2nd-Key「FRIEND」

(プロローグ)心象風景・序 

 久しぶりに、夢を見た。


 いつもと同じ。何も無い空間。

 けれど今日は、白くない。

 暗い。暗い。以前とはまるで違う、黒のセカイ。

 目に映る景色は全て、晴天とはほど遠い、終わらない暗闇。


「……ああ、もう、いいや」


 そうだ。もう全部、どうでもよくなった。

 大切なものは、なくなった。

 やっと見つけた生きる理由も、失ってしまった。

 だったら、ずっとこうしていればいい。目を閉じて、夢の暗闇に引きこもっていればいい。なに、簡単さ。昔からずっと、そうだったじゃないか。


 望むから、苦しむ。

 求めるから、傷つく。


 理想はいずれ、全て現実に塗り替えられる。

 希望の光は、すぐに闇の中へ消えてしまう。


「レ、イ……」


 痛みに引き裂かれ、この胸は、君を呼ぶ。

 君といた時は見えた、一条の光。

 けれどもう、今は見えなくなった。

 そのまばゆい思い出は、軌跡の上で輝くけれど。

 その輝きを思い出すと、孤独が頬を濡らしてくる。


 だから、もう。そんな悲しい光は、封じ込めてしまおう。

 あの優しい、羽の音のような愛は。

 すれ違う意識の中、手が触れた記憶は。

 すべて幻だったと、諦めよう。


 ぜんぶ、ぜんぶ、諦めればいい。こうして、じっとしていればいい。何もしていない私が世界を変えるなんて、最初からおかしかったんだ。私は主人公なんかじゃない。死にかけの羽虫のように、時が過ぎるのを待てばいい。


「ああ。なのに、どうして」


 ──ピリリリリ。

 心を叩く、音がする。

 ──ピリリリリ。

 目が覚めるような、音がする。

 ──ピリリリリ。

 私を呼ぶ、音がする。


「なん、で……」


 諦めたがっている心を無視して、身体は勝手に動き出す。

 その先に何も無いと分かった上で、足は歩みを再開する。

 重い。重い。踵がすり減りそうなほどに、重い足取りで。


「なんで、なんで、どうして……!」


 封じ込めたはずの悲しい光が、前へ、前へ、と。私の影を伸ばそうとする。

自分でもワケが分からずに、身体は新たな光を求めて、彷徨っている。


 現実を断絶する、黒い夢の果て。意味も無く迷う、その刹那。

 境界の彼方から、ソレは鐘のように鳴り響く。


『実は学ぶのにとっておきの場所があるんですけど、ご存じですか?』


 そんな。いつの日か聞いた、暖かい誰かのコエ。

 やがて優しい音は、終わらない暗闇を照らして。


『──ガッコウって言うんですけど』 


 私の手を引く、光となった。

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光速反転ホライズン Taike @Taikee

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