ゾッとした話

うにどん

本編

 山下(仮名)さんは雑居ビルのオーナーをしつつ何でも屋を営んでいる変わった人で何でも屋という特殊な仕事をしているからか割と怪談めいた経験をすることがあるらしい。

 これは久しぶりに一緒に飲みに行ったとき、その山下さんから聞いた話だ。


 山下さんはある日、知り合いであるAさんとその娘さんから依頼を受けた。


 ストーカーを受けている娘の引っ越しを手伝ってほしいというものだった。


 Aさんの娘さんは専門学校卒業後、希望先の仕事に必要な資格の勉強をしながら事務系の派遣社員として働いていて、ストーカーは派遣先で出会った既婚者の男性社員。

 その男は既婚者のくせに派遣社員の女性に手を出すような浮気男らしく、男はAさんの娘さんに初対面にも関わらず馴れ馴れしく「食事、行かない?」と誘ってきたという。娘さんは初対面なのに馴れ馴れしく食事に誘われたのが癪に障り、キッパリとその場で断ったそうだ。

 だけど、そのせいで執着され、ストーカー化。

 派遣期間中は帰りに駅まで尾行してくる程度だったから派遣期間が終われば終わると思っていた。期間終了後、ストーカー行為は終わるどころか激しくなった、何処からか連絡先と今済んでいるマンションの住所を手に入れたらしく本格的に悩まされることに。

 普通なら警察に行くべきと思うのだが、そんな中でも娘さんは資格に合格、夢だった仕事に就職していた。それで娘さんはストーカーの件が警察に行ったことで仕事先にバレたらクビになるのではと考え怖くて行けなかったそうだ。

 だから、ストーカーにバレないように引っ越しをすることにしたという訳だ。


 山下さんは知り合いの依頼というのもあるが依頼された仕事は犯罪ではないなら引き受けるスタンスだ、もちろん、依頼を了承。

 でも、流石にストーカーにバレないようにするというのは難しいと考え、ストーカー対策をしている知り合いの引っ越し業者に協力を依頼、そして、Aさんの娘さんを周りにバレないように引っ越しをさせる事に成功した。


 それから一ヶ月後。

 ある一人の男、スーツ姿の何処にでも居るような中年の男が昼間に訊ねてきて、ある人を探していると言ってきた。


 ある人というのはAさんの娘さんだった。


 当然、山下さんは断った。

 この男が例のストーカーだと判断したからだ。

 適当に理由を付けて人探しの依頼は断っていると言って断ったが、男は私と探し人は恋人なんですとデタラメな事を言って依頼を通そうとした。

 内心、娘さんの怯える姿を見ている山下さんは怒りで男を怒鳴りつけたい衝動に駆られていたが冷静に断り続け、一時間ぐらい経ったところで男は山下さんが絶対に頷かないと理解すると解りましたと帰って行き、男が帰っていく姿を見て、怒りに任せずに応対した自分を褒めたそうだ。


 その夜、山下さんは何でも屋の事務所で書類整理をしていた。

 だが、昼間の男との件で疲れたのか睡魔に襲われ、そのまま眠ってしまったという。


──ガサ、ガサ・・・・・・。


 耳に何か探る音が聞こえ、音の原因を探る為に目を覚ますと。


 影のような黒い人間のようなものが机に覆い被さるように何かを探していた。


 山下さんは目の前に光景に恐怖を感じ、うわぁっ!! と悲鳴を上げると黒い人間のようなものは顔を上げた。


 黒い人間の顔、その顔は昼間に来たストーカーの男の顔だった。


 突然の事に山下さんは喋ることが出来ず黒い人間を見ていると黒い人間はニヤリと笑いながら、スーと消えていった。


 翌日、夜の出来事から、ストーカーが自分の所に来た事をAさんに話したがその後はどうなったか山下さんは解らないという。

 だけど、山下さんに話しは来ないという事は無事なんだろうと山下さんはそう考えている。


 ストーカーが山下さんが引っ越し先を知っていると解って接触してきたのはどうかは解らないが、山下さんの態度を見て知っていると確信を持ったのかもしれない。

 だから、あんな姿で山下さんの前に現われたのかもと話すと。


「色々とゾッとした事は体験したが、これが一番ゾッとしたかもしれん。やっぱり、生きてる人間が一番怖い!」


 と豪快に笑いながらそう締めくくった。

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