第16話 今度会えたら……(1/2)

「起きなさーい! 飛行機日和びよりの朝よ」


 アンジュの声で、レオと学は目を開けた。まくら元でアンジュが自分たちをのぞきこんでいるのが見えた。久しぶりにつなぎを着ていた。かみの毛が、朝日にらされてキラキラしていた。

「よかった。外は晴れてるんだね」

ながら言うな!」


 レオたちは夜中に組み立てを終えたあと、作業場の奥の部屋で横になっていたのだった。レオと学はアンジュにけとばされて起き上がると、彼女かのじょを連れて作業場に行った。

 飛行機は、ボンドをかわかすためつくえの上に置かれていた。どこもゆがんだり取れたりせずに、バッチリ決まっていた。

 それにゴムをセットして、出来上がり。

「いよいよだ」


 じいちゃんが朝ご飯にんでくれた。気のはやる3人は、せきに着くとばくばくかきこむ。

「もっと落ち着いて食べろ」

 そう言いながらじいちゃんがのんびりとお茶を入れる。夏なのに、湯のみに熱いのが注がれる。フーフーしてもなかなか飲めない。食卓には、朝のニュースが流れている。


『次は今日の天気です』


 天気予報よほうは、明日の夜、レオたちの所にあらしが来ることをげた。

「大丈夫かな」

 ふと不安がよぎった。

 目の前のアンジュはもう今にも消えそうなほどうすくなっている。今日はぜっっったいに、失敗しっぱいできない。

「嵐の影響えいきょうはまだ出ないはずだ。よかったよ、今日のうちに送り出せそうで」

 レオの不安をき飛ばすように学が言った。アンジュもまったく心配なさそうにすまして言う。

「そーよそーよ。言ったでしょ。今日は飛行機日和だって」


 外に出ると太陽がじりじりとはだいた。今日も暑くなりそうだ。


 アンジュの飛行機は、じいちゃんちにある材料ざいりょうとはちがうもので作られていたから、設計図せっけいず通りに作るわけにはいかなかった。きのうまでレオは気がついていなかったけど、材料の重さや強度がちがうから同じように作っても同じようにちゃんと空を飛ぶものにはならないのだ。じいちゃんが組み立て前に気づいてくれて、知恵ちえや手をたくさんしてくれた。


 だから最終チェックは、じいちゃんの見ている前ですることにした。レオは工場の前の道で機体のバランスを確かめると、そっと下に向けて手をはなした。放たれた飛行機は、地面ぎりぎりをスーッと遠くまで進んでいく。その姿すがたを見て、じいちゃんはうれしそうに笑った。


「行ってきます!」

 自転車にまたがるレオと学。通りにだれもいないのを確認かくにんして、カバンからアンジュが顔を出す。

「おじいちゃん、色々ありがとう! 元気でね!」

 アンジュはじいちゃんに手をふった。じいちゃんはアンジュをはげますように、うんうんとうなずいた。3人はじいちゃんに見送られながら、緑が池公園へと出発した。


 公園に入り、広場に向かう道を走る。道のとなりは森なので、町中よりひんやりしている。いつもはこのすずしさを気持ちがいいと思うのに、レオはなぜか心細く感じた。でも森をはなれて広場に出るとそこはしっかり暑くて、これはまちがいなく飛行機日和だとレオの心は軽くなった。

 カバンからアンジュを出す。このカバンは7つ道具の入れ物なのに、いつの間にかすっかりアンジュの乗り物になっていた。それも今日で最後だ。


 アンジュがコックピットに乗りこみ、ゴーグルつきのヘルメットをかぶった。出会った時と同じ姿だ。向こうがけているところだけは、あの日とはちがうけれど。


「これまでぼくの冗談じょうだんに笑ってくれてありがとう。最後に面白いのを決めたかったんだが、きのうからいいのが思いつかなくて」

 トラブル続きで、ネタを考える余裕よゆうのないままお別れの時が来てしまった。さみしいのと残念ざんねんなのとで、学はがっくりしている。

りしてる……)

 アンジュはぷぷっとき出すと、学に手をふった。

「学! 最後までありがとう! 学のおかげで、とっても楽しかったよ!」


 それからアンジュはレオの方に顔を向けた。レオは次は自分にお別れを言ってもらえる番だと思い、アンジュの目を見てかしこまった。

「レオ!」

 何を言われるんだろう。ドキドキドキドキ……。

「ゴム巻いてよ!」

 ズコッ。


 思わずずっこけたレオ。アンジュがきょとんとして「どうしたの?」と問いかける。

「いや、何でもない。ゴムを巻くんだね! 了解だよ!」

「それから今日のテイクオフ(飛び立つこと)のカウントは、わたしにさせて。どうやらわたし、あなたたちより風を読むのが得意とくいみたいだから」

 アンジュは自信満々にむねる。

「オッケー」

 レオはうなずき、学と2人でゴムを目いっぱい巻いた。


「よし、準備じゅんびOK!」

 その言葉に、アンジュは姿勢しせいを正してまっすぐ前を向いた。飛び立つタイミングを見計らおうと、風向きに集中する。

いよいよ出発だ。

「機首をあと15度東に向けて」

 アンジュの指示に、レオは向かい風へと機体の向きを合わせる。


「――5!」

 小さく軽やかな声が、空へとひびいた。レオは足をんばり、機体をななめ上に向けてかまえた。

「4、3、2、1――」

 飛行機を持つレオの手に力がこもる。心臓しんぞうがドキドキしてくる。


「0!」

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