらあるチラシが目についた。

『何かがあっていまの幻獣の姿を辞めたい方は受けるべき! 幻獣辞す試験!』

 ――これだ。

 来た、と思ってチラシを何度も眺める。そして、写真を撮る。自分の目で。

『ダウンロード完了』

 ということで、早速受けるためのことを家に帰って『ぱーそなるこんぴゅーたー』で調べることにした。


 家に帰って調べると、様々なテストがあるらしい。確かなのは、多くが体力テストということだ。

「体力なら、大丈夫だろうな」

 そう思って、応募しちまった。



 試験当日。早速来たわけ。

 試験を受けるのは、二人だけだった。

 もう一人は、赤い鱗のいかにも強そうなやつだが・・・・・。

「それでは、これから試験を開始します」

 試験の先生とみられる、メガネをかけた科学者が言った。

「今回受けるのは、キョウミ君とトモキ君ですね」

 先に呼ばれたのが、俺だ。



「さて、それでは早速始めていくとしますか。この試験は体力テストです。結果を出す方法はあとでお知らせしますね。それでは、早速一つ目のテストをします。一つ目は、パワーです。お二人には砲丸投げをしてもらいます」

 砲丸投げってあれか。

「そして、ルールがあります。大空を思い切り飛びながら、既定の場所まで来て、思いっきり投げること。分かりましたか? 空を飛んでいる間には色んなものが襲い掛かってくるんで、しっかり倒していってくださいね。OK?」

「了解です」

「はい」


 そして、最初は、俺だ。

「よーい、スタート」

 俺は、大きな大きな翼をはためかせて大空へ舞い上がった。

 バサバサバサバサ

 早速、何かが襲い掛かってきた。鳥。サンダーバードだ。

 俺は、大きく翼をはためかせて、サンダーバードの首を目がけて急上昇した。そして、一気にサンダーバードの首と命を仕留めた。

 次に、グリフォンが飛んできた。だが、尻尾を一回払うとすぐに墜落していった。

 さらに、ペガサスが飛んできたが、頭突きを一回で逃げて行った。

 そして、最後にめっちゃデカいアンズー鳥が襲い掛かってきた。これには、さすがに少し手間取ったが、背後をついて足を引きちぎり、首に噛みつくと、さすがに引いていった。


 そして、既定の場所に着くと思いっきり砲丸を投げる。見えないところまで飛んでいった。


 相手のトモキもまあまあやったが、結果は俺が10の中で9、相手は10の中で7だった。



「それでは、次行きます。次の試験は鱗の硬さです。今から、あなたたちは……」

 試験官がそういう前に、すごく鋭いやりが飛んできた。他にも、刀、剣、くわ、矢など様々なものが飛んできたが、二人ともすべて跳ね返した。

「なんすか、ビックリするじゃん」

 トモキがそう言ったが、試験官たちはお構いなしに、俺らの体を調べてくる。

「それでは、第二試験完了です。成績が良かったのは、キョウミ君でした。あなた、良い体つきしてますね」

 あ、ありがとうございます・・・・・。



「第三試験は頭脳です。今から、フロストジャイアントという頭のいい怪人を攻略してもらいます。どちらが早く相手を倒せたかで判定を決めます」

 先行はトモキだ。

 トモキがフロストジャイアントを倒すと、もう一体出てきた。


「それでは、キョウミ君。準備は良いですか? よーい、スタート!」

 俺は、フロストジャイアントを攻略し始めた。

 フロストジャイアントは氷を司る怪人で、とても頭がいい。氷の剣を武器に、知略で陥れてくる。

 そんな怪人の弱点と言えば……そう、炎だ。

 だが、このままむやみに襲っても、ダメだ。

 だから、そんな時のために山が使える。背後にある山に、フロストジャイアントは雪崩を降らせた。そして、その雪崩の中に飛び込んで、身を隠した。

 ――こういう時こそ、奥の手だ。

 俺は、水を降らせた。山の上から、口から水を吐く。

 すると、雪は水と一緒に溶けて、流れて行ってしまう。そして、水に体が少し削られたフロストジャイアントがアワアワしながら現れる。そこに、炎を思いっきりはく。

 ――水にしても、炎にしても出せないわけではないが、勢いは強くない。

 だが、アワアワしている無防備なやつなら、十分破壊できる。

 あっさりフロストジャイアントは炎によって解けていった。



「さて、最後の試験です! 最終試験は……本気勝負ガチバトルです!」

「た、タイマンってこと?」

「そういうことになりますね。これで、全てが決まります!」

 うわ、弱いぞコレ。

 って思ったその矢先だった。

 ――それでは、良ーいスタート!

 ゴングの音が鳴る。

 相手のトモキの反応は早かった。

 尻尾で殴りつけて、次に翼を引きちぎられる。さらに、首元を噛まれ、腹もやられる。ああ、出血が止まらん。

 最後に、トモキの口からボワーと炎が噴き出してきた。

 せめてもと思って、弱小音波攻撃を出した。

 ボワワワワワワワ

 自分の体が丸焦げになった。力尽きるってこういうことなのだ。

 一方、トモキは目と耳を傷つけたようだ。

「音波、つえぇ」

 カーンカーンカーン

 お終い。三分足らずのガチバトルだったが、ガチも何も俺の完敗だった。


「それでは、成績は僅差でキョウミ君が勝利しましたが、バトルはトモキ君の完勝です」

 試験官が、興奮気味に結果を発表した。

 ああ、死んだわ。これなら、俺はこのままドラゴンか。受からなかったってことだから。

「よって、合格……というか、受かったのはキョウミ君! おめでとう! あなたは、ドラゴンを辞めることができます」

「……は? なんで」

 トモキはちゃんと理解しているようで、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

「え? 聴いていませんでしたか。この勝負は最終的なバトルで負けた方が、ドラゴンに見合う勝利ができない方ということで、ドラゴン失格になるわけです。ただ、完敗してしまった場合には一つだけペナルティーが付きますが、ね」

「アデュー、キョウミ。楽しかったぜ。もう会うことはないだろう」

 すると、キョウミの元に、すごい光が降ってきた。その時、俺は気を失った。



 起きたら、そこは公園のベンチだった。

 自分の家がすぐそばに見える。転生前に住んでいた家だ。

「あれ? 恭巳君じゃないの。久しぶり。どこにいたの? 心配してたんだよぉ……」

 彼女は――。

 俺が片思いをしていた陽菜ちゃんじゃないか。

「ああ。少し旅をしてきた。——ただいま」

「おかえり!!!!」

 陽菜は俺にギュッと抱き着いてきた。

 ――ウソ。

 これは、予想外だったが、キョウミは決めた。この世界で、せっかく再会した彼女と恋をしようと。キョウミには、現実世界がやっぱり楽しかった――。


(完)

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