第2話 ただの妹には興味ありません


 妹のみなみの代わりにVtuberとして配信することになったおれは、話題がなさすぎて得意のゲームの配信をすることにした。



『え、マ?マ?』

『かなたん、エポできるの』

『まさかのエポ初配信キターーー』



「えへへ〜、実は少しできるんだ〜」


 エポこと……ApoxLegendはリスナー界隈でも人気のゲームだ。食いつきがいい。


 今までも『美波かなた』はゲーム配信をやったことはあるが、『アニマルの森』などのほのぼの路線だった。


 『美波かなた』がエポのような対戦型のFPSゲームの配信を行うのは初めてだったので、コメント欄は大いに盛り上がった。


(さすがにおれのアカウントじゃマズイよな。新規で作るか)


 おれはさっそくアカウントを作り、『kanata373』というネームでプレイを始めた。


「登録完了♪、それじゃ、さっそくプレイしていきたいと思いま〜す!」



『よきよき』

『頑張れ〜』

『今北、かなたんまさかのエポやってるー!』



 エポはおれのやり込んでいるゲームだが、一応初心者っぽく振る舞うことにする。


 野良でマッチした二人の味方についていく。


「わからないので、味方の人についていきま〜す! あっ! 武器発見」



『かなたん、アニ森しか出来ないと思ってた』

『ちょ、かなたん。普通に動けてて草。ガチで初見?』

『普通に操作できてるのはすごいわ。若いからだろうなあ』



 しばらくして、建物内から出たところで敵と遭遇した。その瞬間クセで反応してしまい、つい反撃してしまった。


 バババババッ!


 結局、おれは無意識に敵を瞬殺してしまった。



『ちょ、かなたんつっよ!』

『鬼エイム、ヤバすぎるw』

『しっかり確キルしてたな笑』

『けっこうやり込んでるなw』



 初心者のフリをしようとしたのに、ついやってしまった。


「実は、ちょっとやってたの〜。えへへ〜」


 こうして、得意のエポの配信で場を繋いだおれは、リスナーを大いに沸かせながら、一時間の配信を終えた。




「お兄ちゃん、何考えてんの! いきなり何やってんの! ないないない!」


 配信が終わった後、おれが演じた『美波かなた』を途中から見ていたみなみは、激おこになって部屋に入ってきた。


「何って、エポだけど……」


「わたしエポなんかやったことないよ! なんで勝手なことするの!」


「すまん、場を持たせることができなくて、つい……」


「てか、お兄ちゃんいるってバラしてたよね。あれやばくない? どっちかっていうとあの暴露のほうがヤバいって!」


「それも、つい……配信って難しいんだな……」


「もお〜、どうすんの? またエポのリクエストきたら? わたしできないんだよ〜」


「作戦名、おれにまかせろ! 困った時は兄をたよれ! おれが明日から教えてやる!」


「そういう問題じゃない〜! キャラがブレるううぅぅ! わたしはほんわか愛され路線でいきたかったのに〜!」


「しゃーない。切り替えてこ! 最近視聴者も頭打ちになってたし、ここいらでガチゲーマー路線にするってのもありだぜ」


「もおおう! しょうがないにゃあ……。お兄ちゃん、ちゃんと優しく教えてよ? ね?」


 みなみはそう言いながら、おれの体にぎゅーっと抱きついてくる。


 優しく教えて? それはもちろんエポのことだよな。


 くっついてきたみなみの胸が、ふよふよと腕に当たっている。


(お、お、いつの間にかけっこう成長してるなあ)


 で、すくすくと成長した妹の体を見て、おれは嬉しくなった。


 いくら兄妹きょうだいだからって、年頃の女の柔らかい身体がくっついてくると意識せざるを得ない。


 薄手のTシャツのふくよかな胸元を見ながら、おれは自分に言い聞かせていた。


(見ちゃダメだ、見ちゃダメだ。見ちゃだめだ)



 ──なぜならみなみは、義妹いもうとだから。



「お兄ちゃん、今わたしの胸見てたでしょ?」


 みなみの意地悪な表情に、おれは思わず目をそらしながら言った。


「み、見てねえよ……」


「ふふ、ウソばっか。まあムリもないよね。だってわたしは義妹いもうとなんだから」


「っ!」


「見られてもいいよ? お兄ちゃんになら、見てほしい……///」


 みなみが真剣な目で言ってくる。おれは思わず目を逸らした。


「……。バカ言ってないで寝るぞ」


「バカは、お兄ちゃんじゃん……見たいくせに」


 みなみは、ボソッとそう言って部屋から出て行った。




 四宮しのみやみなみ、彼女はおれの義妹いもうと。一歳年下で中学三年生になったばかり。


 おれの最近の楽しみは、妹のみなみのライブに付き合って成長を見守ること。それで満足していたはずだった。




 そして、おれの名前は四宮雄大ゆうだい


 高校一年生になったばかりの陰キャのおれは、青春を謳歌する高校生活とは無縁だと思っていた。


 しかし、まさかそのようなことに悩まされることになるとは、この時のおれは想像もしていなかった。

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