短編「エイリアンイーター」

来賀 玲

***





 ────太平洋に落ちた隕石はヤツらの巣だった。


 黒く光る体表、恐ろしい俊敏性、高い攻撃力を持つ醜悪な姿。


 地球外生命体は、ある日突然現れて、

 人類に牙を剥いたのだった。


 核の使用は、その住処が海の近くであったが故に有効ではなく、水路を利用して瞬く間にアメリカをはじめとした主要な国の沿岸に襲いかかり、人々は内陸へ逃げざるを得なかった。


 僅か数ヶ月で奴らはその数を減らした人類と取って代わるほど増やし、


 いよいよ日本にも魔の手を伸ばした。


 決死の戦いが始まったが、誰もが、あのアメリカを敗北寸前まで追い込んだ怪物に勝てるとは思っていなかった。


 島国、日本。

 逃げ場はどこにも無い。


 奴らとの戦いは苛烈さを増した。

 武器は足りず、もはや素手やそこら辺の物で戦うようになるまで時間はかからなかった。

 もはや不眠不休で飯を食う暇もない。

 そんな絶望的な戦いだった。




 今際の瞬間、地球外生命体の醜悪な身体に噛みついてまで戦うような人間も出るような有様だった……






「あれ?」




 そう、最初に噛み付いた日本の勇敢な戦士は気づいてしまった。




「生でも結構イケるなコレ。

 臭みがない……あー醤油ほしいな」




 地球外生命体の肉質は、程よく臭みも薄い。


 そして、イノシン酸とグルタミン酸という旨味成分が豊富だった。





 ────反撃が始まったのはすぐだった。


 その手には、肉厚な包丁、ナタ、鍋にフライパン、おたまを握り、


 弾薬の代わりに醤油、みりん、みそ、油……その他諸々の調味料を携えた。


 津波のような数の地球外生命体は、その凶悪な身体を3枚に下され、食べやすいサイズ、あるいは満足のサイズになるまで極東の人類の手によって切り分けられていく。


 家族を失った怒りを炎に変え、残された家族のために鉄板でヤツらを焼いて喰らった。


 ニンニク醤油か、トマトソースと一緒に食べる勝利の味が口に広がる。


 奴らの凶悪な意志を宿す頭部は必ず切り落とされ、

 寸胴鍋に叩き込まれ煮込まれた。


 地球外生命体の晒し首から取れる出汁は、味噌汁にすると戦いで疲れ果てた戦士達の体に染み渡る美味しさと豊富なオルニチンにより魂を癒した。


 やがて調理道具を超える数の死骸が出来上がる。


 奴らの巣に近づく冷たさに耐え、新鮮なうちに捌いた肉を刺身にしてわさび、酢、醤油、たまにポン酢で喰いながら主に極東の人類は奴らの巣の目の前へと戦線を押し広げた。


 内部は死闘だった。

 奴らの幼体は生体と違い小回りが効き、ぽよぽよの手足のない身体で集団で襲いかかってくる。


 巣の攻略に用意された油に放り込み素揚げに、

 あるいは持ってきた衣に着けて唐揚げや竜田揚げにしてなんとか最奥部を目指して喰う。


 悪魔のような見た目のそれは、ほどよく水々しい肉質でジューシーな揚げ物にとても良く合った。


 そして、とうとう地球外生命体の巣の最奥部にたどり着いた。


 無数の卵。孵化をまつ物たち。

 やはり生でもイケた上に塩漬けにしたいと思うのも束の間、とうとう現れた。



 ソイツは、すぐに、巣を破って地上に出てきた。


 10mはある巨体、より禍々しくなった頭部に生える王冠のような突起。

 そしてたっぷりと卵の詰まった腹。



 間違いない。


 女王クイーンだ。



 地球外生命体全てに母、統率者にして最強の個体。

 咆哮を上げるソイツを見て、流石の主に極東の島国の人類は固唾を飲む。



「なんてデカさだ……!!

 百人前……いや、1000人前は行くぞ!!!」




 最後の調理たたかいが始まった。


 しかし、人の力ではもはやどうにもならないサイズだった。

 この包丁じゃ捌ききれない。鍋には収まらない。



「くそぉ……!これまでか!!」






「いんや!こっからだべ!!」





 しかし、主に極東の東北に住んでいる人間たちには最終兵器があった。



 唸るエンジン。駆動するモーターの潤滑油はサラダ油。

 二つの特殊アームを携えた、大型双頭重機がキャタピラを唸らせてやってきた。


 飛びかかる怪獣そのものの女王クイーン、器用な操作でぶん殴る双頭重機。

 首をへし折らんばかりに押さえつけ、近づいたお手製の槍でその首を刺し血抜き。


 そして、とどめに女王の首を切り落とす。





 こうして、主に極東に住む人類は勝利した。



 女王の腹の卵は解体され酢漬けにされて、半分の卵はロシア義勇兵の提案でウォッカと一緒に食べた。

 勝利の美酒は程よい塩気と共に最高のものとなった。


 今、勝利宣言するスピーチの背後で、巨大双頭重機は女王の首を出汁にして作る芋煮を混ぜている。


 戦いは終わった。

 勝利の芋煮は具の中身で東北県民達で殴り合いの喧嘩はあったが、些細なことだ。


 こうして、地球外生命体は倒され、地球の平和は守られて、皆は満腹になった。



 しかし、果たしてこれが最後の地球外生命体なのだろうか?

 いずれまた、第2第3の奴らが現れるかもしれない……








「そんときはさ……俺、炊いたごはんとネギに味噌を持ってくるんだ」


「なんでだ?」


「なめろうにして食べたい」









           完食

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短編「エイリアンイーター」 来賀 玲 @Gojulas_modoki

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