3章 新学期編

最後の夏休み

1

 新学期が始まる一週間前。

 私たちOutside Judgment(略してosj)は逆風くんの家のスタジオに集まった。

 一月ぶりくらいの私たちだけど、久しぶりに会うのと、私服のせいか印象が少し変わった。逆風くんは前髪を少し切ったせいか、左目が若干見えそうだ。黒のポロシャツに緑のチノパンが様になっている。

 結晶くんは少しやせたかもしれない。ワイシャツから出る二の腕が細くて、青い血管が見える。でも、顔つきは以前より凛として、眼鏡が小さくなって目に鋭さが増した。

 みちるちゃんはバンドを意識しているのか少年っぽい格好。髪は短く、黄緑色のキャップ帽にバンドシャツとショートパンツを着ている。

 最果先生はボーダーシャツにジーパン。すごくラフだけど、服の上から盛り上がった筋肉が見える。忙しいのか顎髭が伸びていた。

かくいう私は、長距離をやめたこともあって髪を伸ばした。セミロングまではいかないけど後髪が首筋まである。正直、これ以上伸ばすか迷う。久しぶりに逆風くんに会うので、おもわずワンピースで来てしまった。

 空気読まなかったかな?


 そんな私たちは軽く挨拶を済ませると、すぐさま演奏の準備をする。一月前とオーラがまったく違う。楽器を手にする姿に熱がこもっている。仲間のはずが、それぞれ敵意むき出しているかのように、鋭い音を出している。

 チューニングする私だが、正直、みんなの、殺意に近い熱量に圧倒された。

 私だって朝の9時から深夜一一時まで猛練習した。負けてない、はずだ。

 きょうセッションするのは『Outside run』だ。夏休み中、私と逆風くんは密に連絡を取り、完成にこぎつけた。メロディラインは私、そのほかは逆風くんが作ったが――作詞作曲は私らしい。なんて恥ずかしいんだろう。

 ちなみにこの曲に限り、私はvocalのみになっている。


 マイクスタンドを通して声をだす。

 水色みたいな、クリアでぎらついた自分の声が、スピーカーから聴こえる。

 逆風くんは私の声を「月みたいだ」と表現したけど、正直私にはわからない。

 自分で作ったのもなんだが、高音をだすのが難しくて、身体全部で斜め上に自分の分身みたいなのを飛び出さなきゃならなかった。

 それぞれの調整が済むと、ドラムの椅子から立ち上がった最果先生が私たちの前に来た。

「まずは、せっかくの休日を君たちのために潰して集まれたことを感謝したい」

 でた。最果先生の痛烈な皮肉だ。

「まだ学校始まってないのに、教師は休みじゃないんですか?」

 結晶くんがもっともらしい質問をする。

「君たちと違って社会人は忙しいんだ。作らなきゃいけない資料や、授業のための勉強もする必要がある」

「そこまでいうなら、セッションは新学期からでいいだろ」

 逆風くんがいうと、

「どうせ君たちは私抜きで集まるんだろう。顧問を無視すれば退部だ。それに、新学期になってからだと学園祭のステージ参加は間に合わない。まあ、一か月練習したところで、生徒に見せれるレベルではないだろうが」


 またそんな煽って。横目でみんなをみると、表情を眉や口元をひくつかせている。

 かくいう頭沸騰しているけどね!

「口先だけなら誰でも言える。先生こそ足を引っ張るな」

「君の減らず口をいつか閉じてみせたいね」

「それはこっちの台詞だ」

 まったく。逆風くんと先生は、ほんとに仲がいいのか悪いのか……。

 妬くぞこの!

「あーあー」ついマイクで割って入る。「それじゃあ一回通すけどいいですか?」

「わかった。最初は君たちの演奏が止まっても最後までいくから、覚悟しておけ」

「お手柔らかにお願いします」

 グランドピアノを前に涼しげに笑う結晶くん。

「舐めないで」

 みちるちゃんは鋭い口調で返し、帽子をかぶり直す。

「あんたが納得するレベルなら飯おごってもらうからな」

 逆風くんが悠然とギターを構える。


 私といえば、初めてのフルで心臓がドキドキする。ギターとボイス練習を交互にしていたけど、実際みんなの演奏で合わせることはなかった。私が描いたメロディラインは絶対の自信があるし、それを土台から構築し綺麗に飾った逆風くんの作曲は、一転の曇りもないほど完璧に仕上がっている。

「ではいくよ」

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