ドライヤー

おれは燈子のことを愛している。


彼女の柔らかい手に取られたおれはスイッチを入れられることで

彼女への行為を許可される。

だからおれはスイッチを入れられると興奮のあまり、

があーーーと、大きな叫び声を上げてしまうのだ。


女の命といわれている艶やかで、黒く長い髪。

それにおれの電熱線で温められた気体が

触れて、潜って、絡まり、抜けていく。

じっとりと濡れた彼女の髪はおれの吐息のおんどによってこともなく熱を帯び、

はらりとおれに身を委ねてくる。

ほろほろと乾いた彼女の髪はおれの吐息のちからによってこともなく縁取られ、

破廉恥に舞い上がる。


風呂上がりの上気した白い肌を、おれの吐息が撫でる。

女らしい滑らかな曲線。もちもちとした肌。

おれの興奮はいっこうに収まらない。

ぷるんとして愛らしい腕のゼリー地帯のうえを、すこしだけ出ていてだらしない腹の丘のうえを、ときにはへその落とし穴に寄り道をして、ごがああああああああああと、おれの雄々しい叫びが駆け抜ける。


彼女の肌に実る水滴の果実。

おれはこいつらを片っ端からいじめていくのが好きだ。

おれの吐息がまてまてと水滴を追うと、

水滴はいやよいやよと逃げ、

おれの熱さに耐えかねて消えてしまうか、

床にぽとりと逃げ出てみっともない円い模様をつくる。

生まれたばかりの果実が、こんなおれに殺されるなんて。

なんと哀れなことだろう。


見たか諸君。これがおれの特権なのだ。

あは、あはははははは。


かなしいかな。

おれはコンセントに挿してもらわないとおまんまさえ食えねえ。

彼女はおれに見切りをつけていつでも捨てることができるが、

スイッチを押されてしまったらおれは彼女に逆らえない。

そういった意味でおれは彼女に依存している。

彼女なしではおれは存在できない。

だから彼女を愛している。

だからおれは考える。

おれは送風機として彼女に使われているのではなく、彼女を犯していると。

そうでないと悲しいからだ、悔しいからだ。


今のおれの夢は、

燈子の全身を、細胞ひとつひとつにバラして、燈子のかわいいかわいい細胞と細胞のあいだを、おれの吐息によってなめまわすことである。


聞いたか諸君。これがおれの野望なのだ。

あは、あはははははは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幻想・性的快楽 小澤怠惰 @yuzu_tea

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ