第41話 おれとななえのその後


 教室に入り席につくと、さっそくマサヒロが近寄ってきた。


「雄大、おっハロー!」


「おう」


「なんだよ? つれないじゃん。朝の挨拶はおっハロー! だろ?」


「お……おう」


 マサヒロは最近話題のアニメキャラの挨拶を、頑なに推してくる。おれはやらないけどな。


 その時、教室のドアの方にまわりの生徒たちの注目がいった。ななえが入ってきたのだ。


 ななえは、何人かの女子生徒に囲まれながら、席についた。


 先日、席替えがあって、ななえとは席が離れた。それからはクラスで表立って会話はしていない。

 しょせん、スクールカーストの陰と陽。収まるところに収まったわけだ。


 学校ではほとんど会話はしていないが、たまに目が合う。その時はやはり嬉しかった。なんせ人気急上昇中の現役ティーンモデルだからな。



 なんてな……嘘だ。



 おれには、おれの中で揺るがない大事な人がいるからだ。

 これは言わなくても誰かわかるよな。


 おれが、ななえと会話していたことを恨めしく思っていたであろう一ノ瀬くんは、席替えの後は一切からんでこなくなった。


 彼とはたぶん友達になれないタイプだと思っていたが、向こうもそう判断したようだ。




 別にクラスメイト全員と仲良くする必要なんてない。


 おれには最高のダチが一人いる。それで十分だった。


 就業のチャイムがなると同時に俺は席を立った。最高の相方の元へダッシュで駆け寄り、肩を叩く。


「マサヒロ! この後アニメイト寄っていこうぜ!」


 マサヒロは、この世のものではない何かを見た表情をして振り返った。


「ゆ、雄大! なんだよいきなり! ビックリした〜!」


「なんだよ、いつもマサヒロもこうやって誘うだろ?」


「そうだけど、雄大がやってきたのは初めてだからさ、焦ったわ〜」


「たまには、な? いいから早く行こうぜ」


 殻を破っていつもと違うことをするのも、たまにはいいもんだ。


「おう、じゃ、じゃあさ! ついでに、タ、タピらない?」


「タピ……マサヒロ、それは古いぞ……」


「う、うるせー! ちょっと言って見たかったんだよ!」


 マサヒロが顔を真っ赤にして反論した。


「くうううぅ! 拙者恥ずか死ぬ……四宮氏のせいでござるからなぁ!」


 いつものマサヒロだった。


 この後結局、駅前のコンチャで軽くタピったおれたちは、それからアニメイトに寄って帰路についた。




 帰り道、いろいろなことを考えていた。


 おれの学校生活は、思っていたより充実しそうだ。入学当初からあんまり何も変わってないが、そんなものは自分の選択でどうとでもなるってわかったからもう大丈夫。


 それに家庭では、これまで通りの充実した生活が待っている。


 みなみとの暮らしを一番に選んだ俺は後悔なんてしていない。彼女はおれの大切な人なんだ。


 おれは、そんな彼女をそばで支え合い、共に楽しく、ときにはケンカもするかもしれないが、いっしょに人生を歩んでいきたいと思っている。




 家に着くなり、ドタバタとみなみが駆け寄ってきた。


「お兄ちゃん! 聞いて! 大変なの!」


 今度はなんだ。まったく……世話の焼ける、かわいい妹だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Vtuberの義妹と、クラスの美少女に同時に迫られて困っている 猫宮うたい @nekomiya_utai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ